11 / 14
分かり易いラスボス
しおりを挟む
翌日。僕らは再び闘技場に来ていた。理由は勿論、アステリアさんと話をする為だ。
昨日忍さんが魔術で魔力を吸い取り、魔法の超再生も使えなくなっていた。アステリアさんは今、起きているのだろうか。流石に寝ているだろうとは思うけど。
闘技場に着いた僕らは、案内された先の、医務室の扉をノックしたが、返事は来ない。僕らは少し警戒しながら、病室に入る。
瞬間。上から風を感じた。僕は反射的に自身にバフを掛けて、攻撃を受け止める。
「あれ?受け止められたか」
「どうやら、労る為の品も要らなかったみたいだな」
「そうね。覚悟はできてるのよね?」
諒子が刀に手をやると、アステリアさんはニヤリと笑って、「良いよ。やる?」と言った。どうやら、筋金入りの戦闘狂らしい。
「諒子、落ち着いて。僕は大丈夫。アステリアさん。昨日、僕らは勝った。貴女には、僕らの要求に応じる義務がある」
「分かってる。で、何が聞きたい?何をしてほしい?なんなら、アタシの体もあげちゃうよ?」
笑えない冗談だ。隣で女性陣二人が殺気を放っている。僕と大聖がそれぞれ止めなければ、今にも飛び掛かりそうだ。
まあ、取り敢えず『約束』は守ってもらえそうで良かった。僕らは二つの質問を、アステリアさんに投げ掛ける。
「魔法って何なの?」
「アタシの身に生まれ付き備わっていた力。自分にだけ、強く作用するんだ。他の物体への干渉は、多分できない」
「俺らを元の世界に帰す魔術はあるのか?」
「世界を飛び越える魔術なんて、アタシは知らない。知ってるとしたら、亜人王様か、人間の王程度だろう」
次は、お願いだな。元々一つだったのが二つに増えたが、問題無いだろう。
「僕に義手をくれるかな?できれば、性能が良い奴」
「分かった。一日待ちな。飛び切り腕の良い鍛冶師に依頼する」
「私達を、亜人王に合わせてくれますか?」
忍さんがそう聞いた時、アステリアさんの表情が変わった。さっきまでの顔とは違う、真剣な表情だ。アステリアさんは僕らに、一つ質問を返す。
「それはアンタらの話を聞いてからだ。アンタらは、亜人王様に会って、何をしたいんだ?」
亜人王に会って何をするか。それは、僕らの旅の目的であり、願いだ。僕は迷う事無く、答えを言う。
「元の世界に帰る方法が欲しい。亜人王なら、それを知っているかも知れない」
「人間の王には言ったのか?」
「言ったけど、『それは亜人王が知っている』と言われた。アイツらは信用できない。だから、ここまで来た」
その答えを聞いたアステリアさんは、少し考え込むような素振りをして、暫くの間唸った。
「少し待ってくれ。色々と考えさせてくれ。答えは、また明日言う。義手の件もあるし、今日は一旦帰ってくれ」
そう言われて、僕らは闘技場を後にした。結局どうなるのかは、明日まで待たないといけないらしい。
「で、何やる?」
「今日は休みましょう。昨日はあんな戦い方したんだし、疲れも溜まってるでしょ?」
「そうだな。聡一の腕もそうだし、今日はゆっくりするのが良いな」
「そうしてくれると助かるかもな。ああでも、祝勝会みたいなのはしたい」
僕らは、町をぶらぶらする事で、時間を潰そうとした。どうやら亜人というのは、かなり気の良い人が多いらしく、昨日の勝負に勝った僕らをさげすむような事は無かった。
僕らは、色々な所を見て回った。町を一望できる高台とか、評判の飲食店とか、兎に角、あちこちを見て回った。
ここまでの旅で、人間の国の連中が、相当な数の嘘を吐いていた事が分かった。まず、この国は戦争などしていない。人間の国が一方的に、『勇者』を送り込んだだけの話だ。相当雑な嘘だ。これで騙せるとでも考えていたのだろうか。
兎にも角にも、益々僕らは、亜人王と話し合う必要がある事を認識した。僕らは亜人王に何か恨みがある訳でも、殺さなければならない理由があるわけでもない。話し合って、元の世界に帰る事ができたなら、それで万々歳だ。無理だったら、旅を続けよう。方法はある筈だ。
日も沈んで、夜になった頃。僕らは、町の食堂に居た。
「じゃあ、『決闘』への勝利を祝うと共に、今後の万事が上手く行く事を願って!」
「「「「乾杯!」」」」
庶民の味に慣れている僕らには、『高い店に行く』なんていう選択肢は無かった。こういう、雑に旨い店が、一番しっくり来るのだ。僕らはテーブルに並べられた料理を、思い思い皿に取って食べた。
