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『気おくれ』<♀♀>
しおりを挟む~杏の花言葉~
「も~、何やってんのよ。ほら、早く行くわよ!!」
私の手を取り、にっこり笑った彼女に胸の鼓動が高鳴って、私は手を引かれるままに足を踏み出した。
「あんたには、いつまで経ってもあたしが着いていなくちゃ駄目ね。」
「…ごめんね…。あなた一人なら、こんな風に時間を取られる事も無かったのに…。」
「何言ってんのよ!あたしは、好きであんたと居るんだからね!!」
「でも、私は行動力も無いし…、とろいし、あなたに取ったら、…重荷、なんじゃない…?」
「………はぁ~…。あのね、重荷ならとっくに手放してるわよ。あたしの性格忘れたの?あんたが行動力無いのもとろいのも昔から知ってるし…。何、あんたはあたしと一緒は嫌なの?」
「!そ、そうじゃ…無いけど…。」
「だったら良いじゃない!あんたは深く考え過ぎよ…。」
握られた手に力を込められた事で彼女が嘘を吐いている訳じゃ無い事を知って、私の気持ちは少し落ち着いた。
昔から行動力があって何でもてきぱきこなす彼女とは、遊ぶ場所も好きな場所も全然違って、家が隣同士でなければ一生関わる事も無かったのではないかと思える程に、私と彼女は違い過ぎていた。
だけど、彼女は小さい頃から何かと私を気にしてくれて、大きくなって通う学校が違うのに、今でもこうして世話を焼いてくれている。
そんな彼女の優しさが嬉しい反面、とても申し訳無くなるのだ。
「で、今回はここ!この前、同じクラスの子に連れて来て貰ったんだ~。」
「へ~、お洒落だね…。」
「うん!でも、中はそんなに気を張らなくても良い作りになってるんだよ!!」
「あはは。私は絶対来なさそう…。」
「だろうね~。まず、お店だってそんなに知らないでしょ。あんたはいつも同じ店しか行かないんだもん。」
「だって、行き慣れたお店の方が欲しい物もすぐ見つかるし、気楽なんだもん…。」
「言うと思った。まあ、兎に角入ろう!」
背中を押されてお店の中へ入って行くと、彼女の言う通り、すごく落ち着いた雰囲気の喫茶店だった。
席に着くと、彼女は慣れた様に私の分も注文して、楽しそうに‘どう?’と聞いてきた。
彼女曰く、私の好きそうなお店だったから一緒に来たかったそう。
実際、お店の雰囲気は私の好みで、また来たいと思った程だ。
楽しそうに向かい側から私を見つめる彼女に照れてしまい、思わず俯いた。
「も~、本当に分かり易いんだから!」
「…教えてくれてありがとうね。」
「どう致しまして。でも、一人で来ないでよ?」
「え?」
「ここはあたしが教えて上げたんだから、ここに来る時はあたしも誘う事。」
「う、うん。」
「宜しい!!」
遠回しでも、私には彼女が私を気遣ってくれている事が分かった。
こんな風に、彼女は私にさりげ無い優しさや気遣いをくれる。
だからこの日、私も私なりに彼女に何か返そうと思っていた。
「いつも本当にありがとうね…。そうだ…。」
「何?」
「今度は、私がクラスの子に聞いたお店に一緒に行ってね…。」
「え…。」
「まだ、行った事無いんだけど…、凄く良いお店なんだって…。」
「………。」
だけど、何故か私の言葉を聞くなり彼女は押し黙り、次に放った言葉に私は戸惑うしかなかった。
「あれ、どうしたの…?」
「…私以外と一緒に行ったら、許さないからね…。」
終わり
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