おじろよんぱく、何者?

月芝

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 一夜の祭典わんにゃん運動会。
 いろいろあったが今年は白組のネコたちが勝利。
 終わってからしばらくの間、芽衣がムクれていた。
 おれが大将役の赤カブトを網浜樹理衛にあげたせいで、騎馬合戦の特別賞である北海道旅行を逃したからだ。

「どうせ赤カブトをあげるんだったら、わたしにくれたらよかったのに」
「熱々BLバカップルなんて放っておいても勝手にあちこち旅行に行くのに」
「あーあ、函館山からのロマンチックな夜景が見たかったなぁ」

 商店街にある旅行代理店から貰ってきた北海道ツアーのパンフレットを眺めながら、これ見よがしにグチグチ嫌味を言われてめちゃくちゃ鬱陶しかった。
 だがそれも山里露実雄と網浜樹理衛らが旅先からお土産を送ってくれたおかげで解消された。
 ダンボールいっぱいの北海道スイーツ詰め合わせでケロリと機嫌が治るタヌキ娘。
 だったら手近な兎梅デパートか亀松百貨店でたまにやってる北海道フェアでよかったのでは? あと夜景だったら神戸ので間に合ってるだろう。
 とか思わなくもないが口には出さないでおく。

  ◇

 忙しいときはやたらと依頼が重なって忙しいし、ヒマなときにはしこたまヒマになる。
 それが探偵業。
 今日も世間のどこかではこの瞬間にも大小さまざまな事件が起きているはず。
 だからとて必ずしも依頼になるわけでもなく、ましてや我が尾白探偵事務所に頼むわけでもない。
 ここのところ平穏が続いている。
 どうやら休閑期に入ったようだ。
 と、油断していたところに机の上に投げ出してあるパカパカガラケーがぶるぶる震えた。
 着信相手は弧斗羅美ことトラ美である。以前に緑鬼とモメたときに世話になって以来だから、しばらくぶり。

「もしもし」
「あーよかった、つながって」

 挨拶もなくかぶせ気味のトラ美。なにやらあわてている様子に「何かあったのか?」と問えば「悪い。ちょっとやっかいなことになってるんだ。ぜひとも尾白さんのチカラを貸してくれ」とのこと。
 彼女にはいろいろと世話になっている、手を貸すのもやぶさかではない。

「かまわんぞ。ちょうど仕事も入ってないし」
「ありがとう、恩にきる。それでさっそくで悪いんだけど、すぐに梅田にあるホテルまで来てほしい。詳細はこっちに着いてから話す」

 言うだけ言って電話を切ったトラ美。
 いつになく狼狽えた彼女の態度におれは首をひねる。
 滅爛虎慄紅武爪術(めらんこりっくぶそうじゅつ)の遣い手にして、剛力無双を誇る女タイガー。鬼の群れの中に嬉々として飛び込むようなタフな女からの救援要請。
 これはただ事ではないのかもしれない。
 おれはすぐに漬け込んだオリーブ色をした愛用のジャケットを羽織ると、事務所を出る。
 高月の駅へと向かう道すがら、高校にいる芽衣に電話をかけるもつながらない。授業中か。しようがないのでおれは留守電にメッセージを残しておく。もしも荒事になればタヌキ娘のチカラがきっと必要になるはずだ。

  ◇

 高月の地は大坂と京都の狭間に位置している。
 だからどちらに行くにも電車一本、ほんの三十分もかからない。
 そのわりにおれはあまりどちらにも顔を出さない。
 なぜって、なわばりじゃないからだ。
 動物の習性というほどでもないが、おれは用事がないのに方々をふらふらするのはあまり好まない。移動時間があればテリトリー内にてのんびり過ごす方がいい。
 芽衣によれば「四伯おじさんは、根っからのものぐさなんです」とのこと。
 まぁ、否定はしない。

 指定されたホテルはなかなかの老舗で、そこそこ有名で豪奢なところ。
 煌びやかな一階ロビーに入ったところで、小走りで駆けてくる女の姿が目に入った。ピンクパールの光沢あるフラワーレースのワンピースを着た大柄な女性。カラーフォーマルドレスがよく似合っており華がある。うーん、外国のモデルさんとかかな。
 ホテルの滞在客だと思ったので道を譲ろうとするも、彼女が「尾白さん」とおれの名前を呼んだものだから「えっ」となる。
 よくよく見てみれば、それは弧斗羅美であった。
 髪もきちんと結わえてあるし、化粧もしてある。いつものぴっちりライダースーツや、ジーンズに革ジャン姿とはちがって、じつに女らしい格好をしているのでちっともわからなかった。

「その、あの、あんまりジロジロ見ないでくれ。なんだか恥ずかしい」

 モジモジ照れるトラ美に、おれはハッして「ごめんごめん。いや、驚いた。あんまりキレイだったから誰だかわからなかったよ」と頭をぼりぼり。「たいした化けっぷりだ」と続けそうになった言葉はググっとこらえて、どうにか飲み込む。

「っと、ところでやっかいなことって何があったんだ? ずいぶんとあわてているみたいだったが」
「あっ、そうだった。こうしちゃいられない。とにかくついてきてくれ」

 おれの腕と掴んだトラ美がグイグイと引っ張っていき、そのままエレベーターへといっしょに乗り込むことになる。
 彼女が押したボタンは最上階。
 たしかここには展望レストランがあったとおもったが……。
 あっ、急上昇にて耳がつーんとする。


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