「アステリアさんが亜人王と対話する場を設けてくれたら、僕らの旅も終わりかもね」
「長かったわね。まあ、まだ決まった訳じゃないけど」
「帰ったら、先ずは自分の部屋のベッドで寝たいよ」
「そうだな。こっちの硬いし」
だが、僕らはこの時、既にあの硬さに慣れて来ていた。あまり硬いと感じなくなった。この世界に慣れたという事だろうか。だが、そんな無粋な事は言わない。『元の世界に帰ったら』という話は、結構続いた。そう言えば、この話題で話をするのは久し振りな気がする。
夕食も終わった僕らは、少しそとを散歩する事にした。
「この星空って、地球のとは違うよな?」
「多分ね。私もあんま詳しい訳じゃないけど、なんか違う」
「そうなんだ?星座とか全く気にしないから分からないな」
「私もね。まあ少なくとも、私達が住んでた所よりかは綺麗に見えるわ」
暫く外を歩いていると、月が見えた。こっちの月は、地球で見える物よりも大きい気がする。近いのか、実際に大きいのかは分からないけど、まるで映画のワンシーンのような大きさだ。
この空が見れなくなるのは、少し残念だなと思いながら、僕らは宿に戻った。
僕らはその日、翌日に備える意味も込めて、早めに寝た。
翌日。僕らは朝早くから、アステリアさんの所へ向かった。どうやら、答えはもう出ているらしい。
「アンタ達の願いは分かった。約束だ。亜人王様の前まで連れて行く」
それを聞いた僕らは、一斉に飛び上がった。喜びを顔に浮かべ、それを分かち合った。
僕らが一頻り喜んだ後、アステリアさんは僕に、一つの箱を差し出して来た。どうやら、僕の義手を作ってくれたらしい。律儀な人だ。
大きく、思い箱の中には、無駄な装飾が一切無い、機能性だけを追求した形状の義手があった。
「アンタがあの決闘で使っていたガントレットに込められていた、衝撃波も使えるようにしている。硬度も、そこらの鎧とは比べ物にならない程にして、重さはなるべく軽くした」
「装着方法は?」
「右肩に当てて、霊力を流せば、後は多少合わせてくれる」
僕は言われた通りにして、義手を装着する。体になじむような感覚で、まるで本物の腕のようだ。僕はしっかり動くかを確認してから、アステリアさんにお礼を言う。
「ありがとう」
「約束は守られるべき物だ。これはアタシの信条で、信念だ」
やっぱり、どこまで行っても素直で、律儀で、良い人だ。約束は守るし、嘘を吐かない。信用も信頼もできる人とは、こういう人を言うのだろう。
アステリアさんが言うには、もう城への使いは来ているらしい。僕らはアステリアさんに頭を下げて、部屋を出る。どうやら見送りまでしてくれるらしく、アステリアさんは、闘技場の外まで来てくれた。
馬車に全員が乗り込み、いよいよ出発という所で、アステリアさんは僕らに、一つの質問をした。
「一つ良いか?亜人王様を殺す気は、本当に無いんだな?」
「「「「無い」」」」
僕らは即答した。当たり前だ。僕らの目標は、『元の世界に帰る事』だ。亜人王を殺す事じゃない。亜人王を殺す必要があったとしても、僕らはそれを望まない。何か別の方法を探す。
その答えに満足してくれたらしいアステリアさんは、「そうか」と言い、それ以上何も言う事は無かった。馬車はゆっくりと走り出し、僕らを旅の終着へ連れて行く。
城までは、二十分程掛かった。城に入った僕らは、案内役の人に、亜人王が要るという『玉座の間』に連れて行ってもらっていた。
「そう言えば、武器は要らなかったかもな」
「そうね。でもまあ、今更ね」
「今更置きに行くのも、売るのも無理だし、諦めよう」
「そうだね。今は、先を見よう」
僕らが顔を上げると、目の前には巨大な、豪華な扉が鎮座していた。恐らくここが玉座の間だろう。僕らは扉を開け、亜人王と顔を合わせる。
その瞬間、僕らは息を飲んだ。そこには、まるでこの世の物とは思えない程の美少年が居た。神が隅から隅まで作り込んだような、完璧な美しさがある。彼は静かに口を開き、僕らに話し掛ける。
「君達が勇者かい?何故ここに?」
「そうです。ここには、元の世界に帰る方法を探しに来ました」
僕がそう答えると、彼は玉座から立ち上がり、片手を僕らに掲げた。
