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第二部・スノーフレークを探して

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「今日は道の駅だから、堂々とお酒飲めるわ」

「でも、ビールって温くなりませんか」

「小型のクーラーボックスがあるの。瞬間冷却材も四つあるから、ミツハ君のコーラだって冷やせるわよ。さ、買い物しましょ」

 コンビニでは弁当をふたつ買い、温めてはもらわなかった。彼女は「温めると傷みが早い」と言う。

 ふたりで車をテント仕様に変える。

「名前? 相米美子が本名よ」

 満陽の質問に、牛丼をかき込みながら彼女が答えた。

「でも、それも違うって言いませんでした?」

「気持ちの問題。米澤悠美子が本名だって言えるくらいに堂々と小説家したかったの。そう呼ばれ続ければ変われる
って。キミの『満陽』だってそうでしょ」

 満陽は何も返せない。名前を変えることで自分を変えようとしていたのは自分も同じだった。
「ミツハ君は、兄弟っていないの?」

 彼はのり弁当を箸の先で転がしながら、

「弟がいます」

「ウソ、なんて名前なの?」

連蛇れんじゃです。連なる蛇って書きます。今は文句言ってませんけど」

「それも強そうな名前ね。変えないかもよ」

 彼女は嬉しそうだ。

「さあ、十時になった。ビール飲もうかな」

 彼女は後ろへ回ってクーラーボックスを開ける。おー冷えてる、と。

 運転席へ戻ると、

「はい。コーラも冷えてるから。久しぶりに乾杯しましょ」

「いつぶりですかね」

「焼津以来ね。じゃあ、乾杯」

 その後の話はすでに思い出話で、

「たったの四日なんですね」

「そうね。もっと一緒にいた気がするんだけど。始終一緒だったしね」

 しみじみとした時間が流れた。

「小説読んだら、感想送ります。IDももらいましたし」

「いいのよ。無理して読まなくても」

「でも、ナユキさんの話を聞いてたら気になるんです。続きが」

「ミツハ君。物語の終わりが必ずしもハッピーだとは限らないわよ」

 彼女は言う。諭すような声で。

「それでもいいんです。小説の中の夏雪さんと実在のナユキさんがどれくらい違うのか読んでみたいんです」

「あー、それだけはやめて。お願いだから。全然違うの。ホントお願い」

 缶ビールの二本目に突入して、彼女はなぜか何度も謝り始めた。

「悪かったわ。よく考えれば未成年の男の子を四日も連れ回してたんだもの」

「でもそれは僕が頼んだことですから」

「それでもよくないわ。私、警察に捕まるかしら」

「親は何も言ってこないんで、それはないと思います」

 言いつつ、スマホは電源を切ったままで荷物と一緒だ。

「ここからは――関東までは高速かしら。えっと、九時間半はつらいわね。一度名古屋辺りで一泊して、二日で行けるけど、ミツハ君どう?」

 満陽は答えを持っていない。まだ決めかねている。

「それでいいと思います。あの、もうすぐ寝ますよね」

「ん? いつもは起きてる時間だし、朝七時ごろ動けば道の駅の方も大丈夫っぽいわよ。何かあった?」

「ええ。小説、少し読んでみたくて。ランタン出してもいいですか」

「そんな急がなくても。帰ってからでいいのに。目にもよくないから」

「でも、ナユキさんと一緒にいられる間に読んでみたいんです」

 満陽は一向に寝る気配がなく、美子は先に眠気が来たので後部席で身体を倒した。彼はダッシュボードに置いたランタンの下、ページをめくっている。その微かな音を聞きながら眠りに落ちた――。
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