僕という花たちは…

まゆゆ

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4.3埋まらない溝

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 その…
 ナゼか不味くできてしまうレモングラスとハーブのお茶を、ハナは引きつりながら飲み込み。
 自前のマイボトルのお茶を飲み込んで口直しをする。

 「なぁ…作った本人目の前にしてそれは、酷くねぇ?」
 「マズイもんは、マズイ! もう普通のお茶を、出しなさいよね...」
 「へいへい」

 セリが、店番のために座っていたレジカウンター横に例の片方だけ戻ってきたピアスを、ケースに入れて飾った。

 他のも見本って感じに、棚にディスプレイしてみた。
 絶対セリに似合うであろう色の石を、ハナに相談して調達してもらったのは、言うまでもない。

 一緒に居れば、アイツの耳にピアスホールが、ある事は直ぐに分かったし。たまに半透明のシリコンピアスをしていることもあったから。

 穴が塞がってないことを、確信してピアスならと、一縷の望み見たいなものを願って、磨き上げたシルバーのピアスは結局、身に着けてる所を、一度も見ずに終わった。

 「ってか、悪かったなぁ…こんな通勤通学の時間帯に呼び出して…」

 「いや…別に…通勤通学の時間帯ってのは、正直キツイけど…急ぎの仕事なら仕方がないでしょ?」
  
 納期を、早められないか?
 そんな問い合わせを受けたのは、一週間前だった。

 「土台のバックルは、仕上げてあったから。何とかなると思っていたけど…本当に悪かった。研磨作業は、神経使う作業工程なのに…」
 「でも、間に合ったでしょ?」

 ハナは、いつもと同じ甘い香りのする外国製のタバコに火を着け煙を吐き出した。
 フワリと、白い煙が立ちのぼる。

 「こっちの取り急ぎって言うのが、運良く無かっただけよ…」
 「そっか…」
 「それに…ちゃんと生きてるか、気になるしね…」

 そう言えば、デパートの件後に俺が、この仕事場でぶっ倒れる所を見つけてくれたんだっけ?

 「あの時は、ありがとう」
 「どういたしまして」

 カラッと乾いた笑顔を見せる割に情が深いと言うか、ここぞと言う時にハナは、頼りになる。

 「そう言えば、単位は取れてるの?」
 「そこは、大丈夫」

 同じ大学に通っているのに会えないのは、意図的か…

 たまたまか…

 何となく講義場で、遠目に見掛けたような。

 見掛けたことが、ないような。

 誰も、来ない隣の席とか…

 ベンチとか…
 一人分の空席が、どうやっても埋まらない。

 「今年の夏休みは、どうするの?」
 「…っなの…去年と変わんねぇーよ…仕事だよ。溜まってるの終わらせて…少しのんびりする…」

 シルバーアクセサリーの職人は、小学生の頃からの夢だった。

 それまで、夢ってのも特になくて、趣味ってのもなくて…

 実家近所に住む人達で、会社を早期退職した夫婦が、家のガレージでシルバーアクセや小物や手芸を作って、販売してた。

 何気に覗いたら。

 キラキラ光るシルバーの輝きとか、重厚感に目を奪われた。

 これが、やりたい!

 作ってみたい!

 そう思って、その夫婦に弟子入りするみたいな形で、休みの日だけ仕事場に入れてもらって、色々と教わった。

 俺も、俺でメモったり作業している光景を写真や動画に撮らせてもらったり。

 自分で作業工程を調べては、夫婦の旦那さんの方に質問したり。

 仕入れとか販売とかを、奥さんの方に聞いたり。
 迷惑掛けながらも二人は、親切に教えてくれた。
 今も交流は、あって師匠と弟子であり。あの二人の普段の遣り取りと、互いに相手を見守る姿が、子供ながらに憧れた。

 二人のあの温かくて、優しい感じが良かった。

 “ 良いよなぁ…こう言う関係 ”

 俺の実家は、一般家庭でそれなりに恵まれていた方だと思う。

 両親揃って、実親、俺からすると祖父母が既に他界していて、親戚とも新年の挨拶を、ハガキやらで済ませる程度。
 
 しかも、一人っ子で寂しかったんだろうな… 

 その夫婦との交流が、好きだった。

 で…そこで出会ったのが、今ここにいる業者の女ことハナだ。
 この女は、その夫婦の末の娘さん。
 両親の影響をモロに受けまくって、その頃は、向こうが大学生で、俺は小学校高学年で今よりも、チビチビで弟扱いを受けた。

 けど、この仕事場を格安で紹介しくれたのは、ハナだし。
 色々と仕事の相談に乗ってもらってる。 

 「…で、アンタさぁ…ここに本当に住むの?」
 「他に行くとこねぇーし」
 「親御さんには、言ったの? 前のアパートを解約して、ここに居るって?」
 「んーーまぁ……」

 仕事場に移り住んだことは、伝えてある。

 「お前らしいって…笑われたけど…」
 「アンタってば、昔から…シルバーアクセばっか作ってたからね…」

 今まで、ここに通ってた時間を考えると、寝て起きて学校行って仕事しての時間効率が、かなり良くなった。
 
 「前みたいに…店番とかあの子の代わりとか、他にお願いしたりは?」
 「考えたない…」

 こうやって、レジカウンターに座って、電話を取ってくれたり。
 送られたファックスを確認してくれたり。

 自分で持ってきた本や講義に使う参考書を眺めながら。 
 通りを歩く人達を、ボッーとしながらまるで、見守って居るみたいに…
 たまに微笑んだりする。

 何が、そんなに面白い光景なのかと、俺もつられて同じ方を見詰める。

 そこにあるのは、本当に何気ない日常。

 だから俺は、この席にセリ以外の人に座ってほしくないだけなんだ。

 「さて…私も、仕事場に行きますか…」

 ハナは、大きく伸びをすると、同時にスマホの着信音が、ハナのバッグから鳴り響く。

 「誰よ?」

 ゴソゴソと取り出し待ち受けを見たハナの表情が強張る。

 「ハイ。どうしたの?………えっ…ちょっと待て、何があったの?」

 俺の方に振り返って、不穏そうな視線を投げかけてくる。

 「こっちが、何? なんだけど…」

 変な胸騒ぎ…

 そんな言葉よりも、明確な不安が、張り詰めて来るようだった。
 
 


 
 
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