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1章ゴブミ脱走
1章13話怪しげな売人
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暗い街中を虚ろな表情で、足元をふらつかせながら、ただ何にも考えず歩いていると狭い路地裏に到着した。
上の方で、虫が寄った電灯が寂しく光っている。
その光を頼りに進むと、大きなリュックを背負った、毛深い男が脚で道を塞いだ。
私はギロリと男を睨み、拳を振り上げる。
怪しげな男は動じる様子も無く、企んだ両眼で、腕を組んで、低い声を発っする。
「お客さん、いい物買わないか?」
私は拳を震わせ、止まり、鼻を上げ、恐ろしい脅迫の顔をする。
「人間になんて騙されない」
「まあまあ、落ち着いて。まず商品を見てから買うか買わないかを決めてくれ」
リュックから取り出したのは奇妙な肌色のスーツだった。
異様な程人間の皮膚に近いスーツ。
男は自慢げな様子で、身振り手振りを使って、商品を説明する。
「俺は数年前、あの超名門ウィーン芸術学校を卒業して、今は売れない芸術家をやってる者だ。画がなかなか売れない訳だから生活も大変で、女房と子供にも逃げられちまった。そこで副業としてこの変装用のスーツを売り歩いている訳だ。どうだ買わないか?」
なんなのこいつ……いきなり話し掛けて、今度は物を買えですって?
馬鹿にすんのもいい加減にしないさいよ。
そんな気持ちも知らないで、自信たっぷりにそのスーツの説明をする男。
「これは良く出来てる。人間の皮膚と変わらないから、触ってみな?」
「……」
何にこいつ楽しそうにしやがって。
私がゴブリンなのに、こいつは怖くないのかしら。
怯えないのが、なんか腹が立ってくる。
「別人の女でも、男でもなれるんだ?」
人間なんてみんな殺してやるんだから。
そして、拳を振り下げる、が、警察のサイレンの音で思い止まった。
私は逃げるように足早に立ち去る。
すると、男は誘惑の甘い声で、
「あんた、綺麗になりたいんだろ?」
私はその言葉を聞いて、立ち止まった。
その綺麗になりたいんだろうという甘い誘惑には勝てなかった。
私の生きる意味って何だろう。
それは綺麗になりたい、美しくなりたい、可愛くなりたい、美への追求なのだ。
諦められない。
こんな醜いまま、終わるなんて嫌よ。
この地獄の日々から綺麗になって絶対男からちやほやされる幸福な毎日を送ってやる。
上の方で、虫が寄った電灯が寂しく光っている。
その光を頼りに進むと、大きなリュックを背負った、毛深い男が脚で道を塞いだ。
私はギロリと男を睨み、拳を振り上げる。
怪しげな男は動じる様子も無く、企んだ両眼で、腕を組んで、低い声を発っする。
「お客さん、いい物買わないか?」
私は拳を震わせ、止まり、鼻を上げ、恐ろしい脅迫の顔をする。
「人間になんて騙されない」
「まあまあ、落ち着いて。まず商品を見てから買うか買わないかを決めてくれ」
リュックから取り出したのは奇妙な肌色のスーツだった。
異様な程人間の皮膚に近いスーツ。
男は自慢げな様子で、身振り手振りを使って、商品を説明する。
「俺は数年前、あの超名門ウィーン芸術学校を卒業して、今は売れない芸術家をやってる者だ。画がなかなか売れない訳だから生活も大変で、女房と子供にも逃げられちまった。そこで副業としてこの変装用のスーツを売り歩いている訳だ。どうだ買わないか?」
なんなのこいつ……いきなり話し掛けて、今度は物を買えですって?
馬鹿にすんのもいい加減にしないさいよ。
そんな気持ちも知らないで、自信たっぷりにそのスーツの説明をする男。
「これは良く出来てる。人間の皮膚と変わらないから、触ってみな?」
「……」
何にこいつ楽しそうにしやがって。
私がゴブリンなのに、こいつは怖くないのかしら。
怯えないのが、なんか腹が立ってくる。
「別人の女でも、男でもなれるんだ?」
人間なんてみんな殺してやるんだから。
そして、拳を振り下げる、が、警察のサイレンの音で思い止まった。
私は逃げるように足早に立ち去る。
すると、男は誘惑の甘い声で、
「あんた、綺麗になりたいんだろ?」
私はその言葉を聞いて、立ち止まった。
その綺麗になりたいんだろうという甘い誘惑には勝てなかった。
私の生きる意味って何だろう。
それは綺麗になりたい、美しくなりたい、可愛くなりたい、美への追求なのだ。
諦められない。
こんな醜いまま、終わるなんて嫌よ。
この地獄の日々から綺麗になって絶対男からちやほやされる幸福な毎日を送ってやる。
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