僕という花たちは…

まゆゆ

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2、1満たされない花瓶

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 「お水のお代わりを、お持ち致ししました」

 俺は、水の入れられたウォーターピッチャーを見て身体を強ばらせた。

 「お客様?  大丈夫ですか?  お顔の色が、優れないようですが…」

 仕事の打ち合わせで、訪れた仕事場近くの喫茶店。
 ウッド系の店内は、明るくモダンで、どこか懐かしいような…
 古いモノクロの映画やドラマにでも出できそうな物静かな雰囲気にクラシックのBGMが、気持ち落ち着かせてくれている。

 けれど、俺の気分までは落ち着かせてはくれなかった。

 「で…あのデザインの方なんですけど、話し合った結果、最初のデザイン案で…この間、お渡しした石をはめ込んください」

 「分かりました」

 優しく愛想を振り撒く様にしてみる。

 正直に言って、今の状況は辛すぎる。
 顔色が悪いのは、俺が全部悪かったからだ。
 今更、思い出しては悔やんでいる。
 それでも職業柄、笑顔でいないとならない時がある。
 基本的にスケッチブックにシルバーアクセのデザイン案を描き出して選んでもらい。それを元に作り上げ仕上げたモノが、誰かの手に渡っていく。

 そしてまた…
 新しいモノを、作り上げる。
 アイディアや良い案を練る。
 日々、その繰返し。 

 この仕事が、性に合っているし夢でもあったから学業の傍ら続けられている。
 元々、こう言う作り上げる過程や工程が、好きなんだと思う。
 
 ガキの頃から近所の人が、自宅ガレージで開いていたクラフト工房に入り浸っていただけのことはある……

 それに元から誰かと話す事は、好きだったし仕事柄人と接するのも、一つも苦ではない。

 街中で別な店を偵察がてら見に行ったりすると、どれを買うか迷ってそうな子に…
 さりげなく。
 アドバイスなんかして、それに返してくれるとか子は、略警戒心なんってなく近づけて、その気にさせられれば、こちらのもんだって、分かっててやってきた。
 ってか、恋人居るのに俺最低な事してきたよな…

 「そりゃ…飽きられるわなぁ…」
 
 別れて、くっついて、また別れてを何度も繰返してきた俺とセリ。
 
 そんな感じで、手元に残ったのは…
 俺が、アイツに贈ろうと作った。
 この世にって言うのは、大袈裟だけど…
 たった1つになるはずの指輪だった。

 当たり前だけど、持ち主の手に渡ることもなく俺同様に拒否られた指輪。

 小箱に納められた指輪には、赤いガーネットを、埋め込んだ。
 ソレを、あの日から俺は、上着やズボンのポケットに入れて持ち歩くことが、習慣化してきている。

 惨めったらしい。
 俺も、そう思う。
 
 そう思われても、当然だ。

 でも、そうなる様に仕向けたのは、俺だって事は自覚している。

 後悔も、今更だ。

 まさか、あの日セリが、居るとは思ってなくて、ウッカリ鉢合わせしまった。

 別に何かある訳じゃなくて、あの連れとは、昔からの友人の一人で、相談にのってもらっていただけだ。

 セリが、思ったそう言う類のヤツじゃない。
 
 前に浮気したのは、事実だけど…
 
 嫌になるほど、仲間内から責められた。

 “ アンタ…何考えてるの? あんなにいいコ ”
 “ あれじゃねぇ? あんまりにも、いいコ過ぎなコと、付き合えたから。調子に乗ってたんじゃねぇ? ”
 “ ホント。それ。自業自得ってやつな… ”
 “ そのうち愛想尽かされちゃうから… ”

 確かに調子になってた…

 最初は、いい加減に聞き流してたぐらいだ。

 そりゃそうだ。
 セリ自身が、俺を責めなかったから。
 確かに態度は、悪くなった。
 口もロクに聞いてくれなかった。
 
 いや…怒ってるのは、分かるけど…
 なんかこう。
 もう少し。

 ヤキモチみたいな…
 嫉妬みたいな感情表現が、あってもよくねぇ?
 浮気した事に怒るだけ…
 
 それも、俺に対してだけ。
 浮気相手に、嫉妬するとこはない。

 俺に対して、取られたくないとか…
 俺を取られそうになって、悔しいとか…
 無いのかよ?

 俺は、セリにどう思われてんだ?

 それが、切っ掛けだった。

 セリの本心が、知りたい。
 セリの中にある俺の価値を、知りたい。

 そう思いつつも、独占欲が増してった。

 アイツを繋ぎ止めるには…

 そんな中途半端な気持ちが、溢れて焦り過ぎた結果が…

 これだ…
 
 今からになると、約1ヶ月前のあの日、昼頃まで通じていたセリのスマホから急に返信も、来なくなり。いつの間にかに、電話も繋がらなくなっていて…

 散々、街中を探し回った俺は疲れ果てて、2人で住んでいたような俺の部屋にフラフラになりながら辿り着いた。





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