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242 カネコ、王妃さまとさらに語らう。
しおりを挟む衝撃の事実が発覚する。
王妃さまもワガハイと同じく転生者だった!
「びっくりしたのにゃん! ――って、あれれ、女神さま?」
転生時に、あれやこれや特典を押しつけようとしてきた神さまならば、ワガハイも会った。
ただし、女神さまなんぞではなかったけど。
ワガハイが知っているのは、長頭にて白い髭をたらした七福神の福禄寿みたいな姿をした、ヨボヨボの神さまだ。
「えっ、もしかしてその女神さまって、まさか……」
女神といえば、ワガハイが真っ先に思い浮かべるのはアロセラ教団が激推ししているフロディアだ。
千の顔を持つ女神。
ロリからアダルトまで。
その色香とバリエーションの多さにて、類人を中心に幅広い男性層を取り込んでいる。
辺境の城塞都市トライミングでは、ワガハイ、ツバッキーくんとともに、都市のナンバーワン愛されキャラの座をめぐって、熾烈な戦いが現在進行形で続けられている。
ちなみにツバッキーくんというのは商業ギルドの公式マスコットキャラクターだ。
あんまりかわいくはないけれど、バックに大きな組織がついている。
それもあってか、現在の人気度順位はツバッキーくんが頭ひとつ抜けており、次点でワガハイと女神フロディアが並んでいるといった状況にて。
それはともかくとして……
女神フロディアとアロセラ教団にかかわるとロクなことがない。
おもわずビクリと身構えたワガハイに、王妃さまが「あー、ちがうちがう」と手をひらひら。
「私が出会ったのはあんな尻軽じゃないわ。似ても似つかない別の女神さまよ。例えるなら、スーパーの特売セールの日に朝一で店に突撃しては、ライバルたちを押しのけてお宝をゲットするような……、たくましい感じのパンチパーマのオバちゃんだったし」
「それはまた、なんともパワフルそうだにゃあ~」
「まあね。実際、圧は凄かったわよ。もっとも、私も負けちゃいなかったけどね」
かつてはバリキャリだった王妃さま、神さま相手に一歩も退かず。
喧々諤々、丁々発止を演じたという。
でも、すっかり腹を割って話し合ったおかげで、最後はスッキリ、笑顔でシェイクハンド。
「ふっ、あんた、なかなかやるわね。一般人にしておくのは惜しいわ」
「ありがとう。女神さまから直々にそういわれるとは光栄だわ」
とまぁ、こんな感じにて女同士の友情を育んだそうな。
にしてもである。
「ということは、神さまってばひとりじゃないのにゃあ~」
「そうみたいね。ちなみに勇者くんの場合だと、彼をこっちの世界に連れてきたのはガチムチな男の戦神だって話だったわよ」
勇者くんというのは、アロセラ教団の総本山があるグランシャリオ国が、周辺諸国の反対を押し切って『勇者召喚の儀』をやって呼び寄せた、自称・救世主なる存在である。
世界征服をたくらむ悪の権化、魔王を退治するためらしいのだけれども。
ぎゃんぎゃん騒いでいるのはアロセラ教団とグランシャリオ国、あとは類人至上主義に毒されている一部の国家のみにて。
たしかに魔王は存在している。
が、どこにあるのかわからないテネブラエという自国に引きこもっており、めったに姿を見せず。また、とくに悪さをしたという記録もない。
ただテネブラエ国内の一部のはねっかえりどもが、ちょこちょこ外で悪さをしているっぽい。でも、そんなのはどこの国でもある話にて。
とどのつまり、国としては相互不干渉の態度を貫いているわけで……
転生とはちがい、転移してきた勇者くん。
すっかりおだてられて、のせられて、教団および聖女の傀儡としてこき使われているのは、ワガハイも知っている。
「……そういえば一時期、勇者一行が王都に滞在していたにゃんねえ。もしかして彼にも素性を明かしたのかにゃあ~」
「いいえ、アレは話にならないから黙っていることにしたわ。幸い、特に専門知識や技能があるわけでもなかったし、教団のオモチャにはもってこいでしょうから」
王妃さまが危惧したのは、あちらの世界から持ち込まれる諸々のこと。
内容によっては、大きな火種になりかねない技術、思想、信条、価値観などなど。
うっかり持ち込まれて、考えナシにばら撒かれたら、おもわぬ波紋を起こしかねない。はじめは小さなさざ波程度でも、気づけば大津波になってしまうこともあるのだ。
だから「異世界に来たぜ、ひゃっほう! 知識チートでウハウハ、ボロ儲けしてやるぜ!」とか浮かれてはしゃがれては大迷惑である。
急激な社会変化、富の偏り、既成概念の破壊は、確実に軋轢を産む。国内のみならず国外をも混乱させる。
新しいことを導入するのならば、段階を踏んで、慎重の上に慎重を重ねなければならない。
よって、転生者や転移者の暴走は、為政者の立場からすれば、とても看過できるものではないのだ。
その点、勇者くんは王妃さまのお眼鏡に適うことはなく、また放置しても問題なかろうと判断された。
でもって、ワガハイが深夜に呼び出された理由もまたこれであったらしい。
ようは見極めである。
もしもエスカリオ国にとって害になる存在ならば……
「ハッ」とワガハイ。
にゅうと額にある第三の目を細めて、向こうの暗がりを見てみれば、そこにはいつでも魔剣を抜けるようにとスタンバイしている剣姫の姿が……
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