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148 カネコ、深淵をのぞく。
しおりを挟む隠し扉の奥には地下へと続く階段があった。
幅は2メートルあるかないか、段差も急だ。ひと昔前の団地のような造りにて、アムールトラほどもあるワガハイにはちと狭い。歩くのに肩をすぼめなければならない。
照明もなくて、なかは真っ暗だ。
幾重にも折り返している暗い階段をワガハイは黙々とおりていく。
これがまた長い……
「う~ん、えらく深いところまで続いているのにゃあ」
下水道よりも、地底湖よりも、なお深いところへと通じているっぽい。
だとすると、いつ掘ったのであろうか?
さすがにこの規模の工事をやったら周囲に気取られるだろう。
おかしいといえばこの階段の広さもだ。
ヒトが行き来するのみにて、大量の荷物を運び込むのには、いささか厳しい造りにて。
「どこか別に搬入口があるのかもしれないにゃんねえ」
もしくは荷物用のエレベーターとか。
そういえばこの商会は店舗のある建物の他にも倉庫を借りているという話だったので、ひょっとしたらそちらにあるのかも。
「だとしたら本命はそっちだにゃん。えっ、もしかしてワガハイってば、失敗しちゃったのかにゃあ~」
張り込みする場所を間違えた!?
目星を見誤って一日をムダにしたっぽいと気がついて、ワガハイはちょっとへこんだ。
でも、そんな気分も終点まできたら、たちまち吹っ飛んでしまう。
なぜなら……
「にゃ、にゃんじゃこりゃー!」
潜入であることも忘れて、おもわず大声をあげてしまったのは、地下深くに待っていた光景のせいである。
怪しげな機器が所狭しと並び、これまた怪しげなパイプがそこかしこにタコ足配線されており、さらにさらには怪しげな円筒状の大きなガラスケースへと繋がっている。
ガラスケースは曇っており、中身はよく見えないけれども、なんとなく人型をしているような……
別のところに目を向ければ、そちらには巨大な十字架のような形をした寝台が置かれている。この寝台がまたおかしいのだ。
まず両手足および首や腰の辺りに拘束具がある。
寝台およびその周囲には赤い染みが多々。染みの正体については言わずもがなであろう。
「まるで手術台にゃ! それも改造系の!」
あちらの壁際には、そのための道具がずらりと立て掛けられている。
え~、エンマさまが悪い子の舌を抜く『やっとこ』とか、数人がかりで扱うような巨大な鋸とかまであるんですけど……
その隣には流し台があって、すぐ脇には大きな箱が置いてある。
おそるおそるフタを開けてみたワガハイは、すき間からなかをチラ見してすぐにパタンと閉じた。
おっふ、えらいものを見てしまった。
ワガハイ、しばらくモツ煮込みと手羽先は食べれそうにない。
「うげぇ」
顔をしかめつつ、ちがう方に目をやれば、そちらには銀の扉があった。
取っ手がついている引き戸タイプ。
カギはかかっておらず、戸はあっさり開いた。
奥にあったのは……巨大な銅鐸というか、アイアンメイデンみたいなモノ?
「拷問具かにゃあ? 趣味が悪いのにゃ」
それでもちょっと気になったもので、近くまで寄ってみたら「ん?」
なぜだか鎖でぐるぐる巻きにされており、施錠までされている。
念の入った封印だ。
それすなわち中には、とってもヤバいものが納められているということ。ぶら下げられているプレートには『怪人八号』の文字……
触らぬ神に祟りなしである。
ワガハイは「くわばら、くわばら」そそくさ退散しようとするも、その時のことであった。
ピー、ギ~、ガシャン。
異音が鳴ったとおもったら封印のカギが勝手にはずれたもので、ワガハイは「にゃんで!」
どうにもイヤな予感がしたもので、ワガハイはじりじりあとずさり。
そうしている間にも鎖が緩んでジャラジャラと床にずり落ちていく。
やがてアイアンメイデンっぽいやつの中から、ドライアイスのような煙がもうもうと大量にはみ出してきたもので、ワガハイはきびすを返す。
が、逃げられない。
いつの間にか銀の扉が閉じており、退路を断たれていた。
――来る!
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