おじろよんぱく、何者?

月芝

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269 四人目のメンバー

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 獣王武闘会の開催は一か月後。
 だからいったん解散となったのだが、トラ美は「悪い、帰りは電車を使ってくれ。あたいはこのまま修行場に向かう。今回はいろいろ不覚をとったことだし、ちょいと気合いを入れて鍛え直してくるよ」とサッサと行ってしまった。

 ブロロロロ……。
 颯爽と遠ざかる大型バイク。
 これを見送ってからおれと芽衣も高月へと帰還することにした。
 途中、駅で立ち食いそば屋に寄って小腹を満たす。

『京の都に行けば阪急そばをすすり、播磨国にくれば姫路そばを食べずに帰ることなかれ』

 これはおれが自身に課している厳しい探偵の掟。
 ちなみに姫路そばとは、和風出汁に中華麺をぶちこんだ名物。
 かしわ天(トリの天ぷら)とのコラボは至福の時を与えてくれる。

  ◇

 ピーク時をはずしているのでガラガラの店内。
 立ち食いカウンターにて二人。肩を並べ、ズルズル麺をすすりながら。

「しっかしトラ美のヤツ、めちゃくちゃ燃えてたな。やっぱり武人の血が騒ぐのかねえ」
「ですよね。とはいえ気持ちはわかります。負けたら悔しいですから」
「おや、芽衣もそうなのか?」
「そりゃそうですよ四伯おじさん、モグモグ。おっ、このトリの天ぷら、胸肉なのにやわらかくて、とってもジューシーで美味しいです」
「仕込みに塩こうじとか使ってるらしいぞ。ところでお前はどうするんだ?」

 どうするとは大会までの残された時間の過ごし方。
 ゴリラ拳闘士・佐藤晋太郎は姫路アニマルキングダムの代表チームを率いて大会に参戦するという。
 他にも選りすぐりの猛者が集う、激戦必至の獣王武闘会。
 トーナメントの組み合わせ次第ではリベンジの機会もあるかもしれない。
 しかし今のまま挑んで、はたして勝ち抜けられるかどうか。

「問題はトーナメント形式なんですよねえ。勝てば勝つほどに連戦となりますから。しかもあとになるほどきつくなるんです」

 でも出場するからには優勝を目指したいと明言する芽衣。
 そのために必要なのは着実なパワーアップ。
 すなわち修行である。

「はぁーっ」魂がひょっこり顔を出しそうなほどの深いタメ息をついたタヌキ娘。「これはやっぱり今度の連休、実家に帰っておばあちゃんに稽古をつけてもらうしかありませんね」

 身長も胸元もピクリとも変化がみられないが、数多の猛者どもとの戦いを経て、武人として大きく成長している芽衣。それは間近で見てきたおれが断言できる。
 タヌキ娘は緑鬼とも互角に渡り合った。だというのに、それでもなお立ち向かうのに躊躇を覚える相手。
 それが洲本葵という老怪。
 棺桶に片足をつっこんでいるような状態でコレ。お肌ぴっちぴちの全盛期を想像するだに空恐ろしいものがある。

「いやだなぁ、しんどいなぁ、気が重いなぁ」

 割り箸の先でお揚げさんをじゃぶじゃぶ出汁に浸す芽衣。早くもウツウツしている。
 見かねたおれは自分の鉢からかしわ天をつまむと、芽衣の鉢に放り込む。

「まぁ、アレだ。なんていうか……とりあえずそれでも喰って元気だせ」

 すると芽衣がこっちを見上げて瞳を潤ませる。

「お揚げもください」

 同情心につけ込み、おれの鉢からまんまとかしわ天とお揚げさんを奪取したタヌキ娘。
 おかげでおれは麺のみとなった素姫路そばを食べるハメになった。
 ちくしょう。七味唐辛子がやたらとノドにしみやがるぜ。

  ◇

 大会を前にして。
 とりあえずチームのメンバーが一人足りない。
 そこで頼りになりそうな助っ人に、おれは声をかけたのだが……。

「悪いな四伯。あいにくと大会警護の応援要員に呼ばれちまったからムリだ。他を当たってくれ。あとおまえたちにもひと口賭けておくから、せいぜいがんばってくれよ」

 とはカラス女の不良刑事、安倍野京香(あべのきょうか)。
 今回の大会は官民一体で行われるらしい。思っていた以上に大事になっていることを知って、おれはドキドキ。

「あー、ごめん。芽衣にも言ったんだけど、その日はちょうど親戚の法事があって」

 とはヘビ娘の白妙幸(しろたえみゆき)。
 金髪リーゼントのヤンキー娘は、見た目に反してちゃんと学校にも通い、家の手伝いもこなし、弟を溺愛しつつ、ケンカ上等かかってこいや!
 だから親戚の集まりとかにもきちんと顔を出す。大会には興味あるが、弟やら親戚の子どもたちの面倒をみなくちゃいけないからとのこと。

「せっかくお声をかけてくださったのにすみません、尾白さん。じつは裏千社からの指示でキツネ族からも出場することになりまして。若輩ながらそちらの末席に加わることになってしまい……」

 とはキツネ娘の出灰桔梗(いずりはききょう)。
 ペコペコなんども頭を下げる才媛。「どうせ出場するのなら芽衣さんやタエさんトラ美さんらといっしょに出たかったですわ、あぁ」と心底悔しそう。
 ちなみに裏千社(うらせんじゃ)とは、京の都は伏見稲荷に居を構える組織。
 高位の稲荷を上位に置き、キツネどもを従えている。とはいっても支配しているのではなくて、加護を与えて、かわいがっているので互助会の側面が強い。
 基本的には俗世には野次馬根性だけであまり関与しない。ただし怒らせたら怖い。全国津々浦の稲荷が牙をむく。

 おれは他にも宇陀小路瑪瑙(うだのこうじめのう)、根津甚五郎左衛門丈正親(ねずじんごろうさえもんのじょうまさちか)にも声をかけたが色よい返事はもらえず。

「すみません。大会ゲストとして招待されている紗月お嬢さまに付き添わなければいけませんので」と瑪瑙。
「仲間たちをおいて里を離れるわけには」と根津。

  ◇

 目ぼしい人材に片っ端から声をかけるも、よもやの全滅。
 さりとて適当に頭数だけそろえても意味がない。なんとしてもおれまで勝敗を持ち越さずに試合を決せられる実力者が必要。

「あーあ、他に誰かいたかなぁ」

 背中を丸めてトボトボ。
 途方に暮れ、おれが馴染みの高月中央商店街を歩いていると。

「おや、尾白さんじゃないですか。いつにもましてのシケシケの面持ち。パチンコですりましたか? それとも競馬ではずしましたか? もしくはヘンな病気を伝染されましたか?」

 淡々とした調子で辛辣な言葉を並べたのは、古書店「知恵の森」にて住み込みで働いているネコ耳メイド型アニマルロボット零号。
 おれの身を心配しているのかディスっているのか、判断に迷うところだが……。
 ロボ娘を前にしておれはかくかくしかじか。ダメ元で事情を説明し拝み倒してみると、意外にもあっさり「いいですよ」との返事。
 よし! 四人目のメンバーをついにゲットしたぜ。

 おいおい、獣王武闘会はあくまでケモノたちの祭典。
 ロボットなんかを参加させてもいいのかよ?
 問題ない。だって規約には「ロボ娘はダメ」とはなかったはずだから。
 もしも物言いがついたら、そのときには「この子はおれの武器だ」と言い張るつもり。
 老若男女、無手得手を問わず。
 それが本大会の醍醐味でもあるのだから、きっと大丈夫なはず。


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