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#6 存在してはいけない駅
#6ー10 遊びまわる神の権能
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俺でも追い付けないあの子供に、二人に追い付けるとは思えない。ただ、一つ懸念がある。七海さんだ。
霊力は魔力と違い、生れ付いての総量から変わる事は少ない。燃費を良くするのは可能だが、それには時間が掛かる。俺も今の状態まで行くのに、三、四年掛かっている。それに対して、七海さんはまだそこまでの訓練を積んでいない。
詰まる所、七海さんは持久戦に持ち込まれると勝ち目が無いという事だ。もし奴がそれに勘付いているとしたら、真っ先に捕まるのは七海さんだ。それに、この後戦闘が無いとも限らない。ここで消耗するのは避けたいが、二人にその判断ができるかどうか。あの人達、負けず嫌いなんだよな。
どうやら、俺の方には来ていないらしい。さっきのを見る限り、俺を捕まえるのを諦めたと捉えても良いだろう。二人が迷わないように、元の位置に戻るか。スタート地点に向かおう。
残しておいた霊力を辿って、俺はスタート地点まで戻った。だが、そこに待ち受けていたのは、信じられない物だった。
「あ、お兄ちゃん」
そう、あの子供だ。姿形は勿論、声、口調まで同じだ。霊力は相変わらず感じないが、偽物ではないだろう。ここに子供が居るという事は、もう二人が捕まった事を意味している。恐らく、最終的に勝つ事を目的として、ここを一旦捨てたんだろう。あの二人が簡単にそうするとは思えないが、事実としてこの状況があるんだし、そう考えるしか無い。
兎に角、俺はあと二十五分逃げ切れば良い。さっきと同じ事ができれば、可能な筈だ。
「あの二人は……もう捕まったのかな?」
「さあどうだろうね。当ててみなよ」
まあ、話してはくれないか。なら、喋っている必要も無い。俺はすぐさま後ろを向き、足に霊力を込めた。先程と同じ感覚と共に、俺は地面を蹴る。子供も俺と同時に走り出す。
霊力を体に巡らせるのも、足に込めるのも、何とか上手くできている。霊力を消費せずにこんな速度が出せるのは、多分先生の特訓のお陰だろう。ちょっとだけ感謝。
残すは二十五分。この状態を維持できれば、少なくとも負けはしない。霊力が消耗しないなら、今後何かあっても対応できる筈だ。子供の様子を見ながら、この距離を保とう。
そう考えている俺の目に、またしても信じられない物が写った。俺は『ソレ』の手を間一髪で避け、横を通り抜ける。俺は何が起こったのかをもう一度確認する為に、一度後ろを振り返る。
そこには、もう一人、まったく同じ姿の子供が居た。
俺は速度を落とさないまま、走り続けた。今のは何だ?霊力、術式に依る分身?いや、本体と同じく霊力を感じない。なら何だ?鬼ごっこのルール?いや、先程と同じならこけしになる筈。増え鬼だったとしても、現時点で二人しか居ないのは不自然だ。俺以外の全員が捕まったとしたら、もっと大勢出て来るのが自然だ。
そこで俺は、一つの可能性を見つけた。あの子供を見た時、俺は怪異よりも、神格を持った妖怪に近いと感じた。もしも、アレが神格持ちとかそういう次元じゃなく、神そのものだったとしたら?もしそうなら、この本体と全く同じ分身も説明できる。
神には『権能』が与えられる。これは人間が持つ術式の上位互換のような物で、もしあの分身が権能で生み出された物なら、本体と同じように、霊力を完全に隠す事も可能だろう。相当不味い状況になったのかも知れない。
兎に角、俺は捕まらなければ良い。咄嗟に出て来る手を避ける事さえできれば、後は俺の勝ちだ。俺は子供との距離を保ちながら、更に走る。勿論、子供は追い付けない。
しかし、田んぼの道の交差点で、俺はまた一つ、予想外の事態に直面する。
「八神君!?」
「七海さん!?」
そう、七海さんの姿を見たのだ。しかも、このままじゃぶつかる速度だ。俺はなんとか飛び上がり、七海さんの体を避ける。そして空中で、今七海さんにしてほしい事を伝える。
