おじろよんぱく、何者?

月芝

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257 あぁ、憧れのタンデムシート

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 夜の高速道路を西へ。
 建ち並ぶ高層ビルディング。メトロポリス然とした煌びやかな都心部を抜けると、道路照明灯の数がぐんと減った。
 たちまち周囲の闇が勢いを増し、視界がグッと狭まる。
 前方を照らすヘッドライト。それを頼りに腹の底に響く爆音を鳴らしながら疾走するのは、ロードキングの名を冠するハーレー。
 唸る二輪の鉄騎にまたがるのはドレス姿の弧斗羅美。スカートの裾をはためかせ、おみ足が大胆にチラチラしているも気にしない。

「えっ、飲酒運転? あんなの飲んだうちに入らねえよ。でも良い子は絶対にマネしちゃダメ!」

 そんな彼女の腰にひしとしがみついているのは制服姿の洲本芽衣。
 古き良き少女マンガのど定番。乙女憧れのシチュエーション。オートバイの二人乗りであるタンデムシート。
 だが実際に見るとやるのとではおおちがい。
 しんどい、キツイ、こわい、口に飛び込んでくる虫、暴風、と快適にはほど遠い。
 これではラブではなくてラフである。

 芽衣のスカートの裾もパタパタ大暴れ。
 しかし心配ご無用。運動用の三分丈黒スパッツを履いており、秘密の花園はしっかり守っている。

「トラ美さん、トラ美さん。四伯おじさんをさらった連中、どうやら山陽姫路東のインターチェンジで高速を降りたみたい」

 うしろにいる芽衣の言葉にうなづいた羅美が、返事代わりにアクセルをぶるんと噴かす。
 とたんにマシンがクンっと加速。前方にいたシルバーの乗用車を追い越す。
 梅田から最寄りのインターより新名神高速道路に入った二人。神戸ジャンクションを経由して山陽自動車道へ。
 そこから三十分とはかからず姫路東に到着、一般道へと降りる。
 追跡アプリによれば、尾白四伯はここから少し山の方へと向かった方面に連れさられた模様。

 ◇

 サファリパーク・姫路アニマルキングダム。
 施設正面にある入退場ゲートにてバイクを停めたトラ美。いったんエンジンを切る。
 時刻は二十三時少し前。
 とっくに閉園時間なので当然ながらシャッターが下りており、しぃんと静まり返っている。

「ちっ、やっぱりここだったか。西国方面と聞いてそんな気がしてたんだよ」

 ヘルメットのフェイスシールドをあげたトラ美、入場口をにらみながら舌打ち。
 ここは姫路白峰のホームグラウンド。連れ込んでしまえば、あとはどうとでもなる。

「姫路白峰、姫路アニマルキングダム……。もしかしてあの人ってば本当に王子さまだったの!」

 符合の一致におどろくタヌキ娘だが「ちがうちがう」とトラ美は手を振り即座にこれを否定。
 姫路アニマルキングダムの頭の二文字は地名由来のもの。
 ホワイトタイガー白峰くんの実家である苗字は、さらにそこからのおさがり。
 希少種の看板動物ゆえに、姫路姓を名乗ることを初代園長に許された形。
 園とは蜜月の関係にて相応の影響力を持つが、さりとて王族というわけじゃない。

「そのへんがちょっとややこしいんだけどね。まぁ、トラ業界の中ではけっこう名が通った家柄ってことは確かさ。うちのお母さんが余計なことをたくらんだときに、よもやそんなめんどくさいところの家の息子が手を挙げるとは夢にも思っていなかったらしくってね」

 いつまでたってもの男友達の一人も紹介しない長女。
 これに業を煮やした母深月。だから多少強引にお見合いをさせてでも、自分が女であることと異性の存在を意識させようと考えたが、おもわぬ大物がパクリと喰いついた。
 ぶっちゃけ、たくらんだ当人が「やべー、アジでよかったのに、どうしていきなりマグロがヒットするのよ!」と頭を抱えたとかいないとか。
 今回の騒動の発端となった事情を説明し、トラ美は「もっともアレを大物と言っていいのかどうかはわからないけど」と肩をすくめた。
 これには姫路白峰という男を間近で観察した芽衣も「あー、たしかに」とうなづきつつ。

「で、どうしようかトラ美さん。四伯おじさんの反応は園のだいぶ奥の方みたいだし。そこの非常ボタンを押して係の人を呼んじゃう?」
「いや、それはマズイぞ芽衣。あくまで内輪で、動物界隈の問題として処理しないと。最悪、園全体に累がおよぶ。本来ならば迷惑をかけられた側のあたいたちがそこまで気をつかう必要はない、と言いたいところだがここには大勢の同胞たちが勤めているからな」
「なるほど。ほんのひと握りの阿呆どものせいで、連帯責任とかはちょっと気の毒かも」
「だろう? ここには個人的な顔見知りもいるし、仕事関係で世話になった人もいる。今後のつき合いを考えるとあまり無茶はできない……となれば、あっちから入るしかないか」
「どこかほかに進入路があるの?」
「あぁ、たしかここには動物たちが使っている専用の通用門があったはずだ。よし、そっちに向かうぞ」

 ふたたびエンジンをつけたトラ美はその場で後輪を滑らす。白煙をあげアスファルトに黒いタイヤ痕を刻みつつターンを決めると、心当たりのある場所へとバイクを走らせた。


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