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#6 存在してはいけない駅

#6ー16 敵

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 煙幕が晴れた時、俺達の目の前には、一言も喋らなかった方の奴だけが残っていた。どうやら逃がしたようだ。
「追いますわよ!」
「待て。伏兵が居る可能性もある。それに、速く事務所に戻って、先生達の安否を確かめるのが先だ」
 幸子は思い止まってくれたようで、少し深呼吸をしてから、俺の方を見た。
「なら、走りますわよ」
「先に行っててくれ。俺はコイツを、協会本部に届けてから行く」
 その会話を最後に、俺達は一旦二手に別れた。コイツを協会に連れて行く役は必要だし、今の俺よりかは、幸子の方が強い。この役割が適切だろう。
 俺は一旦、コイツのフードを捲ってみる事にした。そしてその直後、俺は少しばかりの後悔をする事になった。

 その人間、いや、妖怪の顔は、醜く改造されていた。

「人間以外はどんな目に遭わせても良いってか……」
 兎に角、俺はコイツを協会に連れて行くしか無い。恐らく、改造して言う事が聞けるようにしたのだろう。オオクニヌシにどこか似ている部分を感じる。人の形を保っていたアレと違い、こっちは全く原型が無いが。
 まあ、これは俺が考える事じゃない。協会の専門家に聞こう。俺は手足を拘束してから、協会に移動するお札を使った。俺の体は一瞬浮く感覚と共に、協会本部へ移動した。
 受付で俺は、『医療班を呼んでくれ』と言った。金剛級の会員証を見せたら、案外すんなり受け入れてくれた。直ぐに来た医療班に、この妖怪の顔を見せると、彼等も絶句しているようだった。
「何があったんです?」
「二人からの襲撃を受けて、その片方を連れて来たら、この有様だ」
 正直な所、俺も何がこの妖怪に起こったのか分からない。肉体改造を受けたのは間違い無いようだが、わざわざ他者を害してまでやる事か?現代の妖怪は、人間と同じ戸籍を協会から得て、人間と同じように生活している。勿論、こんあ事をすれば法に裁かれる。まあ、奴等の目的から察するに、とっくに覚悟はできていたのだろう。
「取り敢えず、最近行方不明になった妖怪を洗い出すのと、彼の体に何が起こったのかを調べるのを助けてほしい。情報が足りない」
「分かりました。私達医療班は、彼の体を解析します。生命活動がある以上、治せるかも知れません」
 俺は立ち上がって、協会に登録されている妖怪の名簿を閲覧する為、会長の所を訪ねた。会長はまたしても、俺が来る事が分かっていたような顔をしていた。まあ、この状況だしな。
「状況はどこまで?」
「改造を受けたであろう妖怪を、君が連れて来た程度じゃよ」
 ほぼ全部じゃないか。まあ良いだろう。ここには名簿の閲覧に来ただけだ。
「協会に登録されている妖怪の中で、最近行方不明になった者を知りたいんです」
「分かった。リストに纏めてあるからのう。携帯に送ろう」
 そう言う会長に、俺は撃ち抜かれた携帯電話を見せた。「すまんかったの」と言って、会長は自分のパソコンを閉じた。
 会長はその後、リストを印刷して渡してくれた。俺はそれを受け取って、礼を言ってから、会長室を出た。何かの手掛かりになれば良いんだけどな。
 医療班に確認した所、解析には丸一日掛かるらしい。俺はリストを手に、協会を出た。帰り道の途中で、適当な人形でも買って行くかな。

 事務所に着いた俺は、少し焦っていた。明かりが無いからだ。まさか、ここに居たのであろう四人がやられたのか?だとしたら相当不味い。俺の個人的な感情を抜きにしても、人質交渉でもされたらどうしようも無い。
 今の俺の手札は少ない。あの四人を相手に勝てる人間相手に、俺は多分何もできない。いや、あの四人を同時に相手したなら、それなりに消耗している筈。叩くなら今だ。俺は事務所の階段を駆け上がり、扉を勢い良く開けた。
 そして、電気を付けるとほぼ同時に、火薬が弾ける音が聞こえた。だが、俺には一つも傷が付いていない。何故か。それは、目の前の光景を見れば明らかな事だった。
「八神くん!誕生日おめでとー!」
「「「おめでとー!」」」
「……は?」
 俺は間抜けな声を漏らしながら、周囲を見渡した。先生、七海さん、幸子、沙月さんだけでなく、修司君と秀英さんまで居る。
「なんで……」
「なんでって、そりゃ、今日が君の誕生日だからだろ?」
「前、岩戸から『来い』って言われてな。友の誕生日だ、祝う他無いだろう?」
「お姉様の頼みですからね。無下にもできませんわ」
 そう言えば、今日は俺の誕生日だったか。依頼やら神様の頼みやらで、すっかり忘れてしまっていた。
 七海さんは俺の手を引っ張り、椅子に座らせて、ついでに『今日の主役』と書かれたタスキを掛けられた。うん。なんだこの分かり易い奴。少し笑えるぞ。
「今日は私と七海様が作らせて頂きました」
「初対面だったけど、良い人だっていうのは分かったよ!」
 俺が座らされている椅子の前には、そこそこ大量の料理があった。どうやら、沙月さんと七海さんの二人で作った物らしい。こんなあっても食いきれないな。まあ、そこは大した問題じゃない。こんなに作ってくれるのが嬉しい。
「私達は装飾を作りましたよ」
「野郎にできるなんてこれ位だもんな。それでも、短時間の割には凝った方な筈だぜ」
 この派手な装飾は、修司君と秀英さんが用意したのか。誕生日の祝いにしては中々凝っているように見える。半日程度で、よくコレを作った物だ。
 ようやくこの状況が飲み込めた俺は、短く言葉を発する事ができた。
「マジか」
 本当に、この一言に尽きる。もし俺が今日出掛けなかったらどうしていたつもりだったのだろうか。ていうか、いつから準備していたんだ?いや、俺も全く事務所を出なかったとは言わないが、そこまで大掛かりな準備なんて……いやもしかして、今日一日でやったのか?
 俺のその一言に満足してくれたらしい皆は、顔に笑みを浮かべながら席に座った。
「本当におめでとう。君とまだ生きる事ができる」
「お姉ちゃんも、君の事を知りたいんだ!よろしくね!」
「家に正式に迎え入れられてから最初の誕生日ですからね。盛大にやりましょう」
「今後とも、お嬢様をよろしくお願いいたします」
「不本意だけど、一応同僚ですしね」
「この一日を祝おう!最高に!」
 俺はその言葉を受け止めて、一言、たった一言の感謝を伝える。

「ありがとう」

 その後は、ただひたすらに楽しいだけだった。
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