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第一部「都会の暮らし」
28・夢があれば
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「橘川さん、あなた本当に大丈夫なの?」
店長の長田に問いかけられ、遥香は首をかしげた。
「別に何にもありませんけど」
「そう……そうだったらいいんだけど」
きっと紗恵と三木のことだと思った。あの日の夕方、まだシャッターを閉める前に電話が飛び込んだ。その内容に驚いた遥香は、長田に申し出て早退したのだった。
アパートへ向かうとパトカーと救急車が止まり、黄色と黒の規制線が張られていて、部屋に辿り着けなかった。そばにいた警官に事情を話すと、生まれて初めてのパトカーに乗せてもらえた。男女二人が搬送中ということで、きっと三木と紗恵だと思った。紗恵以外の女の人は思い浮かばなかった。
店の仕事は捗っている。それは昨日の鍋内尋生さんのお蔭かも知れない。
「じゃあ上がっていいわよ」
長田のひと言で、日暮れのシャッターを半分下ろす。今日はそのまま帰るが、尋生に連絡は入れようと思っていた。
広島駅へ向かうバスの中でメールを打つと、なんと駅にいるという。慌てて、
――駅に向かってます。噴水のところにいてくれませんか
そう返信した。
バスを降りると遥香は広場を見回す。キャリーケースを抱えた尋生が見えたのは十秒後だ。
「こんにちは!」
明るい遥香にまだ戸惑っているのか、
「昨日はお世話になりました」
他人行儀な返事を返してきた。
「私は今夜、ひげGさんの歌を聴きに行きます。それから明日は二十七回目の休日なので元安橋のシンキチさんのところへ行きます」
「シンキチさん?」
「はい。髪の毛がこーんなで真っ赤で、三木さんの友達です」
「そうか……それは会っておきたいな」
それはそうと、ひげGが唄い出すまでにはまだ一時間以上ある。
「尋生さん、ドーナツ屋さん行きませんか」
店長の長田に問いかけられ、遥香は首をかしげた。
「別に何にもありませんけど」
「そう……そうだったらいいんだけど」
きっと紗恵と三木のことだと思った。あの日の夕方、まだシャッターを閉める前に電話が飛び込んだ。その内容に驚いた遥香は、長田に申し出て早退したのだった。
アパートへ向かうとパトカーと救急車が止まり、黄色と黒の規制線が張られていて、部屋に辿り着けなかった。そばにいた警官に事情を話すと、生まれて初めてのパトカーに乗せてもらえた。男女二人が搬送中ということで、きっと三木と紗恵だと思った。紗恵以外の女の人は思い浮かばなかった。
店の仕事は捗っている。それは昨日の鍋内尋生さんのお蔭かも知れない。
「じゃあ上がっていいわよ」
長田のひと言で、日暮れのシャッターを半分下ろす。今日はそのまま帰るが、尋生に連絡は入れようと思っていた。
広島駅へ向かうバスの中でメールを打つと、なんと駅にいるという。慌てて、
――駅に向かってます。噴水のところにいてくれませんか
そう返信した。
バスを降りると遥香は広場を見回す。キャリーケースを抱えた尋生が見えたのは十秒後だ。
「こんにちは!」
明るい遥香にまだ戸惑っているのか、
「昨日はお世話になりました」
他人行儀な返事を返してきた。
「私は今夜、ひげGさんの歌を聴きに行きます。それから明日は二十七回目の休日なので元安橋のシンキチさんのところへ行きます」
「シンキチさん?」
「はい。髪の毛がこーんなで真っ赤で、三木さんの友達です」
「そうか……それは会っておきたいな」
それはそうと、ひげGが唄い出すまでにはまだ一時間以上ある。
「尋生さん、ドーナツ屋さん行きませんか」
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