次の瞬間、亜人王の後ろから、黒い何かが広がって行った。それは空間を侵食するように、透明な水に黒の絵の具を垂らしたように、周囲を暗く染めた。玉座の間が黒に包まれると、亜人王は立ち上がり、高らかに宣言した。
「ここに新たな神話を紡ぐ!魔王と勇者の、神々に定められし戦いを!」
彼がそう宣言すると同時に、彼の頭上に、巨大な魔法陣が出現した。そこから放たれる無数の魔術の弾丸は、真っ直ぐ僕らに飛んで来た。
「ここには話し合う為に来た!僕らに戦う理由は無い!」
「話を聞いてください!」
彼は攻撃を止めない。僕らを真っ直ぐ見つめ、魔術を放ち続ける。
「どうやら、無理矢理話を聞かすしか無いみたいだな!」
「やるしかない!皆行くよ!」
そう言って、忍さんは僕らにバフを掛ける。僕は亜人王に近付き、兎に角動きを止めようとする。だが、その手が亜人王に届く事は無かった。僕の体は上に弾き飛ばされ、そのまま地面に叩き付けられる。
何が起こったかを理解するのには、体が浮いている一瞬で十分だった。下から魔術を撃たれた。上の魔法陣に気を取られて、下に注意していなかった。
「僕はね、歴代の王の中でも最弱なんだ。直接的な戦闘能力なら、アステリアにも負けるよ。戦ったよね?だから、こういう小細工をするんだ。」
成程。正面から戦ってくれるアステリアさんの百倍厄介だ。忍さんの魔術でもう痛くもないが、持久戦となったら、恐らく忍さんの魔力の方が先に尽きる。早く決めないと。だが、近付けない。近付こうとする度、魔術で弾かれて、距離を取られる。
今までの戦闘パターンが、悉く潰される。僕らの今までの全てが無駄だったと思える程の、強さがあった。
彼は僕らに、堂々と宣言する。
「我が名はルーデリヒ・フォン・サージリア!今代の亜人王にして、三代目の魔王なり!」
僕らはその、あまりに堂々とした姿に、絶望する他無かった。
昨日忍さんが魔術で魔力を吸い取り、魔法の超再生も使えなくなっていた。アステリアさんは今、起きているのだろうか。流石に寝ているだろうとは思うけど。
闘技場に着いた僕らは、案内された先の、医務室の扉をノックしたが、返事は来ない。僕らは少し警戒しながら、病室に入る。
瞬間。上から風を感じた。僕は反射的に自身にバフを掛けて、攻撃を受け止める。
「あれ?受け止められたか」
「どうやら、労る為の品も要らなかったみたいだな」
「そうね。覚悟はできてるのよね?」
諒子が刀に手をやると、アステリアさんはニヤリと笑って、「良いよ。やる?」と言った。どうやら、筋金入りの戦闘狂らしい。
「諒子、落ち着いて。僕は大丈夫。アステリアさん。昨日、僕らは勝った。貴女には、僕らの要求に応じる義務がある」
「分かってる。で、何が聞きたい?何をしてほしい?なんなら、アタシの体もあげちゃうよ?」
笑えない冗談だ。隣で女性陣二人が殺気を放っている。僕と大聖がそれぞれ止めなければ、今にも飛び掛かりそうだ。
まあ、取り敢えず『約束』は守ってもらえそうで良かった。僕らは二つの質問を、アステリアさんに投げ掛ける。
「魔法って何なの?」
「アタシの身に生まれ付き備わっていた力。自分にだけ、強く作用するんだ。他の物体への干渉は、多分できない」
「俺らを元の世界に帰す魔術はあるのか?」
「世界を飛び越える魔術なんて、アタシは知らない。知ってるとしたら、亜人王様か、人間の王程度だろう」
次は、お願いだな。元々一つだったのが二つに増えたが、問題無いだろう。
「僕に義手をくれるかな?できれば、性能が良い奴」
「分かった。一日待ちな。飛び切り腕の良い鍛冶師に依頼する」
「私達を、亜人王に合わせてくれますか?」
忍さんがそう聞いた時、アステリアさんの表情が変わった。さっきまでの顔とは違う、真剣な表情だ。アステリアさんは僕らに、一つ質問を返す。
「それはアンタらの話を聞いてからだ。アンタらは、亜人王様に会って、何をしたいんだ?」
亜人王に会って何をするか。それは、僕らの旅の目的であり、願いだ。僕は迷う事無く、答えを言う。
「元の世界に帰る方法が欲しい。亜人王なら、それを知っているかも知れない」
「人間の王には言ったのか?」
「言ったけど、『それは亜人王が知っている』と言われた。アイツらは信用できない。だから、ここまで来た」
その答えを聞いたアステリアさんは、少し考え込むような素振りをして、暫くの間唸った。
「少し待ってくれ。色々と考えさせてくれ。答えは、また明日言う。義手の件もあるし、今日は一旦帰ってくれ」
