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第二部・スノーフレークを探して

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「緊張はしないでしょ。車より離れてるんだから」

「ええ……でもなんか変な感じです。会って三日の人と同じ部屋で寝てるっていうのが」

「一期一会――っていうのも違う気がするけど。でもこの先別れたら、私たちはもう会えないんだし。なんでも経験よ」

「そう、ですね」

「今日はありがとね。気ばっかり遣わせたわね」

「いいんです。何もできないんで」

「そうやって卑下しててもいいことないわよ。できることは誰だってあって、それをまだ見つけ出してないだけよ。それを私は自分探しって言ったの。何かに無理やり目覚めなくても、できることを見つけたらそれに向かって進めばいいって。私もね、この旅の終わりにはそうなっていたいなって思うから」

「ナユキさんは、どうして北海道に行ったんですか」

「ああ。近いのよ。東京なんか行くより。で、いつも函館ばっかりだったから春休み使って小樽まで行ったの」

「どんな街なんですか」

「いいとこよ。小さいけどね、おもちゃ箱みたいな街。歩いてるだけで楽しいの。それでね、駅からもう海が見えるくらい坂がすごいんだけど、もっと高いとこに上ってみようかなって坂を上がってたら図書館があったんだ。知らない街の小さい図書館っていうのもなんかいいなって。本読むの好きなんだ。小説でも学術書でも。で、そこに真新しい、背表紙に何も貼ってない――請求記号っていうんだけどね、それのない本があったの。時間はあったから読んでたら、途中までしか――って、前に言ったわね。よかったわよ、いい街だったわ。それでいつかこんな街のことを書けたらってね」

「書く、ですか」

「ああ、なんていうか小説みたいなの書いてたの。昔。それが私の夢だった。けどこのままでいくと私は医者になって、父と同じ忙しさに振り回されて生きていくんだなあって。それが嫌ってこともないのよ。立派な仕事だと思うもの。ただね、そうなる前にやっておくことはやっておきたいだけ。だから私は尾道を目指すの」

「すごい考えてるんですね。僕はダメです。なんか、自分のことウソばっかりで作ろうとしてるんです」

「ウソって? お金のこと?」

「それもありますけど。僕、ホントは彼女なんていないんです。勝手に好きになってるだけで、席も隣りなのにほとんど話もしてないんです。だから――」

「いいじゃない。それはウソじゃなくてただの作り話。だから本当になるかも知れない。そうなるように願って動けばいいだけよ。話もしてないなら話せばいい。ウソっていうのは違うの。どうやってもホントにならないのがウソ。救いはないの」

「……ナユキさん。具合は大丈夫ですか」

「お蔭で楽になったわ。明日は一気に尾道まで行くつもりよ」

「伊勢神宮は、見ないんですか」

「うん。なんかね、早く辿り着いてみたいの。瀬戸内の海に。じゃあそろそろ寝よっか」

「はい。おやすみなさい――」
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