「七海さん!今後戦闘が無いとも限らないので、温存してください!」
「ヤダ!」
この負けず嫌いが!しかし、ここで良い争う暇は無い。俺はそのまま、真っ直ぐ走り続ける。
七海さんが捕まっていないという事は、多分先生も捕まってはいないのだろう。先生は比較的燃費は良いが、今後を考えると、やはり七海さんには温存の選択をしてほしかった。
まあ、過ぎた事を言っても仕方が無い。取り敢えず、まだ安全である保障はできた事を喜ぼう。七海さんの身体能力は、少なくともあの子供に追い付かれない程度には高い。持久戦が怖いが、まあ捕まる事は無いだろう。
俺が今考えるべきは、あの子供の権能だ。多分、信仰が薄れて力が弱くなった状態の神だろう。とは言え、権能は基本的に強力な物だ。空に浮かぶ巨大な時計も権能の一部と考えると、分身と時計の二つに、共通点が見当たらない。詰まり、権能で何ができるのかが分からないのだ。もし所見殺しや理不尽な事をやって来たら、どうなるか分からない。あの子供は『遊ぶ事』が目的のようだが、『遊び』から『分身』が、どうしても繋がらない。どういう権能なんだろう。
考えが纏まらないまま、残り時間は過ぎて行った。
「負けた~!」
その声と同時に、空の時計から鐘の音がした。俺が上を見ると、残り時間は全て無くなっているようだった。どうやら、勝てたらしい。
地面に座り込んだ子供が手を叩くと、全ての参加者が、元々のスタート地点に集められた。瞬間移動の権能もあるのか。その中には、七海さんと先生の姿もあった。
「先生!七海さ……」
「お姉ちゃん」
「お姉ちゃん、無事だったんですね」
「私は早期に温存の判断はした。七海はしなかったようだがね。ま、結果オーライだ」
「お姉ちゃんは捕まらなかったよ。霊力も多少の余裕はあるよ」
うん。取り敢えず無事なようだ。一般人の中にはもう泣き出している人も居るが、慰めている余裕は無い。俺は子供の方を見て、様々な確認をする。
「ねえ君、君について、色々な事が聞きたいんだ。大丈夫かな?」
そう聞いた俺に、子供は少し悩んでから答えた。
「分かった!じゃあ、一回勝つ毎に一つ答えてあげる!」
どうやら、まだこのお遊戯会に付き合わなければならないようだ。
霊力は魔力と違い、生れ付いての総量から変わる事は少ない。燃費を良くするのは可能だが、それには時間が掛かる。俺も今の状態まで行くのに、三、四年掛かっている。それに対して、七海さんはまだそこまでの訓練を積んでいない。
詰まる所、七海さんは持久戦に持ち込まれると勝ち目が無いという事だ。もし奴がそれに勘付いているとしたら、真っ先に捕まるのは七海さんだ。それに、この後戦闘が無いとも限らない。ここで消耗するのは避けたいが、二人にその判断ができるかどうか。あの人達、負けず嫌いなんだよな。
どうやら、俺の方には来ていないらしい。さっきのを見る限り、俺を捕まえるのを諦めたと捉えても良いだろう。二人が迷わないように、元の位置に戻るか。スタート地点に向かおう。
残しておいた霊力を辿って、俺はスタート地点まで戻った。だが、そこに待ち受けていたのは、信じられない物だった。
「あ、お兄ちゃん」
そう、あの子供だ。姿形は勿論、声、口調まで同じだ。霊力は相変わらず感じないが、偽物ではないだろう。ここに子供が居るという事は、もう二人が捕まった事を意味している。恐らく、最終的に勝つ事を目的として、ここを一旦捨てたんだろう。あの二人が簡単にそうするとは思えないが、事実としてこの状況があるんだし、そう考えるしか無い。
兎に角、俺はあと二十五分逃げ切れば良い。さっきと同じ事ができれば、可能な筈だ。
「あの二人は……もう捕まったのかな?」
「さあどうだろうね。当ててみなよ」
まあ、話してはくれないか。なら、喋っている必要も無い。俺はすぐさま後ろを向き、足に霊力を込めた。先程と同じ感覚と共に、俺は地面を蹴る。子供も俺と同時に走り出す。
霊力を体に巡らせるのも、足に込めるのも、何とか上手くできている。霊力を消費せずにこんな速度が出せるのは、多分先生の特訓のお陰だろう。ちょっとだけ感謝。
