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#8 むらさきかがみ

#8-16 解けない呪い

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 事情を知らない幸子さんを客間に案内するよう、秀英さんに言った後、俺は真司さんの自室に案内された。まあ、聞かれたくないのだから当たり前だ。しかし、秀英さんは何も知らないのだろうか。
「済まなかった」
「それは聞き飽きましたよ。その事については……まあ、もう貴方を責めるつもりはありません」
 俺がそう言うと、真司さんは驚いた顔でこちらを見た。そこまで意外だっただろうか。ああでも、俺と先生が和解した話を聞いていないのなら、この反応は普通か。俺は頭を下げて、真司さんに謝る。
「済みませんでした。やり過ぎました」
「いやいやいや!謝るのは私の方なんだ八神君!」
「事情は話せないんですよね。契約か……呪いで」
 真司さんは驚いた顔で、俺の方を見る。「咲良……いや、君は『探偵』でもあったな」と言って、背もたれに体重を預ける。
「俺は『小説家』ですよ」
「ああ。それでいて、私の娘の相棒だ」
 相当信頼されてるな。良い事だ。それに嬉しい。だが、責めるつもりが無いだけで、情報は欲しい。自分に起こった、いや起こっている事を知りたい。それは自然な事だ。俺は真司さんに、幸子さんからの攻撃からなんとか死守した菓子折りを渡しながら、軽く頼む。
「無理を承知で聞きますが、俺に掛けられてる術を知る事はできますか?」
「無理だ。一切の情報を漏洩だけでなく、保存する事すらできない」
 俺は溜息を吐いてから、「ま、そうですよね」と言った。詰まり俺は、この件について何もできない、知れない訳だ。ふむどうした物か。
 まあ、この件については一旦諦めて、どうにか俺の術式で、この術が解けないかを考えるしか無いか。前に試してあれだから望み薄だが。俺達は客間に向かい、取り敢えず幸子さんに説明する事にした。無論、本当の事は言えないので、適当な言い訳をする事になった。
「……つまり、『自殺ドッキリをしたら泣いて怒られて、そのまま一か月口聞いてくれなかった』……と?」
「まあ凄い端折って言えば……そうですね」
 うん。これで説明責任は果たした。俺悪……いな普通に。一方的に責めて泣かせたし。うん。やっぱりまた別の形で謝るとするか。何にしよう。
 そう考える俺の腹に、幸子さんの拳が叩き込まれる。俺は咄嗟に術式で壁を作るが、それでも少し衝撃が伝わる。俺は襖と同時に廊下まで吹き飛ばされ、壁に激突する。うん。少し痛いな。俺は近接が凄く強い訳でもないから、こういう場面の耐久力は要強化だな。
「……何の真似ですか?」
「そんな嘘で騙されるとでも?」
 まあそうだよな。幸子さん勘が良いし。先生の事になると尚更だ。俺は「やっぱそうだよな……」と言いながら立ち上がり、服に付いた埃を払う。
「で、どうすると?少なくとも俺からは何も言いませんよ?」
「そうでしょうとも。私が知る八神蒼佑は、そういう人間ですわ」
「説明できないって事で、諦めてくれませんか?」
「そうですわね。でも、一つ」
 幸子さんは俺のすぐ前まで歩いて来ると、俺の胸に拳を当てながら、俺と目を合わせた。
「お姉様をもう一度泣かせた時は、私が殺しに行きますわ」
 静かな怒りを込めた目は、真っ直ぐ俺を見つめる。俺は軽く笑みを浮かべてから、小さく頷いた。それを見た幸子さんは、何も言わず、岩戸家の玄関へ向かって行った。
「迫力のある人でしたね」
「秀英さんは会った事無いんですか?」
「私は医療班だからね。基本は本部で待機だし、関わりが無いんだよ」
 まあやる事は終わったのだ。俺も帰ろうかな。今日はこれの他に、やる事もあるんだし。俺は岩戸家を出て、協会本部へ向かう。

 協会本部では今日、百鬼夜行で担当する地区、そしてそれらの地区の中でもさらに分けられた班の発表がされる。俺がどこに入るのか、誰が班に入るのかも調べておきたい。
 地区は東北地方。メンバーは……うん。基本知らない人だ。まあ良いか。大体の人間の情報は開示されるだろう。にしても、先生とは別の地区なのか。まあ、相棒として登録してないのだから当然か。
 しかし多いな。まあ、三つの県をカバーする訳だし、これ位居ないと無理なのか。海外の魔術師にも応援を頼むらしいが、然程人数は変わらないだろう。何せ、北海道地方に二班、その他の地方に一班ずつ、つまり九班に分かれるのだ。それぞれの国にも事情があるし、仕方が無い。
「あら蒼佑ちゃんじゃない」
「あ、浩介。それに義明君も」
「師匠も確認したんですね」
 どうやら二人は手合わせの後のようで、義明君はボロボロに、浩介はスッキリした顔つきになっていた。うん。やっぱり実力差は埋められてないみたいだな。
「僕は渡辺兄弟と九州です」
「私は四国ね」
「俺は東北地方だ。会う事は無さそうだな」
 まあ、二人なら大丈夫だろう。浩介は金剛級の面子にも負けない実力だし、義明君は渡辺兄弟と同じ地区だ。それに義明君自身も強い。死ぬ心配は無さそうだ。
「やっぱり、関東は会長、近畿は慎太郎さんになったか」
「あの二人は強いもの。普通ね」
「そんなに強いんですか?」
「多分、先生と修司君を除いた、協会に所属しているどんな退魔師が、どんなに自身に有利なフィールドで戦ったとしても、あの二人には勝てない……全員が束になっても、二人同時は無理だろうな」
 義明君は「へえ……」と声を漏らした。その顔は信じてないな。一回手合わせしてみろ。手も足も出ないから。
「そう言えば、蒼佑ちゃんは連絡聞いた?」
「連絡?何の?」
 俺がそう答えると、浩介は少し呆れた顔で、「も~仕方無いわね~」と言って、スマホの画面をこちらに見せて来た。
「『激励会』?」
「百鬼夜行の一週間前、各地区のリーダーが集るそうよ。連絡、来てたでしょ?」
 俺はスマホを取り出し、メールボックスを開く。本当だ。こまめに確認する癖を身に着けた方が良さそうだ。
「じゃあ、次に会うのはここですかね」
「そうね。まだ半年程度あるけど」
「僕は呼ばれてないので行けないですけどね。楽しんでください」
 俺は義明君に、今度また七海さんと一緒に任務に行ってもらえるように頼んだ後、ついでに任務を受注してから、その場所へ向かった。夕食が少し遅くなったので、七海さんと先生に怒られた。
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