寄宿生物カネコ!

月芝

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095 カネコ、両替する。

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 泉の精霊から散々におちょくられた勇者はチ~ン、燃え尽きて真っ白な灰となった。
 あっ、でも安心してください。聖剣はちゃんと返ってきたから。
 しかし財布はダメだった。中身の金貨と銀貨がぜんぶ銅貨に両替されていた。おかげで袋がパンパンだ。めちゃくちゃ重くて、もはや鈍器。
 そのためモブ勇者はすばやさが低下した。
 さすがにこんな荷物を持っていては、ろくに動けない。
 パーティーの女性陣たちが勇者に向ける目はとても冷ややかだ。
 聖女さまから傷口に塩を塗るかのように「あなたは何をしているのですか」とネチネチ説教をされて、正座の勇者はしゅんと意気消沈中。
 見かねたワガハイは声をかけてやった。

「もう、しょうがないにゃんねえ。ワガハイが両替してやるのにゃあ」
「おぉ、すまない。シシガシラモドキよ」
「ムカッ……ちなみに現在の交換レートは手数料込みで、こんな感じになっているのにゃあ」

 通常であれば銅貨十枚で銀貨一枚のところを、ダンジョン内や運送費など諸々を加味して銀貨一枚につき銅貨十四枚での両替となる。なお、これはワガハイの匙加減にてどうとでも設定できる。
 だが世間知らずなモブ勇者は、ワガハイからのもっともらしい説明を受けて「むっ、そういうものか……なら仕方がないな。それで頼む」とうなづく。
 ワガハイはホクホク顔にて尻尾をふりふり。

「まいどあり~」

  〇

 ダンジョンアタック二日目――

 安全地帯を出発し、五層目のボス部屋へと向かう一行。
 昨夜はいろいろあったというのに、モブ顔勇者さまはケロリとしていた。意気揚々と先頭を歩いている。一晩寝たらすっかり元気になっていた。
 う~ん、タフである。実力はさっぱりでちっとも学習しないトリ頭だけど、この神経の図太さだけは評価してやってもいいのかもしれない。
 もしもワガハイだったら、恥ずかしくってしばらく表を歩けないだろう。

 ボス部屋に到着した。
 待ちかまえていたのは、ドロドロのオオカミみたいな魔獣であった。
 けっこう大きい……アメリカバイソンほどもある。なかなかの迫力だ。
 えっ? たとえがわかりにくい。
 あー、ようはワガハイよりも大きいということ。つまりはアムールトラよりもデカいということだ。重量もワガハイの倍以上あるだろう。
 物知りなギルド長によると、こいつの名前はブーシャンというそうで、そのズブズブな見た目通りに打撃や斬撃が通りにくいそうな。
 あとやっかいなのが、自身の体の一部をぴちゃぴちゃ飛ばしては、いくつも分体をこさえること。
 分体の強さはたいしたことないが、油断しているとドロだらけにされる。そして体についたドロが乾くと固くなって、身動きが取りにくくなるから注意が必要だ。

 ……と、ギルド長が解説をしているうちに、はや戦端は開かれた。

「うぉおぉぉぉぉー」

 雄叫びも勇ましく、突進していく勇者さま。
 だが、バカ正直に真正面から向かって行けば、いい的でしかない。
 ブーシャンがペッ、ペッとドロ吐き連続攻撃。
 一発目を聖剣で払った勇者であったが、二発目を顔面に受けてびちゃり。

「目が、ぼくの目がぁあぁぁぁ。あとクッサッ! このドロ、クサいッ!」

 いきなり視界を塞がれパニックに陥った勇者は、ジタバタしているうちに足下のドロにズルっと滑って、すってんころりん。
 盛大に尻もちをついては、尾てい骨をしたたかに打った。勇者は声にならない悲鳴をあげて悶絶する。
 にしても、じつによく転ぶ男である。
 そこへ殺到するブーシャンの分体たち。「バウバウ」と吠えながら群がっては、寄ってたかってポコポコ勇者をタコ殴り。

「おっふ、これはまた死んだかにゃあ」

 後方で観ていたワガハイが呆れていたら、その時のことである。

 轟!

 一陣の風が戦場に吹き、続いて発生したのは灼熱の火柱だ。
 火柱はうねり風と混ざりあっては竜巻となって、熱波をまき散らしながら敵勢の方へと。
 そのまま勇者ごとブーシャンの分体たちを呑み込み、さらには本体をも巻き込んで、すべてを灰塵へと帰す。
 魔法使いによる火魔法。凄まじい攻撃だ。さすがは勇者一行に選ばれるだけのことはある。
 でも……

「ちょっと! ある程度原型は残してくださらないと困ります」

 聖女に文句を言われて、「おっと、そうだった。つい」と魔法使いはあわてて魔法を解除した。
 とたんに風も止んで、ボタボタと降ってくるのはすっかり乾燥したドロの欠片たち。これに混じってドサッと落ちてきたのはミノムシ状の炭の塊。
 ぷ~んと厭なニオイをさせているソレは、勇者さまの成れの果て。
 一見すると原型を留めておらず、「さすがにこれはもうムリなのでは?」とワガハイなんぞはナムナム手を合わせていたのだけれども。
 聖女は「あ~、これぐらいでしたら大丈夫です。さすがに完全な灰になってたら厳しかったですけど」と笑って、復活の呪文を唱えた。
 で、勇者さまはあっさり復活した。

「ふぅ、びっくりしたぁ。さすがに死ぬかとおもった」

 とか言っていたけど、ばっちり死んでいたから!
 あと、やっぱりおかしいよ、勇者さまご一行。

 何度も死を体験しているのに、ケロリとしている勇者。
 躊躇なく仲間ごと敵を焼き屠る魔法使い。
 解剖大好き賢者。
 倫理をあざ笑い、生命をもてあそぶ聖女。
 はっきり言って異常だ。どいつもこいつもイカれてやがる。唯一まともに見える女騎士とて、ひと皮むけばどんな狂気を秘めていることか……

「ロールプレイングゲームとかでは気にならなかったけど、リアルだと勇者たちってこんなにおっかないのかにゃん!」

 ワガハイ、ガクブル。


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