残すは二十五分。この状態を維持できれば、少なくとも負けはしない。霊力が消耗しないなら、今後何かあっても対応できる筈だ。子供の様子を見ながら、この距離を保とう。
そう考えている俺の目に、またしても信じられない物が写った。俺は『ソレ』の手を間一髪で避け、横を通り抜ける。俺は何が起こったのかをもう一度確認する為に、一度後ろを振り返る。
そこには、もう一人、まったく同じ姿の子供が居た。
俺は速度を落とさないまま、走り続けた。今のは何だ?霊力、術式に依る分身?いや、本体と同じく霊力を感じない。なら何だ?鬼ごっこのルール?いや、先程と同じならこけしになる筈。増え鬼だったとしても、現時点で二人しか居ないのは不自然だ。俺以外の全員が捕まったとしたら、もっと大勢出て来るのが自然だ。
そこで俺は、一つの可能性を見つけた。あの子供を見た時、俺は怪異よりも、神格を持った妖怪に近いと感じた。もしも、アレが神格持ちとかそういう次元じゃなく、神そのものだったとしたら?もしそうなら、この本体と全く同じ分身も説明できる。
神には『権能』が与えられる。これは人間が持つ術式の上位互換のような物で、もしあの分身が権能で生み出された物なら、本体と同じように、霊力を完全に隠す事も可能だろう。相当不味い状況になったのかも知れない。
兎に角、俺は捕まらなければ良い。咄嗟に出て来る手を避ける事さえできれば、後は俺の勝ちだ。俺は子供との距離を保ちながら、更に走る。勿論、子供は追い付けない。
しかし、田んぼの道の交差点で、俺はまた一つ、予想外の事態に直面する。
「八神君!?」
「七海さん!?」
そう、七海さんの姿を見たのだ。しかも、このままじゃぶつかる速度だ。俺はなんとか飛び上がり、七海さんの体を避ける。そして空中で、今七海さんにしてほしい事を伝える。
「七海さん!今後戦闘が無いとも限らないので、温存してください!」
「ヤダ!」
この負けず嫌いが!しかし、ここで良い争う暇は無い。俺はそのまま、真っ直ぐ走り続ける。
七海さんが捕まっていないという事は、多分先生も捕まってはいないのだろう。先生は比較的燃費は良いが、今後を考えると、やはり七海さんには温存の選択をしてほしかった。
まあ、過ぎた事を言っても仕方が無い。取り敢えず、まだ安全である保障はできた事を喜ぼう。七海さんの身体能力は、少なくともあの子供に追い付かれない程度には高い。持久戦が怖いが、まあ捕まる事は無いだろう。
俺が今考えるべきは、あの子供の権能だ。多分、信仰が薄れて力が弱くなった状態の神だろう。とは言え、権能は基本的に強力な物だ。空に浮かぶ巨大な時計も権能の一部と考えると、分身と時計の二つに、共通点が見当たらない。詰まり、権能で何ができるのかが分からないのだ。もし所見殺しや理不尽な事をやって来たら、どうなるか分からない。あの子供は『遊ぶ事』が目的のようだが、『遊び』から『分身』が、どうしても繋がらない。どういう権能なんだろう。
考えが纏まらないまま、残り時間は過ぎて行った。
「負けた~!」
その声と同時に、空の時計から鐘の音がした。俺が上を見ると、残り時間は全て無くなっているようだった。どうやら、勝てたらしい。
地面に座り込んだ子供が手を叩くと、全ての参加者が、元々のスタート地点に集められた。瞬間移動の権能もあるのか。その中には、七海さんと先生の姿もあった。
「先生!七海さ……」
「お姉ちゃん」
「お姉ちゃん、無事だったんですね」
「私は早期に温存の判断はした。七海はしなかったようだがね。ま、結果オーライだ」
「お姉ちゃんは捕まらなかったよ。霊力も多少の余裕はあるよ」
うん。取り敢えず無事なようだ。一般人の中にはもう泣き出している人も居るが、慰めている余裕は無い。俺は子供の方を見て、様々な確認をする。
「ねえ君、君について、色々な事が聞きたいんだ。大丈夫かな?」
そう聞いた俺に、子供は少し悩んでから答えた。
「分かった!じゃあ、一回勝つ毎に一つ答えてあげる!」
どうやら、まだこのお遊戯会に付き合わなければならないようだ。
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