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1章ゴブミ脱走

1章7話診療所

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 奥さんはそんな恐怖を内に秘めながらも、優しい笑顔を私に向けた。

「ごめんなさいね。少し、びっくりして」

「いえ」

「寒かったでしょ。さぁ、座って、座って」

 私にブランケットを掛け、椅子に座ることを促す。

「ありがとうございます」

 しかし、金属製の椅子は重さに耐えられず、著しく凹んで、支柱の棒が折れてしまい、私はドスンと尻餅をついてしまう。

「あっ!!」

 奥さんの大きな驚いた声が響く。
 私は顔を真っ赤にして、俯き、頭を下げる。
 情けない。
 本当に情けない。

「すいません……」

「あっ……いや、いいのよ。昨日買ったばかりだけど、きっと壊れていた椅子だったんだわ。あははは」

 奥さんとおじさんは目配せし、苦笑いをする。
 
「じゃあ、丈夫な椅子持ってくるわね」

 奥さんは慌てた足で、一階の廊下を走って行った。
 おじさんは私を慰めるように、肩を優しく叩く。

「まあ、そんなに落ちこまないで。それで、君、整形したいんだね?」

「はい」

「じゃあ。まず、顔をX線スキャンで撮影してから、どうするか決めようか」

 促されたのは白い大きなカプセル。
 巨大な私でも、入れるぐらいの大きさ。
 仰向けになって、数分で、撮影は終わった。
 そして、おじさんは撮影した画像を見て、顎に手を当て、険しい表情をする。

「顎があまりに大きいし、太いし、鉄のように頑丈だ。これを削るなんて、うちじゃ無理だよ。硬度の高い特殊なダイヤ製のドリルなら、何とか可能だけど。この国じゃ、法律にひかかって無理だしね。いや、本当、凄いねゴブリン」

「そんな」

 愕然とする。
 せっかく、農場長を殺して、逃げ出して、整形して綺麗になって新たな人生を歩もうとしていたのに。 
 結局、こんな残酷な結末なの。
 私は涙を滲ませ、唇を真一文字にさせながら、
 
「おトイレ貸してください」

「あっ。ああ、その廊下を渡った先にあるよ」

 おじさんの先程まで、優しかった目は蔑んだ目と変わっていった。
 そして、私が廊下を渡ると、部屋の中から奥さんの話し声が聞こえた。

「もしもし、王国騎士ですか? あの……ばけ……うちにおっきなゴブリンがいるんです。本当に怖くて、早く助けてください!」

「まさか……サイズや色とか分かりますか?」

「はい。緑色のゴブリンです」

 私はカーテンの隙間から奥さんを睨み、醜悪な心が蘇る。
 こいつら……。 
 どいつも、こいつも、人間は……。

「では、今すぐ騎士を向かわせますので、ゴブリンを何とか足止めしてください」

「はい。分かりました」

 奥さんは受話器を置き、カーテンの方を見ると、ピンク色の大きな片眼がこちらを睨んでいて、顔が真っ青になる。
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