僕という花たちは…

まゆゆ

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4.2埋まらない溝

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 セリが、また部屋の合鍵を置いていった。
 
 お前のだって、ちゃんと持ってろって…

 何回も、言っているのに合鍵に付けたシルバーアクセの飾りは、俺がセリのためにと作ったものだった。

 今までもにも、付き合ってきたヤツには、かなりマメにプレゼントをしてきたし。

 それなりに皆、喜んでくれていたと思う。

 次に会う時に、身に付けてくれたり。
 メッセージをくれたり。
 その場で、付けてくれたり。

 作って、良かった。
 贈って、良かったって思えることが、幸せで…

 でも、アイツだけは違った。

 合鍵に付けて渡した時も、反応は、微妙で喜んでる風には見えなくて思わず口喧嘩になってしまった。
 結論付けると、セリの為に作ったんだからって言う俺の態度も、悪かったと思う。
 
 そんで言い合いになって…

 『……じゃ、なんで俺ら付き合っ てんの? 付き合ってる意味なんってないだろ...』

 そう怒り任せで出た言葉にアイツは、静かに 

『分かった。別れよう』

 って言って、俺の部屋を出て行こうとした。
 
 えっ。

 ちょっと待って、こんなんで出てくとか…

 確かにこんな状況を作ったのは、俺の方だけど…

 こんな終わり方って…

 『それじゃ』

 俺に対する未練なさ過ぎじゃねぇ? 

 俺の中では、最初から別れる気なんって、一切無くて頭が真っ白で、マジに出ていこうするアイツの腕を、ギュッと掴んだ。

 『…嘘…別れたいとか、思ってない。言い過ぎた。ゴメン……』

 何があっても、セリとは別れたくない。

 そんな想いが、手首を掴む強さに比例したのかセリは、痛がる素振りを見せてきた。

 『…分かった。でも、僕この後用事があるから。行かないと…』

 俺が、緩めた手から擦り抜ける細いセリの腕を、もう一度掴む事も、そのまま抱き寄せる事だって出来たはずだ。

 俺は、スッと出ていくアイツの姿を、引き留められなかった。

 その出来事が、あってからだ。
 
 会う度にってのは、大袈裟だけど、セリにはどうしても、シルバーアクセを身に付けて欲しくて、仕事の合間に作り続けた。 

 綺麗に磨き上げて、キズが付かないように、どの品物より丁寧に優しく布に包んで、その上から特注したベルベットの小袋に入れて渡した。 

 …で、俺の期待は一度も叶うことなく。

 最後までアイツは、シルバーアクセを身につけてはくれなかった。

 たまに勿体無くて、つけられないからと、バックやポケットに入れてるなんってヤツも、今までに居たけど... 

 持っていそうな素振りもない。
 
 元々、アクセとか身に付けないって言ってたし。

 もしかして... 家に置いてあるとか?
 バイトが、飲食店だから着けられないとか? 

 無くしたりすると嫌だからとか?

 それならと、飲食店のバイトと大学の講義の合間にと少しの時間、店番を頼んだ...

 独自のブランドで働くショップの店員は、そのブランドを身に付けるってっ事を、狙った訳じゃないないけど、少しの希望っての?
 それでも、セリは相変わらず飾りっ気なんってなくて…

 俺のプレゼントは、ただの自己満でアイツに対する自己顕示欲みたいなものだと、他人から指摘された時に俺は、その他人に耳をかさなかった。

 その遠回しな言葉の意味でさえも、良いように解釈してた。

 で…

 アイツの意思を、考えることなく一方的に指輪を、贈ろうとした。

 今度こそは、絶対に喜んでくれる。

 笑顔で、受け取ってくれる。 

 そして…
 突っ走った挙げ句に、あのざまだ。

 そうなる前に戻りたい。
 俺が、店の奥にある仕事場にいて… 

 フト店の方が、気になって顔を上げると、視界にアイツが居る。

 その好光景に、和らぎみたいな気持ちを抱けていた。

 それにセリは、他の誰よりも仕事熱心で、俺が説明した商品に対する取り扱いは完璧だったし。
 自分なりに調べた事を、俺に確認して説明に取り入れても良いかと、訪ねてくることも多かった。

 そんなものだから。 

 店の常連客や俺が、扱う資材の発注業者関係の仲間内からも、かなり評判は良かった。

 勿論。中性的な顔立ちが思いの外、人目を引 いていた事も、一理あると思うが、物静かな雰囲気と穏やかで、話しやすい人柄とアイツの作るレモングラスとミントのお茶が、評判だった。

 「…ってか、マッズ…アンタ。ユヅくんのレシピ…ちゃんと見て作ったのよね?」
 「そうだけど…」

 何度も、書かれたハーブと水の分量を通りに作っているはずが、何度試しても… 

 「やっぱり不味くできんだよな…」










 
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