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3 経験
しおりを挟む夕暮れ時ならまだ魔物も寝起きで動きが鈍い。
夜になればなるほど活発になるし、活動する魔物の数も多くなっていく。
なので早く終わらせたいが。
「見張りが邪魔くさいな……」
家から食料と袋を勝手に持ち出し、山に向かったは良いものの。
魔物が出る山に見張りがいないわけもなく、数人が山道の入り口で話してるのが見えた。
自分はまだ12くらいの、大人とは言えない年齢だ。真っ正面から行っても追い返されるだろう。
かといって任せられるかというとそうでもない、見張りの役目は村の警護だ、もし山から魔物が迷い込んできたらその対処をしないといけない。
そこまで見張りの数が多いわけでもないから、捜索しようにもできないのが現状だろう。
「でも子供は入れたなら、どこかに入り込む隙間があるってことだ」
木々の隙間に無理やり入り込む。
四つん這いになりながら、斜めった道を落ちないように、暗い森に足を踏み込んでいく。
枝で道中切り傷ができないように出来うる限りの注意を払いながら、なんとか登りきった。
「はぁ、しんど……」
「子供もこの道を通ったのでしょうか?」
「いや?それはないだろう」
普段雑用に駆り出されていて、ある程度普通の子より体力のある自分ですら息を切らすほどにしんどかった。
子供でも簡単に入り込めるような裏道が存在していたか。
見張りの隙をついてこっそり飛び込んだかだろう。
「まあ考えても仕方ないな、早く探さないとまずい」
入り組んだ道から山道に転がり込む。
少し呼吸を整えながら、周囲にある石や太い木の棒を拾う。
最低限の身の安全を確保するために。
「……これも持っていくか」
「それはかなり匂いの強い木の実ですね……食べるんですか?食べれませんよ?」
「まあ、念のためな」
あれやこれやを袋に詰めて歩き出す。
幸いまだ魔物はいない。
木の枝をしっかりと握りながら、子供がいても見落としのないように辺りを見渡す。
それからどれくらいしただろうか。
辺りは暗さを増していき、うまく周りが見えなくなってきていた。
「これは、まずいな」
「帰ることを勧めます」
「……そうだな、道がわかるうちに」
捜索をやめようとした瞬間。
絶叫に近い泣き声が森の中に響いた。
ほとんど無意識に、山道から外れ泣き声のする方角に向かっていく。
開けた場所、月明かりが差し込んであたりは多少明るかった。
視界に映るのは木の上で傷だらけで泣く子供。
それを下から見上げる人型の化け物たち。
鋭い爪と犬の様な体毛と顔、しかし目に値する場所には何もない。
鼻のような箇所をひくひくとさせ、耳をピンと立たせながらゆっくりこちらに振り返る。
「……なんだこいつら」
「人型に分類される肉食の魔物、一体一体は大したことない力しか持ちませんが集団で動き出す。夜行性で鋭い嗅覚と聴覚で獲物を追う……怪物です」
ブレインの説明を聞いてる余裕は、なかった。
まず一体が飛び込んでくる、両手を広げて、抱きつくかのような動きで捉えようとしてくる。
身を大きく屈めて腕を避けて、足を引っ掛けて転がしてやる。
一体が倒れこむのを視界に抑えつつ、背に感じる気配に無我夢中で逃げようと、地を転がる。
先程までに自分がいた場所に大きく爪が立てられる。
「一、二、三体か……少ないが、それでもきついな」
集団で行動する怪物にしては少ない、が時間をかければ仲間を呼ばれるかもしれない。
チームワークはあるのが余計に嫌な汗をかかせてくれる。俺を取り囲むように、獲物を逃さぬように。
中々殺せないからか、ジリジリとゆっくり追い詰めようとしてくる。
「魔法なり剣なり使えたらな……」
まだ成長しきってない体で剣が扱えるわけもなく、魔法を使えば使った自分の体がもたない。
今信用できるのは、過去の自分の経験だけだ。
小さく呼吸を漏らしながら、袋に詰めた石を投げつける。
命中を確認し、怯んだ隙を見て大きく前にジャンプして頭に棒を叩きつける。
動き出したのに気づいた二体がこちらに迫る気配を感じ、よろけた魔物の足の間に滑り、挟み込まれないようにした。
足の関節部に思い切り棒を叩きつけて膝を折らせ、数歩後ろに下がりまた様子を見る。
奇声を発しながら、両サイドから同時に残る二体が迫る。
集中攻撃して膝を折っていたやつに、あえて背中に飛びつく、慌てて暴れられ振り落とされたものの、激しく振った腕が両隣の仲間を吹き飛ばした。
「はぁ……くっそ……」
ここまでやってなお、一体も殺せたわけではない。
疲労で膝が笑いそうになるのを必死に押さえ込む。
一発でもあの爪で引っ掻かれたら、確実に自分の命は刈り取られるというのに。
普通の方法ではもはや、勝てる気がししないでいた。
魔物どもがこちらに迫ってくる。
まだやりたいことも見つけられてないってのに、こんな奴らに殺されるのか?
……いや、まだだ、まだ生き残れるはずだ。
普通の方法じゃないことをすればいい。
怪物が様子を見るのをやめて猛スピードでこちらに駆け出してくる。
それに合わせてこちらも走り出す。
大きく腕を振り上げる、それを受け止めるように棒を構えた。
それはあっけなく砕かれた。
バキッという音を鳴らしながら割れた棒が地に落ちる。
化け物が口元を歪ませる、俺の武器が壊れたのを理解しているのだろう。
……でも俺も笑っていた。
袋に詰めた木の実を、目の前の油断しきっている化け物の鼻に思い切り突っ込んでやる。
「……ッ」
強い嗅覚を持つってことは、人間ですら臭みを感じるこれの匂いがより強く感じられるということだ。
目を持たず匂いと聴覚に頼りきっている生き物が、その頼りにしていた部位を使えなくされる。
当然、パニックをおこす。
急に詰め込まれた匂いに、悶えるように頭を振っている。
匂いでの識別ができなくなった個体は乱暴に腕を振り回す。
仲間がどうしたものかと足を踏み出した、瞬間。
その個体は仲間を引き裂いた。
それが仲間だとわからないのだろう、音のする方にがむしゃらに走っていく。
呼吸を全力で押さえ込む、物音を立てないようにその場で縮こまる。
パニックが収まれば音で判断がつくようになって、敵がここにいるのだとバレてしまう。
袋から石を取り出し、しっかりと握りこんで様子を見る。
しばらくして、争いが止まったのだとわかれば、出来うる限り遠くに石を投げ込んだ。
音にだけ反応するようになってしまったそれは投げ込まれたら方に向かって走り出していく。
あたりは先程までとは違う、不気味すぎるくらいの静寂が訪れた。
それから、夜になればなるほど危険なのは理解していた為、重たい体を無理やり動かして子供のいる木の枝まで登った。
子供とはいえ二人分の重みに耐えられるかわからなかったが、そばにいたほうがこの子も安心するだろうと考えた。
持ち出した食料を分けてやり、落ちないように両腕で捕まえといてやり。
自分は一睡もせずに夜を明かした。
翌日、朝になって安全になった山に捜索隊がきて無事に救助された。
大きい隈を作った父親が子供を抱きしめ、俺は両親にげんこつをもらった。
子供が侵入した裏道は封鎖され、もうそこからは入れないようにされた。
後々ブレインにどうしてこんなことしたのかーと聞かれた俺は。
なんでなのかうまく答えられなかった、危険だしもっと上手いやり方があったかもしれないし。
でも、子供が助かったならいいだろうと答えた。
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