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026 秘密の集会
しおりを挟むとんでもない現場を目撃してしまったおれたち。
いろいろとおもうところはあるが。
……よし、とりあえず通報しておくか。
そして怪しい集団が警官たちとわちゃわちゃしているどさくさにまぎれて九官鳥を奪取してとんずらしよう、そうしよう。
素早く方針を決めたおれはジャケットの内ポケットから愛機のガラケーをとりだし、すちゃっとスタイリッシュにパカン。
が、そのパカンがおもいのほかに大きな音を立ててしまう。げげっ!
とたんにガヤガヤしていた黒のローブ集団がピタリと黙る。
おそるおそる顔を向ければ、全員がこっちを向いていた。うちの一人が声を発する。
「そこに隠れているやつ、とっとと出てきな。さもないと」
さもないと……。
いったいどうするつもりなのか?
もしや危険な武器でも所持しているというのか、まさか銃!
ごくりとおれはツバを呑み込む。
ちらりと見れば芽衣はいつでも飛び出せるように、スーハ―と呼吸を整えている。
おれは物陰に隠れたままで「さもないと、どうするつもりだ」とたずねた。
すると返ってきたのはこんな言葉。
「さもないと、こいつがどうなっても知らないよ」
くそっ、どうやら九官鳥を人質にとられたようだ。
しかしどうしておれたちの狙いがあの鳥だとバレたのだろう。
もしやどこからか情報が漏れているのか? しかしそこまでされる理由がわからない。まさかあのトリ、おれたちが知らないだけでとんでもない秘密を抱えているのか。あるいは依頼人にいっぱい喰わされたのかもしれない。
「どうします、四伯おじさん。七人ぐらいならばいっきに制圧可能ですが」
芽衣の耳打ちにおれは首をふる。
「ダメだ。こんなところで暴れたらプリぺーラ・オンブレが巻き込まれてケガをしかねない。悔しいがいまは連中に従おう」
「……わかりました」
おれは両手をあげて物陰よりゆっくりと姿をみせる。芽衣もそれに続いた。
◇
得たいの知れない黒のローブ集団。
その代表とおぼしき者が問いかけてくる。
「あんたはどこの誰なんだい。どうしてこんなところにいる?」
おや、こちらの正体を知らないのか。だったどうして……。
違和感を感じつつもおれはそれを臆面にも出さずに、問われるまま素直に答える。
「おれは尾白四伯、しがない探偵さ。で、こっちのちんまいのは助手だ。ここにきたのはちょいと野暮用でね」
すると連中がざわざわ。
「探偵だって?」「もしや嫁の誰かが!」「山田さんのところじゃないのかい?」「あのケチケチ女がそんなことするもんか」「だったら大川さんのところかも」「あー」「そういえば前に旦那の浮気調査をしたとか」「えっ、それって旦那が嫁の浮気調査をしたんじゃなかったの」「ちがうちがう、嫁の浮気相手の奥さんが」「あれ? そうだっけか」「うーん」
聞こえてくる連中の話を耳にしておれの中の違和感がさらに大きくなった。
何やらお互いの認識に重大な齟齬があるような気がする。
違和感の正体を探るためにおれはこちらから話しかけてみる。
「えーと、とりあえずみなさんは何者?」
そうしたらまたしてもピタリと一斉に口をつぐんだ面々。
続けて「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」と不気味な笑い声。
「あたいたちが何者かだって? よかろう、ならば教えてやる。我らは」
ここでバサリと黒いローブをひるがえし、じっくりタメてから七人が同時に言い放つ。
「姥桜反逆同盟」「大器晩成花月団」「呪嫁結社松竹梅」「老花七悔会」「美魔女クルセイダース」「華の第十一期組」「対嫁戦線運命共同体」
ものの見事に全員の言ってることがバラバラ。
あまりのことにおれはあんぐり。芽衣は「えー」とあきれ顔。
そしておれたちをそっちのけにて、モメ始める黒いローブの集団。
「こら、この前の会合で姥桜反逆同盟に決まったじゃないか」
「あれはそっちが勝手に決めただけじゃないか。大器晩成花月団にすべきだ!」
「いいや、そんな生ぬるい表現ではダメだね。呪嫁結社松竹梅こそが最良」
「いやだよ、いまどき松竹梅とか信じらんない。老花七悔会こそがふさわしい」
「ださっ。ハイカラさがぜんぜん足りない。美魔女クルセイダースこそがジャスティス」
「なんでもかんでも横文字にすればいいってもんじゃない。ここは華の第一期組にしようじゃないか。らららららー」
「やめろ、ヘタクソ。耳が腐る。おまえたち、いまは戦時下だ。だからこそ対嫁戦線運命共同体と名乗るべきなり!」
黒づくめたちの議論が次第にヒートアップ。いまにも取っ組み合いのケンカがはじまりそう。
うーん。話のはしばしからして、どうやら嫁にたいそう不満を抱えている姑の集団らしいとは察するも、これ以上つついたらややこしいことになりそう。
まぁ、それはともかくとしてこの集団……。
とても凶悪な武器とかを所持しているようには見えないんだが。
それにこれなら楽勝そうな気がする。連中がモメているうちに制圧しちまうか。
おれが目配せすると芽衣がコクンとうなづき、一歩前へ。
だがしかし、目敏くそれをみとがめられてしまう。
「おい、待ちな。さっきのアレはおどしじゃないよ。ふざけたマネをすればどうなるかわかってんだろうね」
「止まれ、芽衣。くそ、いったいどうなるってんだ」
「どうなるかだって? こうなるのさ」
おれとやりとりをしていた黒いローブ。いきなり自分の近くにいた仲間の一人を抱き寄せる。
「おとなしくしないと、こいつがぽっくり逝っても知らないよ。なにせ先月、心臓のカテーテル手術をやりたてほやほやだからねえ」
よもやの自分の味方を人質にしての脅迫っ!
おれはアゴがはずれるかとおもうほどに、びっくらこいた。
そして芽衣は目玉が飛び出さんほどに、びっくらこいている。
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