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第一部「都会の暮らし」
20・三人
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「いやあ、手ぶらってのは楽でいい」
部屋に戻った三木は、冷蔵庫から缶ビールを出してくつろいでいた。
「今日、何時からです? カレー食べて行きませんか?」
「それがね、ちょっと気がかりができて。紗恵ちゃん、呼んでみないか」
遥香は返事に窮する。
「せっかく来てくれたとこを、いきなりキツイこと言ったもんで。どうだろ」
そう言われると断りづらく、
「メールしといてみます」
スマホを開いてメッセージを送った。すると返信はあっという間で、
――行きます お酒も飲みません すみませんでした
やたら素直なメールが届いた。
三木と話すこと二十分。ドアチャイムが鳴った。
「こんにちは……」
昼間と打って変わって大人しい紗恵がドアの隙間から覗き見る。三木の思惑が分からない以上、不服でも部屋へ上げるしかない。
「おう、昼間は言い過ぎたな」
すると紗恵は部屋の入口に立ち竦んだまま、
「いえ……お医者さんにも言われてることなんで」
叱られた大人の顔で頭を下げた。
「じゃあ、こっち来い。遥香ちゃん、二時間くらいいいよね」
時計は夕方の五時を差している。それぐらいならと、
「紗恵ちゃん、そっち座って。ご飯食べた? カレーあるけど」
まずは皆で黙々とカレーを食べた。食器だけはムダに四客セットある。
「ごちそうさまでした。遥香さん美味しかったです」
大人しい紗恵に一安心したが、洗い物の最中に嬌声が聞こえてきた。
「それ絶対ヤバいですよお」
「いや、だからライブハウスのビルとかを狙うんだよ。そうすると早朝にやってきた掃除のおばちゃんも『ああ、音楽の人だね』って感じで挨拶して寝泊まりできるんだ」
話は三木の野宿場所についてだった。
「いちばんひどかったのはやっぱり警察が来た時でさ。言い訳なんて何もできねえんだ。それからすごかったのは渋谷の道玄坂を上ったとこにあるバーのマスターから鍵を借りて、事務室みたいなとこに一カ月いた時だな。トイレも流せないからいちいちコンビニに行って、でも深夜になると同じホームレスが廊下にたむろしてんだ。廃ビルだったから。で、そいつらが俺を羨ましそうに見るんだ。その目に耐えられず、マスターには鍵を返して次の街に向かった」
紗恵は仕事中の営業スマイルを捨てて本気で笑っていた。その顔で笑われたら太刀打ちできないと思った。
部屋に戻った三木は、冷蔵庫から缶ビールを出してくつろいでいた。
「今日、何時からです? カレー食べて行きませんか?」
「それがね、ちょっと気がかりができて。紗恵ちゃん、呼んでみないか」
遥香は返事に窮する。
「せっかく来てくれたとこを、いきなりキツイこと言ったもんで。どうだろ」
そう言われると断りづらく、
「メールしといてみます」
スマホを開いてメッセージを送った。すると返信はあっという間で、
――行きます お酒も飲みません すみませんでした
やたら素直なメールが届いた。
三木と話すこと二十分。ドアチャイムが鳴った。
「こんにちは……」
昼間と打って変わって大人しい紗恵がドアの隙間から覗き見る。三木の思惑が分からない以上、不服でも部屋へ上げるしかない。
「おう、昼間は言い過ぎたな」
すると紗恵は部屋の入口に立ち竦んだまま、
「いえ……お医者さんにも言われてることなんで」
叱られた大人の顔で頭を下げた。
「じゃあ、こっち来い。遥香ちゃん、二時間くらいいいよね」
時計は夕方の五時を差している。それぐらいならと、
「紗恵ちゃん、そっち座って。ご飯食べた? カレーあるけど」
まずは皆で黙々とカレーを食べた。食器だけはムダに四客セットある。
「ごちそうさまでした。遥香さん美味しかったです」
大人しい紗恵に一安心したが、洗い物の最中に嬌声が聞こえてきた。
「それ絶対ヤバいですよお」
「いや、だからライブハウスのビルとかを狙うんだよ。そうすると早朝にやってきた掃除のおばちゃんも『ああ、音楽の人だね』って感じで挨拶して寝泊まりできるんだ」
話は三木の野宿場所についてだった。
「いちばんひどかったのはやっぱり警察が来た時でさ。言い訳なんて何もできねえんだ。それからすごかったのは渋谷の道玄坂を上ったとこにあるバーのマスターから鍵を借りて、事務室みたいなとこに一カ月いた時だな。トイレも流せないからいちいちコンビニに行って、でも深夜になると同じホームレスが廊下にたむろしてんだ。廃ビルだったから。で、そいつらが俺を羨ましそうに見るんだ。その目に耐えられず、マスターには鍵を返して次の街に向かった」
紗恵は仕事中の営業スマイルを捨てて本気で笑っていた。その顔で笑われたら太刀打ちできないと思った。
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