おじろよんぱく、何者?

月芝

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021 一番目の男

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 自分の事務所にて、花伝オーナーから渡されたメモにあった番号に電話をかけたらすぐにつながった。
 今回の依頼人は栗原正蔵(くりはらしょうぞう)。市内の会社に勤めるサラリーマン。
 依頼内容は逃げ出したペットの九官鳥を探すこと。
 なお逃げた九官鳥の名前はプリぺーラ・オンブレという。
 なんでも奥さんが溺愛しているわりには、ちっとも世話をしないそうで。
 おっさんがしぶしぶエサを与えたり、水をかえたり、カゴの中の掃除とかをしていたらしいのだが、その際にうっかり逃がしてしまったとのこと。
 これに奥さん大激怒。
 自分のことは棚にあげて「見つけるまで、帰ってくんな!」
 だから依頼人は足を棒にして方々を探してみたのだがどうしても見つからない。
 そして日が暮れてトボトボ家に帰ったら、ドアにはチェーンロックがかかっており入れなくなっていた。
 以来、本当に家を追い出されてしまい、駅前のカプセルホテルで寝起きをしている。
 奥さんは頑なにて口も聞いてもらえないそうで、どうにも困り果てているんだとか。
 受話器の向こうからでも漂う哀愁。
 おれは必要な情報を聞き出し「やれるだけやってみる」と伝え電話を切った。

  ◇

 探し求めるターゲットはツバサを持ったやっかいなトリ。
 しかし九官鳥は珍しい。
 大きさは三十センチ程度。光沢のある黒い体。オレンジのくちばし。眼下から後頭部にかけての黄色い肉垂れ。
 素人でも見分けられるほどに特徴が満載。
 そして何よりベラベラしゃべる。
 もしもどこかで遭遇したら十人中十人が忘れることはないだろうから、目撃証言にはことかかないとにらんだ。
 加えて行動範囲はしれている。運が良ければまだ市内にいる可能性が高い。

「おい、芽衣。ところで学校はどうした? まさかサボリか?」
「失礼な。実力テストで半ドンだって前にいいましたよね」
「テスト? あー、そういえばなんか聞いたような……」

 探偵事務所を出たおれと芽衣が向かうのは、駅向こうにある神社。
 この近隣では一番大きな神社で、天神さんを祀っているところ。
 ちなみに天神ってのは学問の神さま菅原道真のことだ。
 おかげで受験シーズンともなればけっこう賑わっているけど、ふだんは閑散として落ち着いた雰囲気の場所。

「どうして天神さんに?」との芽衣からの質問には「ショーンに会うためだ」とおれは答える。

 ショーン。
 本名、六助。情報屋をしているアナグマ。

「六助なんてダサい。おれのことはショーンと呼べ」

 とやかましいから、しかたなくそう呼んでやっている。
 しかし六助がダサいのは同意だが、どうしてショーンがカッコイイと思っているのかはわからない。
 で、こいつは仕事はそこそこ出来るのだが、巫女さん好きが高じて神社裏の鎮守の森に住み着いている変態だ。

 天神さんは高月の駅の北口を出て、右手に兎梅デパートを眺めながら真っ直ぐ北へと進んだ突き当りにある。
 境内は小高い丘の上にある。
 ウソかまことか、本能寺の変のあと、かの豊臣秀吉が中国大返しのおりに、明智光秀との決戦を前にしてここで陣をかまえたとかなんとか。
 歴史に名を残す英傑が歩いたかもしれない坂をおっちらのぼって、社務所の前を通りすぎ、拝殿で手を合わせることもなく、ぐるりと裏手へ。
 すると姿を見せるのが鬱蒼と茂る森。ここが鎮守の森。
 手前に竹で柵が設けられており「この先入るべからず」の看板がぶら下がっている。

 おれは柵の手前で愛用のパカパカガラケーをとり出し、登録してある番号にかける。
 すると森の奥から着信音が聞こえ、すぐさま姿をあらわしたのはイタチのような顔にタヌキのような毛並みにて、ずんぐりむっくりした体形の動物。
 これがアナグマのショーン。
 ふだんは小男に化けているが、さすがにその姿で境内をうろついていたら通報されてしまうので、ここでは本来の動物形態を通している。なによりそのほうが女子受けがいい。
 ショーンは変態だが、多少の分別はある変態なのである。

「九官鳥を探している。名前はプリペーラ・オンブレ」

 探偵と情報屋に余計な言葉は必要ない。
 訊きたいことを訊き、得たい情報を得る。ただそれだけだ。

「プリペーラ・オンブレ……、スペイン語で一番目の男か。なんとも意味深な名前じゃねえか。その情報ならあるぜ」
「いくらだ?」

 おれの言葉に両手を広げて見せたショーン。
 ちなみにアナグマの指は前後肢ともに五本指である。

「高すぎる。六にまけろ」
「おいおい、それじゃあ商売あがったりだ。八、これ以上はムリだ」
「ちっ、しゃーねえなぁ」
「毎度あり。で、九官鳥だが屯田団地の九十八棟付近で見かけたって話だ」

 屯田団地(とんだだんち)は高月の南端のほうに位置しており、合計百棟にもおよぶマンモス団地である。

「九十八棟ってのはどの辺だ?」
「南口のロータリーから出ている屯田団地行きのバスの終点近くだな。たしかすぐそばに変電所があったはずだ」
「あー、あそこか。わたった。じゃあ支払いはいつもの通りに」

 必要な情報を得たおれはすぐさまショーンに背を向け歩き出す。
 別れの挨拶もせずにスタスタ遠ざかるおれを、芽衣があわてて追いかけてくる。

「ねえ、四伯おじさん」
「なんだ」
「さっきのアレってどういう意味なの」

 芽衣がたずねてきたのはショーンとおれのやり取りについて。
 指にて情報料を決めていたこと。

「あれか、あれは指一本でフライドチキン一本って意味だ」
「はい?」
「ったく、あの食いしん坊め。まぁ、たしかにフライドチキンはウマいからな。あの魔性にハマって道を踏みはずす畜生のなんと多いことか。まったくなんとも罪作りな食いもんだぜ」
「………………」

 なぜだか急に黙り込んでしまった芽衣。
 しかし話をしていたら、なんだかおれまで無性にフライドチキンが食べたくなってきたぜ。
 じゅるり。


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