そう言われて、僕らは闘技場を後にした。結局どうなるのかは、明日まで待たないといけないらしい。
「で、何やる?」
「今日は休みましょう。昨日はあんな戦い方したんだし、疲れも溜まってるでしょ?」
「そうだな。聡一の腕もそうだし、今日はゆっくりするのが良いな」
「そうしてくれると助かるかもな。ああでも、祝勝会みたいなのはしたい」
僕らは、町をぶらぶらする事で、時間を潰そうとした。どうやら亜人というのは、かなり気の良い人が多いらしく、昨日の勝負に勝った僕らをさげすむような事は無かった。
僕らは、色々な所を見て回った。町を一望できる高台とか、評判の飲食店とか、兎に角、あちこちを見て回った。
ここまでの旅で、人間の国の連中が、相当な数の嘘を吐いていた事が分かった。まず、この国は戦争などしていない。人間の国が一方的に、『勇者』を送り込んだだけの話だ。相当雑な嘘だ。これで騙せるとでも考えていたのだろうか。
兎にも角にも、益々僕らは、亜人王と話し合う必要がある事を認識した。僕らは亜人王に何か恨みがある訳でも、殺さなければならない理由があるわけでもない。話し合って、元の世界に帰る事ができたなら、それで万々歳だ。無理だったら、旅を続けよう。方法はある筈だ。
日も沈んで、夜になった頃。僕らは、町の食堂に居た。
「じゃあ、『決闘』への勝利を祝うと共に、今後の万事が上手く行く事を願って!」
「「「「乾杯!」」」」
庶民の味に慣れている僕らには、『高い店に行く』なんていう選択肢は無かった。こういう、雑に旨い店が、一番しっくり来るのだ。僕らはテーブルに並べられた料理を、思い思い皿に取って食べた。
「アステリアさんが亜人王と対話する場を設けてくれたら、僕らの旅も終わりかもね」
「長かったわね。まあ、まだ決まった訳じゃないけど」
「帰ったら、先ずは自分の部屋のベッドで寝たいよ」
「そうだな。こっちの硬いし」
だが、僕らはこの時、既にあの硬さに慣れて来ていた。あまり硬いと感じなくなった。この世界に慣れたという事だろうか。だが、そんな無粋な事は言わない。『元の世界に帰ったら』という話は、結構続いた。そう言えば、この話題で話をするのは久し振りな気がする。
夕食も終わった僕らは、少しそとを散歩する事にした。
「この星空って、地球のとは違うよな?」
「多分ね。私もあんま詳しい訳じゃないけど、なんか違う」
「そうなんだ?星座とか全く気にしないから分からないな」
「私もね。まあ少なくとも、私達が住んでた所よりかは綺麗に見えるわ」
暫く外を歩いていると、月が見えた。こっちの月は、地球で見える物よりも大きい気がする。近いのか、実際に大きいのかは分からないけど、まるで映画のワンシーンのような大きさだ。
この空が見れなくなるのは、少し残念だなと思いながら、僕らは宿に戻った。
僕らはその日、翌日に備える意味も込めて、早めに寝た。
翌日。僕らは朝早くから、アステリアさんの所へ向かった。どうやら、答えはもう出ているらしい。
「アンタ達の願いは分かった。約束だ。亜人王様の前まで連れて行く」
それを聞いた僕らは、一斉に飛び上がった。喜びを顔に浮かべ、それを分かち合った。
僕らが一頻り喜んだ後、アステリアさんは僕に、一つの箱を差し出して来た。どうやら、僕の義手を作ってくれたらしい。律儀な人だ。
大きく、思い箱の中には、無駄な装飾が一切無い、機能性だけを追求した形状の義手があった。
「アンタがあの決闘で使っていたガントレットに込められていた、衝撃波も使えるようにしている。硬度も、そこらの鎧とは比べ物にならない程にして、重さはなるべく軽くした」
「装着方法は?」
「右肩に当てて、霊力を流せば、後は多少合わせてくれる」
僕は言われた通りにして、義手を装着する。体になじむような感覚で、まるで本物の腕のようだ。僕はしっかり動くかを確認してから、アステリアさんにお礼を言う。
「ありがとう」
「約束は守られるべき物だ。これはアタシの信条で、信念だ」
やっぱり、どこまで行っても素直で、律儀で、良い人だ。約束は守るし、嘘を吐かない。信用も信頼もできる人とは、こういう人を言うのだろう。
アステリアさんが言うには、もう城への使いは来ているらしい。僕らはアステリアさんに頭を下げて、部屋を出る。どうやら見送りまでしてくれるらしく、アステリアさんは、闘技場の外まで来てくれた。
