都会ノ暮ラシ

テヅカミ ユーキ

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第一部「都会の暮らし」

9-3

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「今、ちょっと友達が来てて――」

 混乱する彼女に、三木は言った。

「じゃあ、お友達とも仲よくなろうか」

 そして荷物を玄関先へ置くと部屋へ向かってしまった。

 その時の紗恵の目を、遥香は一生忘れない。化粧崩れした泣き顔を上げ、曇っていた両の目には光が戻った。そしてはにかんで見せ、

「こんばんは」

 まるで営業中の声で言った。


 遥香は彼に缶ビールを渡す。彼は笑顔でそれを受け取る。意味もない乾杯にしかし紗恵は明るく応え、いつしか笑顔に変わっていた。

 彼女は遥香に聞かせた話を再び三木へ繰り返した。しかしもう泣くことはなかった。彼はそれを、軽くあしらい、

「やめちゃえ、やめちゃえ、そんな男。世の中に男はごまんといるぜ」

 紗恵も紗恵で、

「ですよねえ。お兄さんみたいな人もいますし」

 酔い始めたのか軽口を叩き始めた。そして、そんな光景を見つめるだけの遥香はなぜだか胸を痛めていた。

 結局話は零時過ぎても止まらず、皆でコンビニへ買い出しに向かい、三木はウィスキーの大きなボトルを買っていた。


 午前二時になり、紗恵がろうそくの炎が消えるように床に崩れた。

「大変な子だな。おそらく向精神薬を飲んでる」

 彼は紗恵を見下ろしながら煙草に火をつけた。

「お薬ですか?」

「うん。鬱か、それに準じた症状だ。左手首に躊躇い傷がいくつもあった」

 遥香さえ知らなかった事実を、彼は淡々と聞かせてくれた。そういえば仕事中の彼女はいつもリストバンドをしている。

「俺はそろそろ帰るよ。彼女に布団を用意してやりな」

 急激な寂しさが遥香を襲う。

「でも三木さん、行くところは?」

「どうにでもなる。大阪帰りに意外と荒稼ぎしてね」

「明日、元安橋は行きますか?」

 もっとも気になっていたことを訊ねると、

「橋は分からない。ただ、流川には出るだろう。じゃ、ホントに行くよ。ネットカフェの都合がある」

 そうして彼は帰って――それは帰るという行為ではなかったが、ネットカフェへと向かった。
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