僕という花たちは…

まゆゆ

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冬の日はホットで 前編

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 一緒に住むようになってから数ヶ月で、大きく変わったのは、本当にこう言う遣り取りも、ありなんだと分かったと言うこと…

 『それは……セリさんが、嫌じゃなければ……良いんじゃないの? それこそ一緒に居て平気なら…』

 『平気…なら』

 『…ユヅくんから両親の事を色々と聞かされたのよ…で、ユヅくんが、ずっと仲良しと思っていた両親が、上手くいってなかったことに…どうして、気付けなかったのかってね……』

 見かけや、はたから見れば両親は、仲が良いように見えていたのかも知れない。
 僕だって、10年前の2人の遣り取りを知らなければ、今の2人の変化には、気付かなかった。
 知っていたからこそ気付いてしまった。

 それに…

 『母は、流されるような人じゃないから。ダメだと思ったらダメなんだと思う。父みたいに縋り付く人とは、合わなかったのかも知れません…』

 『痛烈ね』

 『そうでもないですよ』

 実際、僕とアサキは、それを繰り返してでも、側に居ようとしているし。
 
 『まぁ…これからどうなるかは、僕達次第ですけど…』
 『それでも良いって、2人で決めたんでしょ? それとも、まだ不安?』

 『分かりません…』
 
 『本当にセリさんって、素直ね』
 『…………』

 黙るしか出来ない僕の肩にハナさんは、ポンッと手を置いた。

 『その時は、ユヅくんと一緒にアイツを、シメる予定だから大丈夫よ。安心して』

 『…えっ……』

 『いや私は、マジで言ってるのよ。まぁ…一緒にシメる前にユヅくんが、単独でアイツをブッ飛ばしに来そうだけどね…』
 『…そう…ですね…そんな気がします…』
 『でしょ?』
       
 真面目な伝票の遣り取り中にハナさんが、休憩にと吸ったタバコの煙を吐き切った後、吹き出すみたいに笑った。

 それにユヅキ本人とは、やっとになるけど…
 つい先日、両親のことは勿論。
 僕やアサキとの事も、ちゃんと話し合った。

 『ってか、兄貴さぁ…雰囲気変わったよな?…』

 学校帰りだと言う弟のユヅキは、僕がここに、住むようになってからよく店に顔を出してくれるようになった。

 ホットのレモングラスとハーブのお茶を淹れたマグカップを、カウンター越し座るユヅの前に置いた。

 『そんなに、変わったかな?』

 『うん。なんか、今までは…思い詰めると…我慢してます。我慢し過ぎてます…って感じだったのに今は、ちゃんと伝えたい事とか言えてるような? あのドヨンとした感じが、無くった気がする…』 

 あの?

 『オレ。この間、アサキさんも居る時に、カノジョ連れてきたじゃん? そのカノジョも、帰り際に同じこと言ってたから』

 ユヅのカノジョさんも…

 『ほら。兄貴って…雰囲気が、柔らかいのに…たまにどぎついオーラ…本音? みたいもんが漏れてる感じがしてたんだよね…』

 相手に、二股されてますとか…
 その相手に、自分がどう思われてるか、分かりませんとか…
 次いでに自分も、どうして良いのか分かりません…

 何って、誰にも相談できないから…

 悩んでいたんだろうけど、自分が我慢すれば、見えてないふりすればいいって、本気で思い込んでいた…

 本音を言って、アサキに嫌われたくないとかさぁ…
 
 本気で好きになられても…
 両親の事があるし。
 素直に、相手からの想いを信じられる自信ない。

 自分でも、どうかしてたと思う。

 一方的に僕が、別れを切り出してからは、好きだった感情も無かった事にして…

 アサキを忘れようとしていた。 

 元カレって言葉通りに、そう言い聞かせながら。 
 少しでも、前向きにって思える様になった頃。

 父の浮気を、母親から相談された…

 その時に母が、もう別れを意識していたかは、分からない。

 あの後、母は1人冷静になって考えるって言ってた。
 
 『…それが、結果的にこうなったと…?』
 『多分ね…正直…相談された時点で母さんは、吹きれてるみたいだし。父は、あんなだし…これが、一番良かったのかもよ…』

 ふ~んっと、ユヅキは湯気の立ち上るレモングラスとハーブのお茶に口をつけた。

 『でもさぁ…、兄貴とアサキさんは一度は、別れたんだよな? 兄貴達にとってのそれは、冷却期間的なものになったの?』

 そうなのかな…

 『…オレにはさぁ…兄貴にとっても、アサキさんにとっても、今までの関係とか、自分の気持を見つめ直すには、ちょうど良かったって見えてるよ』

 優しい湯気が漂うカップを、両手で包むユヅキの表情はドコか暗い。

 『だからかなぁ…両親も、そう言う風に出来なかったのかなって…』

 中には再構築とか、別居しながら色々と模索してるって話は、たまに聞く。

 『…でも僕は、両親が、こんな風に間を置いたとしても、元には戻れなかったと思う…ユヅも言って言ってたけど…前の家には、後妻さんみたいな人が、居るわけじゃん?』
 『あっ…』
 『母さんに捨てられたって、開き直っちゃったのかもね…』
 『…そう言うもん? あんだけ…母さんと別れたくないとか、ゴネにゴネまくってたのに?』
 『うん。何って言うか、僕は、母さんの気持は、分からないよ。でも…』

 父さんも、母さんに対して試すとか、縋るって感情は…

 何度も、あったんだよ。

 母さんが、別れ話を切り出したあの日の夕方までは…

 『少しは、期待していたのかも知れない…』

 でも、母さんは、それに応えようとしなかった…

 もしかしたら。
 昔は、父の思いに応えなきゃって多少は、あったのかもしれないけど、母さんの中では、そんな時間はとっくに過ぎてて…

 『もう知るかって、感情の方が、大きかった…のかな?…』
 『なんか…難しい話だな…』
 『うん。それでも2人は、2人なりに結論付けたって事だよ…』

 …なんって、簡単に言ってしまったけど、両親にとっては簡単な事ではなかっと思う。
 ただ後に立たされた僕らには、そんな風に区切って解釈でもしないと、前を向けない気がした。

 『じゃ、もうそろそろオレ帰るから』

 いつも通りの笑みを、見せながらユヅキは、ハナさんの作業場の方に帰っていった。

 
 今思い出しても、あの頃の僕は、別れたって言うよりも、必死にアサキから逃げていた。

 アサキを、思い出したくもないとも思った。

 ピアスだって、捨てようと思えば捨てられた。

 デパートで返した木の箱の中に、しのばせる事も出来た。

 それでも、手放せなかったのは、僕もアサキに、縋っていたから…

 例のピアスは、いま両耳につけている。

 別れてからのアサキに、対する気持の動きは、母さんに通じるかもしれない。

 色々な大人の事情って言う自己都合な場面を、見てきたから。

 素直に好きとか、そう言う感情に振り回されたくなくて…
 裏があるって、勝手に思い込んでた。

 嫌いで、別れたはずなのに…
 嫌いになれない自分。
 
 同じ大学で同じ学部で似たような友人関係がある中で、会わないようにする方が、まず無理な話なわけだから。
 極力アサキの目につかないようにとか、気を使ったよなぁ…

 全部、今年あった事なのに…

 物凄く昔の事に、思えてくるから不思議だな…

 僕は、雪でも降りそうな寒空を店のカウンターから眺めていた。

 

 
 
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