馬車に全員が乗り込み、いよいよ出発という所で、アステリアさんは僕らに、一つの質問をした。
「一つ良いか?亜人王様を殺す気は、本当に無いんだな?」
「「「「無い」」」」
僕らは即答した。当たり前だ。僕らの目標は、『元の世界に帰る事』だ。亜人王を殺す事じゃない。亜人王を殺す必要があったとしても、僕らはそれを望まない。何か別の方法を探す。
その答えに満足してくれたらしいアステリアさんは、「そうか」と言い、それ以上何も言う事は無かった。馬車はゆっくりと走り出し、僕らを旅の終着へ連れて行く。
城までは、二十分程掛かった。城に入った僕らは、案内役の人に、亜人王が要るという『玉座の間』に連れて行ってもらっていた。
「そう言えば、武器は要らなかったかもな」
「そうね。でもまあ、今更ね」
「今更置きに行くのも、売るのも無理だし、諦めよう」
「そうだね。今は、先を見よう」
僕らが顔を上げると、目の前には巨大な、豪華な扉が鎮座していた。恐らくここが玉座の間だろう。僕らは扉を開け、亜人王と顔を合わせる。
その瞬間、僕らは息を飲んだ。そこには、まるでこの世の物とは思えない程の美少年が居た。神が隅から隅まで作り込んだような、完璧な美しさがある。彼は静かに口を開き、僕らに話し掛ける。
「君達が勇者かい?何故ここに?」
「そうです。ここには、元の世界に帰る方法を探しに来ました」
僕がそう答えると、彼は玉座から立ち上がり、片手を僕らに掲げた。
次の瞬間、亜人王の後ろから、黒い何かが広がって行った。それは空間を侵食するように、透明な水に黒の絵の具を垂らしたように、周囲を暗く染めた。玉座の間が黒に包まれると、亜人王は立ち上がり、高らかに宣言した。
「ここに新たな神話を紡ぐ!魔王と勇者の、神々に定められし戦いを!」
彼がそう宣言すると同時に、彼の頭上に、巨大な魔法陣が出現した。そこから放たれる無数の魔術の弾丸は、真っ直ぐ僕らに飛んで来た。
「ここには話し合う為に来た!僕らに戦う理由は無い!」
「話を聞いてください!」
彼は攻撃を止めない。僕らを真っ直ぐ見つめ、魔術を放ち続ける。
「どうやら、無理矢理話を聞かすしか無いみたいだな!」
「やるしかない!皆行くよ!」
そう言って、忍さんは僕らにバフを掛ける。僕は亜人王に近付き、兎に角動きを止めようとする。だが、その手が亜人王に届く事は無かった。僕の体は上に弾き飛ばされ、そのまま地面に叩き付けられる。
何が起こったかを理解するのには、体が浮いている一瞬で十分だった。下から魔術を撃たれた。上の魔法陣に気を取られて、下に注意していなかった。
「僕はね、歴代の王の中でも最弱なんだ。直接的な戦闘能力なら、アステリアにも負けるよ。戦ったよね?だから、こういう小細工をするんだ。」
成程。正面から戦ってくれるアステリアさんの百倍厄介だ。忍さんの魔術でもう痛くもないが、持久戦となったら、恐らく忍さんの魔力の方が先に尽きる。早く決めないと。だが、近付けない。近付こうとする度、魔術で弾かれて、距離を取られる。
今までの戦闘パターンが、悉く潰される。僕らの今までの全てが無駄だったと思える程の、強さがあった。
彼は僕らに、堂々と宣言する。
「我が名はルーデリヒ・フォン・サージリア!今代の亜人王にして、三代目の魔王なり!」
僕らはその、あまりに堂々とした姿に、絶望する他無かった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】
雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。
そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!
気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?
するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。
だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──
でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる