寄宿生物カネコ!

月芝

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171 カネコ、事後事後。

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 けっして火事場ドロボウをしようとおもったわけじゃない。
 ただ王城の宝物庫とか、めったにのぞく機会なんてないから、ちょこっと見てみようかなぁ~と考えただけで。
 あわよくば「お宝ゲットだぜ、にゃしっしっ」とか、そんなこと……
 本当だよ?

 宝物庫はごつい金庫室みたいな造りにて、なかにいたのは元奴隷だった者たち。
 王都がナゾの闇に包まれた瞬間に隷属の首輪が効力を失ったもので、各地で奴隷たちが叛旗を翻す。
 当初は単発だった個々の乱が、合力して小集団となり、合流して大集団になるまでさして時間はかからなかった。
 スタンピードより王都を守るためにと結界を張ったことで「やれやれ、これでもう安心」と油断していた王都の者らにとっては、奴隷たちの反乱は寝耳に水でありすぐに鎮圧するように命じるも、ひと足遅かった。

 この時点ですでに暴徒らが城内にも押し入っていたのだ。
 というか、城内にいた元奴隷らが協力して招き入れたというのが真相だ。
 なまじ奴隷を大量に使役していたのが仇となる。奴隷はこの国のあらゆるところに入り込んでおり、誰よりもこの国に詳しくなっていたので、裏道、抜け道、要やウィークポイントなどを把握していたから、赤子の手をひねるようなもの。

 かくして愚王は誅殺された。それに累する者たちもまた根切りに……。
 が、その頃になって王都内の様子がおかしくなってきた。
 バタバタと倒れていく者が続出する。
 魔力量が少ない類人らがまず倒れて、続いて他の種族の者らも不調を訴えた。

 どうやら魔力やら体力が王都を覆うアレに吸われているらしいと、いち早く気が付いたのは森人の元奴隷であった。
 かといって結界内に閉じ込められており、外には出られない。
 そこで機転を利かせて城内でもっとも守りが硬い宝物庫へ、城外ではとりあえず地下の下水道へとこもることにした。

 緊急避難は迅速に行われた。
 この行動により元奴隷たちの大半は助かったものの、それでもジリジリと奪われるのまでは完全には防げず、ひとりふたりと膝をつき、ついにはみんなぐったりとムシの息になってしまった……という次第。

 これがワガハイたちが王都にやってくるまでに起こった出来事。
 でもって闇の結界が変じた漆黒の獣の脅威は去ったものの、すっかりヘロヘロになっている元奴隷たちはすぐには動けない。
 そんな状態の者らが金庫室だけでなく、地下にもどっちゃりいると知って、ワガハイとえらい学者先生は「えらいこっちゃ!」
 あわてて地下は下水道の状況確認と、救助に奔走することになった。

  〇

「はいはい、そこ割り込まないの! ちゃんと列を守る! あせらなくてもまだまだお肉はたくさんあるのにゃあ~」

 行列に怒鳴りつつ、ワガハイはじゅうじゅうと肉を焼いている。
 ただいま保護された方々に食料の配給中。
 なにせ隷属されている間は大半の者が粗食にて酷使されていたもので、誰も彼もが痩せ細っている。
 とにもかくにも、まずは食事とあいなった。

 ちなみに肉はワガハイが提供した。コツコツとアイテムボックス内に貯め込んでいた分をドドンと放出する。
 ついでに死蔵していたワケアリ食材もこそっと混ぜておいたので、けっこうな量となった。我ながらこんなに貯め込んでいたのかと、ちょっと自分に呆れている。
 目敏いえらい学者先生は「ワガハイ殿、この肉はもしや……」と気づいたものの、ワガハイは「しーっ」

 ワガハイの古巣であるメテオリト大森林の第六層産のお肉。
 世間的に確認されているのは第五層の半ばまで。
 だから第六層で倒した魔獣のお肉は激レア中の激レア食材。
 ゆえに冒険者ギルドでは売れずに、商業ギルドとの裏取引にて少量をこそっと流していた分を、大盤振る舞い。

 各国の王侯貴族たちすらもが食したことがないような肉を、元奴隷たちがモグモグ頬張る。
 なんとも微笑ましい光景ではないか。
 悪徳のかぎりを尽くしたスぺリエンス国の連中も、さぞや地獄の底で歯ぎしりしては悔しがっていることであろう。にゃしっしっ。

 このように解放された面々の世話を焼く一方で――
 えらい学者先生が言珠を使って、さっそく城塞都市トライミングの冒険者ギルドのギルド長に連絡をとって、現状を報告した。

 言珠は通信用の魔道具。
 大きさはビー玉ぐらいにて、対となる玉同士で遠距離通信が可能だ。
 トランシーバーの劣化版みたいな性能だが、それでもこの世界では高級品かつ軍備扱いされており、国の厳しい管理下にある。
 冒険者ギルドも保有しているけど、あくまで国から貸し出されている形にて、使用するには領主もしくは副領主の承認が必要となっている。

 で、もともと出兵予定だった周辺国の連合軍は、そのままこっちにやってきては事後処理にあたることが早々に決まったとの連絡があった。
 三日後には先遣隊が到着し、物資と人員もあとから続くという。

「おそらくは仮政府を発足しての共同統治になるじゃろうのぉ。
 アロセラ教団? あぁ、きっと何かごちゃごちゃ言ってくるだろうが、さすがに相手にせんよ」

 無人となった王都を放置したら、魔獣や賊が住み着くだろうし、アロセラ教団が厚顔無恥にも同盟を盾に乗り込んでくる可能性もある。
 もしもそうなったら、たちまち暗黒時代に逆戻り。
 さすがにこれは看過できない。

「なんにせよ、復興への道は果てしなく遠そうだにゃあ」
「……じゃな」

 最初から最後までろくでもない。
 滅んだあとまで面倒をかける迷惑な隣国に、えらい学者先生は「はぁ」と嘆息し、ワガハイは「森から出たあの時、南に進路をとらなくて本当によかったにゃん」としみじみ。


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