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#2 金剛級昇格試験

#2ー9 帰宅

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 翌日、目を覚ました俺は、ネカフェを出て、昨夜約束していたコンビニ前で修司くんと合流し、朝食を食べに行こうとする。
 一旦電車で博多駅まで戻り、修司くんに連れられるまま進んで行く。
 少し歩いた俺達が着いたのは、ラーメン屋だった。
 いやまさか、朝からラーメン屋なんて事はないだろう。きっと一回立ち止まっただけだ。うん、朝からラーメン屋なんて流石にキツイんだから、無いだろう。うん。
「よっし!入るぞ八神!」
 はいそーですよねー!やっぱ此処が目的地ですよねー!
 まあ、修司くんのオススメなのだし、大丈夫だろう。それに、考えてみれば、折角『豚骨ラーメン発祥の地』と呼ばれる福岡に来て、豚骨を頂かないなんて、こんな失礼があっていいものか!
 俺は腹を括り、いや、腹を空かせ、店内にお邪魔する。
 出て来たのはやはり『博多ラーメン』。俺は熱い麺とスープに悪戦苦闘しながら、それを啜る。
「美味い!」
「だろう!?やっぱ福岡に来たらラーメン食わねえとな!」
 一口食べてしまえば、この熱さにも慣れるらしく、修司くんのお椀から、みるみる麺と具が減っていく。俺達は最後にスープを飲み、両手を合わせた。
「ご馳走様でした」
 やはり、ラーメンは満足感が凄い。朝なのにこんなに食べて良いのだろうか。なんだか罰が当たりそうだ。
 お会計になると、修司くんが「奢ると言ったのは俺だから」と言って、全額払ってくれた。千七百円程度とは言えども、少し罪悪感が有る。
 店から出て、空港に着く頃には、帰りの飛行機が出る少し前まで経っていた。
「じゃあまたね、修司くん」
「ああ。俺は実家に顔出してから帰る予定だから、ここでお別れだ」
 別れの挨拶を済ませた俺は、飛行機に乗り込み、一先ず椅子にもたれかかった。
 まあ眠くもないし、景色でも見ながら到着を待とう。見てみればそれはとても綺麗で、依頼で来た筈なのに、普通の旅行と変わらない気分だった。

 東京に着いた俺は、一番最初に先生を迎えに行く為、先生の実家、岩戸家に向かおうと電車に乗り込む。
 岩戸家のお屋敷に着いた俺は、そこの光景に目を疑った。というか普通に引いた。
「お姉さま~!今度はこちらのお洋服に……」
「待て!それは流石に恥ずかしい!」
「観念して下さいお嬢様」
「やめろおお!使用人が主人に逆らって許されると思っているのか!?」
「私の主人は岩戸家現当主様です」
 そこには、下着姿の先生と、それを追いかける幸子さんとこの家の使用人の如月沙月きさらぎさつきさんが居た。どうやら二人は先生に無体を働いているらしく、先生は目に涙を浮かべながら「やめろ!やめてくれ!」と叫んでいる。
 そして、先生は俺に気付くと、「八神君! 助け……」と言いかけた。そして怒りの矛先が自分に向くのを恐れた俺は、速攻で扉を閉め、助けを待った。扉の向こうからは「薄情者おおお!」と叫ぶ声が聞こえたが、今は自分の命が優先だ。致し方無し。南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏。
 因みに、沙月さんの兄にあたる如月透哉きさらぎとうやさんも、金剛退魔師の一人だ。無口で、取っ付き難いので、俺は結構苦手だ。
 少しした後、やっとこさ静かになったので、俺は屋敷に再度突入する。
 そこには、ゴスロリ風の服を着た、正確には着せられた先生が居た。目からは大粒の涙が流れている。
「八神くん……見ないでくれえ……」
「最高ですわお姉さま!」
「とても良く似合っています、お嬢様」
 二人共、その誉め言葉は止めにしかならんぞ。
 一先ず、二人を止めてから、先生の安全を確保してから、話をすることに決めた俺は、二人を引き離してから先生を回収した。
 部屋で着替え始めた先生は、泣きながら俺に文句を垂れて来た。
「うう、八神くんの薄情者……」
「その後助けたんだから許して下さい先生」
 俺は、着替え終わった先生に、福岡土産を渡してから福岡で見聞きした事を話し、先生の機嫌をとった。
 飲み物を取りに部屋を出た俺は幸子さんと沙月さんに囲まれ、リンチされそうになった。
「さーて、どう責任を取ってくれるのです?」
「お嬢様のあんなお姿を見れる機会は殆ど無いんですから、重い罰を与えねばならないようですね」
 あらまあ物騒な。しかし俺は、こういう時の為の切り札を、幾つも常備している。そう、この二人に対する切り札も当然持っている。
 俺は、その二人に対する切り札を、先程コッソリ盗撮した先生のゴスロリ写真に加え、今まで撮って来た先生の写真の中で、二人が気に入りそうな画像をスマホから二人に転送した。当然二人はそれに食らいつく。
「こっこれは!」
「貴方……何処でこんな物を!?」
「ふふふ……これからも良き隣人として、仲良くして行きましょうね。お二方」
 これで三か月は持つ筈。さっさと依頼の品を協会長を渡して、陽太さんの魂を回収しに行こう。そうすれば、また暫くゆっくりと休めるだろう。

