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049 羅城門の鬼タヌキ
しおりを挟むタヌキが歩くときみたいにかわいくお尻をふりふり、蛇行するモンスタートラック。
けれども周囲にいた者たちにとって、それは地獄の鬼が嬉々として金棒を振り回すのに等しき所業。
触れたクルマはドッカンバッコンと吹き飛ばされ、「ピャッ」「キャン」と鳴いてはシカたちの化け術がとけてしまう。
圧倒的質量の暴威が吹き荒れる。
罵詈雑言と阿鼻叫喚はツーンと無視して聞こえないフリ。勢いのままに南へと真っ直ぐにのびる朱雀大路を突き進む。
そして羅城門あとの左折ポイントが見えてきたところで、おれが化けたモンスタートラックは、道をふさぐようにデーンと横に路上駐車
明確にして遠慮も容赦もない進路妨害。
えっ、良心の呵責? はっはっはっ、残念だったな。あいにくとおれの辞書にそんな上等な言葉はない。
連中にやられたことをさらにえげつなくやり返す。
そんな混乱のさなかに集団から飛び出したのは、安倍野京香がハンドルを握る黒鉄の幽霊。
タイミングを見計らって芽衣がギアをリバースに入れた。
コンテナトラックはピーピーピーとバックして、前方に空間が開く。
すかさず通り抜けた黒鉄の幽霊。ブルンとアクセルを吹かせたのは、感謝の印か。
そしてコンテナトラックの門はふたたび閉じる。
すぐさま高い位置にある運転席からぴょこんと飛びおりた芽衣。背負っていたリュックの中身を「ていやっ」と景気よく周囲にぶちまけた。
バラまかれたのは大量のトゲトゲ、マキビシである。
鹿島紗月から派遣されたデキる大人のステキメイド宇陀小路瑪瑙(うだのこうじめのう)さん。彼女に「タイヤをパンクさせたいから大量のクギが欲しい」と頼んでみたら「でしたらコチラなどはいかがでしょうか」とオススメされて用意してくれた品。
うーん。しかしこんなシロモノをいったいどこから入手したのやら。もしかしたら彼女の正体はクノイチなのかもしれない。
ではどうしてそんな悪辣な手段を用意していたのかというと。
はなからまともなレース展開になんぞはどう転んでもなるまい。
そう考えたとき、ポンとおれさまひらめく。
「あれ? よくよく考えたらバカ正直にシカどもの駆けっこ競争につき合う義理はねえや。まぁ、相手の出方次第だけど……」
どうせしようもない手を打ってくるのであれば、こちらも負けじとしようもない手で応酬してやろう。うんうん、それがいい、そうしよう。いっそのことレースそのものをぶち壊してしまえば、葛父子の陰謀の阻止もかなって万々歳か。
するとそのとき芽衣がコテンと小首をかしげたものである。
「どうしてわざわざ先手を譲るんですか、四伯おじさん? どうせやるのなら先にやったもの勝ちです」
ケンカは先手必勝。真剣勝負であれば、いかに先に己の刃の切っ先を相手の体に当てるかにこそ苦心すべき。あと敵の土俵で戦うのは愚か者のすること。
などなど、真顔でぺらぺら。
なんという武闘派思考。芽衣の師匠である葵のバアさんは自分の孫娘をいったいどうしたいのであろうか?
華やかなシティガールに憧れて淡路島を飛び出し、微妙な高月の地にまでやってきたタヌキ娘。
自分がどんどん理想から遠ざかっていることに、はたして気がついているのだろうか。
まぁ、おもしろいから黙っておこう。ケケケケ。
で、芽衣の意見はごもっとも。
というわけで現在の状況とあいなった次第である。
◇
後続をあらかた巻き込んで走行不能にしたおれと芽衣。
当然ながら足止めを喰らった連中は、自分たちがしたことを棚にあげての大激怒。
かといって前方にはデデンとおれが化けているコンテナトラック、路面には大量のマキビシ。クルマの姿ではどうにもならないので、いったん化け術をといて人間の姿となる。そして足下に気をつけながら一斉に駆け出した。
「てめえ、ふざけんな!」「とっととどきやがれっ!」「かまわねえ、やっちまえっ!」
徒歩にて強行突破をはかる面々。
だがそれを許さないのが、黒髪おかっぱ頭のちんまいタヌキ娘。
芽衣は横を通り抜けようとした者の脇腹を蹴り飛ばし、殴りかかってきた者をカウンターで沈め、体格差にて抑えこもうとする輩を逆に跳ねのけ投げ飛ばす。
ためらいのない踏み込み、躊躇のない拳が急所を容赦なくえぐり痛めつける。
ぽこぽこ量産されるパンダ顔のシカたち。
千切っては投げ千切っては投げ。八面六臂の大活躍。
興奮した羅城門の鬼タヌキが吠える。
「今夜はわっしょいジビエ祭じゃーっ!」
その発言にこの場に集ったすべてのシカたちが「ひぃいいぃぃぃ」とふるえあがったのは言うまでもあるまい。
しかし芽衣よ。おまえはいささかかんちがいをしている。
ジビエは狩猟によって捕獲された鳥獣を料理して食すことであって、けっしてシカ肉を喰らうことではないんだぞ。
そしてどうやらこのまま楽勝とはいかないらしい。
猛る羅城門の鬼タヌキの前に、のっそりと姿をあらわしたのは黒のライダースーツ姿のトラ女。
孤斗羅美がざんばら髪をかきあげて、ニヤリと不敵に笑う。
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