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295 獣王武闘会 元相棒
しおりを挟む「こんばんわ、『元』パートナーの先輩。『現』パートナーの洲本芽衣です」
ない胸を反らし、やたらと元だの現だのを強調するタヌキ娘。
「やぁ、尾白さんの『元』相棒の人。あたいは『現』チームメイトの弧斗羅美だ」
ある胸を反らし、これまた元だの現だのを誇張するトラ女。
「……これはこれはご丁寧に。桜花探偵事務所、東京本社に所属している伽草奏です。以後、お見知りおきを」
初対面にもかかわらず妙に突っかかってくる二人に対して、分け目のないショートボブカットの若い女は、終始大人の対応にて名刺を差し出す。
ネイビー色のシャープなスーツはおそらくオーダーメイド。ジャケットの下に着ている淡いピンクのカッターシャツとのコントラストが絶妙。先の尖った濃紺色のパンプスは機能性のみならずしっかりトータルコーディネートの一助となっている。身に着けているアクセサリー類は左手首に光る金のブレスレットのみ。
都会のオフィス街が良く似合うキャリアウーマン。いかにも仕事がデキる女といった風情。
そこにかつての面影は微塵もない。
◇
伽草奏(とぎぐさかなで)。
尾白探偵事務所の旗揚げ時に在籍していた初代助手。当時彼女はまだ大学生だったものの、持前の積極性や商才にておおいに貢献してくれた。
しかし諸事情にてうちを抜けて同業他社である桜花探偵事務所へと移籍。おれと彼女は袂を分かつことになる。
べつにケンカ別れをしたわけじゃない。互いに抱えている背景がちがい、守るべきもの、必要とするものがちがっただけのこと。
だというのに……、どうしてこうなった?
おれは困惑を隠せない。
赤鬼の魔の手をようやく脱したとおもったら、かつての相棒から「ひさしぶり」と声をかけられた。
「すっかり見ちがえたな、カナデ。もう立派な大人の女性だ」
「そこはウソでも『キレイになった』とか『よく似合ってる』って褒めるところでしょうに。尾白さんは……あんまり変わってないわね」
「まぁな。あいもかわらず高月の地でのんびりやらせてもらっているよ」
「のんびりと、ねえ。そのわりにはこっちの耳にまで武勇伝が届いているんだけど」
「あー、いや、まぁ、ほとんど不可抗力っていうか、巻き込まれたっていうか」
多少の自覚はあるのでおれはしどろもどろ。
そんなこちらに胡乱そうな目を向けてくるカナデ。
たまらずおれは早々に話題を変える。
「こっちのことはどうでもいいんだよ。それよりもカナデの方はどうなんだ? オヤジさんの会社は? あとおふくろさんの具合も」
「あー、うん。私の方もまぁそれなりに、かな」
どうにも歯切れの悪い返事。それからほんの一瞬、彼女の顔に浮かんだ翳りが気になったおれはもう少し突っ込んで話を聞き出そうとするも、そのタイミングでうしろからクイクイと袖を引かれる。
ふり返れば芽衣とトラ美と零号たち。
タヌキ娘から「挨拶したいから紹介して」と言われ素直に従ったところ、なぜだか三人の間がおかしな空気に……。
「あれ? なんでいきなりピリピリムードなんだよ」
おれが戸惑っていると、零号が「そりゃあ元カノの登場に、周囲は穏やかじゃいられませんよ」とぼそり。
「元カノって、何をかんちがいしていやがる。カナデはあくまで初代助手であって」
「あー、ハイハイ。そういうのはけっこうですので」
「けっこうって……。っていうか、芽衣が同じ助手としてムダに対抗意識を燃やしているのはわからんでもないが、なんでトラ美までムキになってるんだよ?」
「………………ハァ」
ネコ耳メイドロボから深いため息をつかれた。超科学の子にはまだまだおれが知らない機能が満載のようである。
零号の反応に、おれはますます困惑。
そんな零号なのだが、さっきから小型ビデオカメラを回しっぱなし。前夜祭のパーティー会場を撮影しておいてくれと、おれが渡したもの。
なのだが、なぜだかレンズを向けているのは芽衣とトラ美とカナデたち。
「あのう、零号さんや。そのカメラは会場に怪しいヤツがまぎれ込んでいないか、あとでチェックするために頼んだものなんだが」
「それは重々承知しています。ですが尾白さん、こんな面白珍場面を前にしてカメラを向けないだなんて、そんなもったいないことはできません。それに私は同じ機械仕掛けだからわかるのです。いまこの子はアレを撮りたがっている。同胞として私はそのささやかな願いを叶えてあげたい」
「……」
火花ばちばちの女たち。
その姿を嬉々として撮影するロボ娘。
もう一度言おう。
どうしてこうなった?
おれはそっとこの場を離れ、ふたたび壁の花へと戻ることにする。
◇
悪目立ちした壁の花。
そこに見知った顔がちらほら挨拶にやってくる。
奈良はシカ王国屈指の名家、鹿島家の紗月(さつき)。
そんな美貌のご令嬢に影日向となり付き従うメイド、宇陀小路瑪瑙(うだのこうじめのう)。
ペット業界を中心に各方面に多大な影響力を有する猫守グループ。近い将来これを率いることになっている八海山白雪(はっかいさんしらゆき)と猫守三華(ねこかみみけ)のコンビ。
ここまでは賓客として招かれた面々。
他には大会の警備に駆り出されている安倍野京香(あべのきょうか)。
大会に出場する出灰桔梗(いずりはききょう)は、彼女が所属する裏千社チームのメンバーを連れて。みんなキツネにて狐崑九尾羅刃拳(ここんきゅうびらじんけん)の同門にして姉弟子たち。高月南高校では白薔薇の君と呼ばれ羨望の的である桔梗だが、それに負けず劣らずの艶やかな美形ぞろい。おかげで彼女たちのいるところだけパッと華が咲いたよう。
おもわずおれが鼻の下をのばしていると、「いつぞやは」と声をかけてきたのは野武士集団のような格好のネコとイヌたち。
だれかとおもえばわんにゃん運動会で活躍していた、宮本めざしや佐々木アルフォートであった。彼らは卓越した武芸の持ち主。此度は真剣での立ち合いとなるから、こちらもよほど気を引き締めてかからないと。
優勝候補である姫路アニマルキングダムからの選抜チーム。これを率いるゴリラ拳闘士の佐藤晋太郎(さとうしんたろう)は、こちらの事情も知っているのであえて近寄ってくることなく軽く会釈するのみ。
かくしてあらかた会場にて見知った連中との挨拶を終えたおれであったが、最後に近寄ってきた集団には首をかしげることになる。
揃いの黒マントに白仮面姿。
見るからに怪しげな格好をした者どもを率いていたのは女。
いきなり距離を詰めてきて、手を差し出し「やぁ」と親しげに声をかけてくる。くぐもった声は変声機によるマシンボイス。
ますますもって奇怪な。
これにはおれも怪訝顔となる。すると女は仮面に手をかけ、少しばかりずらして口元をさらす。
とたんに聞き覚えのある声になり「ごめんごめん」
オコジョくのいち、かげり姉さん登場。いきなりメインターゲットから接触。
不意打ちを喰らっておれは「げげっ!」のけ反らずにはいられない。
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