僕という花たちは…

まゆゆ

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5.5レモングラス

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『大丈夫』

 
 夢の中で、母とアサキの大丈夫が、重なって聞こえた。
 
 安心できて、久々によく眠れた気がした。

 目が覚めるとそこは、快適な室温で起きたばかりの頭では、そこがどこなのか、思い付きもしない。

 自分の部屋じゃない。

 でも、見たことがある内装。

 2度寝でもしそうな程に、ゴロゴロしてみながら小さく伸びをした。

 「…セリ?…」

 聞き慣れた声に身体が、脈打つ。

 「アサキ…」

 声と同時にベッドから飛び起きて床に足を付けた。
 
 その拍子にセリは、よろけた。
 咄嗟に腕を掴んだ俺は、怒った顔をしていたかもしれない。

 「まだ寝てろ! げっそりしてクマ作って…心配かけんなよ…」

 つい本音を口にしてしまうも、セリのビクッと肩をすくめた身体が、やけに小さく見えた。

 「…ゴメン…脅かすつもりはないんだ…」
 「…………」

 俺達は、静かにベッドサイドに腰掛けた。

 「何か飲む?…エアコン寒くない?」 

 そう言い俺は、ペットボトルの水をサイドテーブルの上に折りたたんだセリの上着の横に置いた。
 後は、セリが持っていた真新しいスマホが、あるだけだ…

 「セリ…」
 「…………」

 俺は、下を向いたまま顔を上げようとしないセリに、向き合うように床に膝をついた。

 「セリ…何でもいいから。言ってくねぇーと、俺…何もわかんねぇよ…」

 「…………」と、セリは何も答えようとしない。

 膝の上に組まれた手に、水滴が落ちていた。

 見上げたセリは、泣いていて。 
 必死に泣くのを堪えているようで、俺に気付かれた事を気にして毛布をすっぽりと、被ってベッドに丸まった。

 話をしたくないのか、俺を拒絶しているのか…

 またセリは、そのまま眠ってしまった。
 午後になって改めて、セリの弟のユヅキが、荷物を持って現れた。

 「その荷物は?」
 「兄のです…一応…身の回りって言うか、後は着替えとか…」
 「あのさぁ…なんで…俺の所に?」
 「…その方が、良いと思ったし。その…オレと、一緒にいない方が、良いような気がして…」

 と、まぁ…オブラートに説明を受けた。

 「…所で、ハナは?」
 「ハナさんなら。ここの裏口近くで、オレを下ろしてからパーキングに停めに行きました…あの兄貴は?」

 「寝てるよ…」

 僅かに開けたドアの隙間から寝室を覗かせる。

 見えたのは、頭まで毛布を被りドアに背を向けるセリの姿だった…

 パタンとドアを閉じる。

 「あの兄貴は、ずっと寝ているんですか?」
 「いや…1回は、目を覚ましたけど…それ以降は、こんな感じ……水分は…」

 ペットボトルの中身が、減ってるってことは、少しは口にできてるみたいで安堵した。

 「…良かった。いや良かったなでいいのかな? オレ…何って言って顔を合わせればいいのか…」
 「…大丈夫じゃねぇーの? 俺よりも、クズって…そうそう居ねぇから…」
 「嫌味ですか?……」
 「嘘だよ。冗談な」  
 「なんっすか、それ…」

 そう言いながらも、笑みを見せるセリの弟は、休憩室の椅子に腰を下ろした。

 「オレは、ガキ過ぎて何も、理解してこれなかったし。父の浮気も、あの時だけだって…本気で思ってました」

 父の姿が、よそよそしく感じたのも、単純に母に気を使っているんだって…

 「気を使って…か、そう言うのも、あるのかもなぁ…でも、浮気は裏切りだから…最低なことをした。謝罪してどうにかなるもんじゃねぇよ…」

 アサキって人は、深い溜め息みないな息継ぎをしてから椅子の背もたれに、背中を預けた。

 「あの…聞いてもいいですか?」
 「あぁ?」

 「…えっと、なんで…浮気したんですか?」

 飲もうとしたペットボトルのお茶のキャップに手を掛ける俺に対して、シラっとした視線を向ける。

 「俺に聞く?」
 「ハイ…浮気した人の代表として…」
 「代表って……」

 ハナが居たら絶対に笑ってるよな…

 物怖じしないって言うか…

 セリよりも、正直と言うか…
  
 嫌味って言葉を、知らねぇーのか? この兄弟は…

 「…えっ…と、なんって言うか…正直に言えば、そう言う時って、浮気相手が…良く見えんだよ。なんかすげーキラキラしてて…それで、比べんの…すげー大事にしてんのに…」
 「…………」
 「で…見事にのめり込む。やっちゃダメって、分かってんのに見比べる。それで…どっかでバレる…両方から逃げられる…」
 「…そりゃ…愛想つかされますよ。オレも、若干引いてます…」

 正直なヤツだなぁ…
 俺も、苦笑いをした。

 「そう言うのを、俺とセリは、マジのを4回、親友巻き込んでのフリを9回かなぁ…を、繰り返した…」
 「…引くなんってのは、カワイイですね…ドン引きしてます…」

 そう。
 ドン引きでもしてくれれば、良かったんだよ…

 「さすがに…兄貴も、キレたり…」

 俺は、首を振る。

 「キレてたかどうかは、分かんねぇ…それでも、セリは何も言わないヤツで、俺が浮気してることを、知ってはいるはずなのに、肝心な事を言ってこない。別れようって…後は、黙って居なくなる…』

 俺を、どう思っているとかじゃなくて、セリの本心が聞きたかった。
 
 「その言葉が、聞きたすぎて色々した。優しくしたり。どっかに出掛けたり…」
 「…シルバーアクセ…」
 「そう…まぁ…元々、飾りっ気ないから。どうかと思ったけど…半分は、職人の意地みたいな…」
 「オレは、それを…突き返すみたいに…スミマセンでした。なんかオレ…」
 「ユヅキだっけ?」
 「ハイ…」
 「気にすんな。それ以前に俺は、セリに振られてるし…」

 アサキさんは、店のカウンターに顔を出しながら。
 透明な小さなケースを、オレの前に置いた。













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