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第二部・スノーフレークを探して
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「お帰りなさい。どこかいいとこあった?」
言うと、ホテルの浴衣に着替えた彼女に面食らったか、少し身構えてドアの前に立った。
「あ、はい。ちょっと歩いたらアーケードがありました。あっちこっちで道を訊ねたんですけど皆親切でした」
「そうなんだ。よかったわね」
それでも彼はドアの前から動かず、
「お腹、空いてないですか。具合悪いんですよね」
またそれだ。
「いいってば。だいぶ調子も戻ったし。ほら」
浴衣姿でベッドを立ってみせる。と、彼が手に何か持っているのを見つけた。
「何か買ったの? ダメだよあんまりお金使っちゃ」
「いえ……もらってばっかりなんで」
ようやく部屋へ足を踏み入れるとサイドテーブルへ包みを置いた。彼女は思わず訊ねる。
「なに?」
「津市の、名物らしいんです。ホントは名古屋じゃなくて津市が発祥だって、アーケードで会ったオジさんに言われました」
「それを――買ってきたの?」
「はい。ナユキさんと食べようかと思って。『天むす』っていうんですか。お店のギリギリの時間だったんですけど作ってもらいました。またおにぎりですみませんけど」
呆れようか喜ぼうかと迷い、両方が声に出た。
「お金ないんだからそういうことは――でも、ありがとう。すっごく気になる。お茶、淹れるね」
壁際のサイドテーブルで椅子を並べると、可愛らしいおむすびが五つ並んでいた。添えられているのはきゃらぶきだろう。
「あ、美味しい。もっと天つゆみたいに甘いのかと思ってたらさっぱりしてる。これ、全部食べれそう」
演技でもなく言うと、彼は横顔で照れていた。
「それで、いくら使っちゃったの」
そこは気になって訊ねた。
「一人前が七百五十円で――」
「え? そんなに? じゃあもうお金ないじゃない」
「いいんです。中途半端に持っててもどうしようもないですし」
「ホントに後先考えないのねえ……。これでもう私と一緒に動くしかないんだからね。あとは素直についてくるのよ。でも、ありがとう。キミの全財産分で元気になってみせるから」
彼は叱られた子供の顔でうつむいていたが、また一つ天むすをつまんだ――。
静けさを埋めるようにテレビをつける午後七時。
「お風呂にする? じゃあシャワー浴びて来なさいよ。そのあとお遣いがあるから」
彼が瞬き二度で着替えを持ってユニットバスへ向かった。水音が聞こえ始めると美子は荷物を開けて汚れ物をまとめ始めた。衣類の少ない夏場でよかったと彼女は三日分の下着をネットへ詰める。
(いっしょに洗うの、気にするかな――)
そういうことは言っていられない身分だと洗濯ネットのファスナーを閉じた。
「あの、終わりました」
髪は濡れている。まあ男の子だからいいかと、美子はドアを向いた。
「なに、お風呂上がりにジーンズ履いてるの?」
「これしかないんで……」
「じゃなくて、浴衣あるんだから着替えて。そのジーンズも一緒に洗濯物まとめたら三階に行ってコインランドリーね。これもお遣い」
すると彼は困った顔で、
「使ったことなくって……」
美子も一緒に行くことになった。
「で、これが洗剤。フタをしたら二百円でスタート。三十分くらいで終わるから、そのあとは取り出してこっちの乾燥機。ジーンズもあるけど九十分あれば大丈夫だと思うから。それと、洗濯物は一度広げてパンパンって叩いてから乾燥ね。ネットの方はそのままでいいわ」
「すみません」
「旅人なんだから覚えておいてね。一回戻りましょ」
言うと、ホテルの浴衣に着替えた彼女に面食らったか、少し身構えてドアの前に立った。
「あ、はい。ちょっと歩いたらアーケードがありました。あっちこっちで道を訊ねたんですけど皆親切でした」
「そうなんだ。よかったわね」
それでも彼はドアの前から動かず、
「お腹、空いてないですか。具合悪いんですよね」
またそれだ。
「いいってば。だいぶ調子も戻ったし。ほら」
浴衣姿でベッドを立ってみせる。と、彼が手に何か持っているのを見つけた。
「何か買ったの? ダメだよあんまりお金使っちゃ」
「いえ……もらってばっかりなんで」
ようやく部屋へ足を踏み入れるとサイドテーブルへ包みを置いた。彼女は思わず訊ねる。
「なに?」
「津市の、名物らしいんです。ホントは名古屋じゃなくて津市が発祥だって、アーケードで会ったオジさんに言われました」
「それを――買ってきたの?」
「はい。ナユキさんと食べようかと思って。『天むす』っていうんですか。お店のギリギリの時間だったんですけど作ってもらいました。またおにぎりですみませんけど」
呆れようか喜ぼうかと迷い、両方が声に出た。
「お金ないんだからそういうことは――でも、ありがとう。すっごく気になる。お茶、淹れるね」
壁際のサイドテーブルで椅子を並べると、可愛らしいおむすびが五つ並んでいた。添えられているのはきゃらぶきだろう。
「あ、美味しい。もっと天つゆみたいに甘いのかと思ってたらさっぱりしてる。これ、全部食べれそう」
演技でもなく言うと、彼は横顔で照れていた。
「それで、いくら使っちゃったの」
そこは気になって訊ねた。
「一人前が七百五十円で――」
「え? そんなに? じゃあもうお金ないじゃない」
「いいんです。中途半端に持っててもどうしようもないですし」
「ホントに後先考えないのねえ……。これでもう私と一緒に動くしかないんだからね。あとは素直についてくるのよ。でも、ありがとう。キミの全財産分で元気になってみせるから」
彼は叱られた子供の顔でうつむいていたが、また一つ天むすをつまんだ――。
静けさを埋めるようにテレビをつける午後七時。
「お風呂にする? じゃあシャワー浴びて来なさいよ。そのあとお遣いがあるから」
彼が瞬き二度で着替えを持ってユニットバスへ向かった。水音が聞こえ始めると美子は荷物を開けて汚れ物をまとめ始めた。衣類の少ない夏場でよかったと彼女は三日分の下着をネットへ詰める。
(いっしょに洗うの、気にするかな――)
そういうことは言っていられない身分だと洗濯ネットのファスナーを閉じた。
「あの、終わりました」
髪は濡れている。まあ男の子だからいいかと、美子はドアを向いた。
「なに、お風呂上がりにジーンズ履いてるの?」
「これしかないんで……」
「じゃなくて、浴衣あるんだから着替えて。そのジーンズも一緒に洗濯物まとめたら三階に行ってコインランドリーね。これもお遣い」
すると彼は困った顔で、
「使ったことなくって……」
美子も一緒に行くことになった。
「で、これが洗剤。フタをしたら二百円でスタート。三十分くらいで終わるから、そのあとは取り出してこっちの乾燥機。ジーンズもあるけど九十分あれば大丈夫だと思うから。それと、洗濯物は一度広げてパンパンって叩いてから乾燥ね。ネットの方はそのままでいいわ」
「すみません」
「旅人なんだから覚えておいてね。一回戻りましょ」
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