 会長は、『透明なテケテケ』が封印された原稿用紙を受け取ると、満足そうに頷きながら、労ってくれた。
「いやあ有難う。まさかたった二日で依頼を達成してくれるとは……」
 有難い言葉だ。会長直々に褒めて貰えるとは思ってもみなかった。
 兎に角、これで『金剛級昇格試験』は達成した。これで陽太さんの魂に残っている菅原道真の呪いを取り除ける。倫太郎さんからの依頼を達成して、しっかり休む時間が取れる。
「これで、こっちのやりたいようにしても良いんですよね?」
「ああ、勝手にすれば良い。一般人を巻き込んだままにするのはこちらも不本意じゃ」
 呪術班に案内された先には、光り輝く球体、木村陽太の魂が有った。これでようやく終わる。俺は陽太さんの魂から、菅原道真の呪いを取り除く為の呪文を唱える。
「この世に蔓延る呪いの残影よ。我が力を以て、封印する」

「我が名は八神蒼佑。百の物語を紡ぐ者也」

 唱え終わり、原稿用紙に呪いが取り込まれたが、やはり菅原道真の呪い。原稿用紙が黒く染まって行く。これでは協会長の判断が正しかったと言わざるを得ない。
 俺は呪術班にそれを渡し、木村陽太の魂を回収してから、保管してあった体に魂を戻し、蘇生した。彼はどうやら意識がはっきりしないらしく、直ぐ眠ってしまった。
 彼を連れて依頼人の家に向かおうと協会本部を出ようとする俺達に、会長が話しかけて来た。
「何か用ですか?」
「いやあ、大した事じゃあ無いんだが……」

「何時、入籍するんだい?」

「……は?」
 思わず声が漏れた。一体何を言い出すのかと思えば、とんでも無い事を言う。
 先生の方が先に会長に疑問をぶつける。
「何を言い出すのですか!? 私達はそんな仲では……」
「いやあ、こっちとしては、金剛退魔師二人がくっつけば、地盤がしっかりするから、とても嬉しいんじゃ。いつも一つ屋根の下なのだから、悪い話では無いと思うんだが……」
「全く……早く帰りますよ先生。こっちも依頼を終わらせて休みたいので、失礼します」
 こんな話は前から言われてる。俺が顔を出す度、会長はわざわざ出向いてまでこんな提案を繰り返すものだから、もう慣れた。

 しかし、速足で進む俺の横で先生が複雑そうな顔をしていた事に、この時の俺は気付かなかった。
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