あそこにいる公爵令嬢は、実は脱走してきたゴブリンです

1章ゴブミ脱走

1章1話農場

　
　ミノタウロス農場は凶暴なミノタウロスを一人前の貴族のボディーガードにするために、飼育する施設だ。
　その世話や食事をするのは決まって奴隷のゴブリン達の仕事である。
　緑色の小さな鬼達は大量の肉を乗せた台車を運んだり、ミノタウロスの寝床を箒で掃いたり、新しい藁で寝床をつくったりと大忙し。
　すると、人間の農場長のおじさんが杖を振り回しながら、牛舎小屋にやってきた。
　憎たらしい豚のような顔で、時計を見て、溜め息をつく。

「おい！　掃除に何時間かかっとるんだ」

　全てのコブリン達は一斉にビクッとし、作業が止まる。
　おじさんは更に目を細め、杖を向けて、怒鳴る。

「肉を運搬する奴は作業を止めるなぁぁぁ！！」

「ギャァ」

　おじさんが特に怒っているのは、掃除係のゴブミ。
　
「またお前か？　ゴブミ？　お前はいつになったら、仕事を覚える？」

「……すいません」

「また、それか。ん？　何だそのネックレス」

「これは……母の形見です」

「ゴブリンの癖に人間気取りか？　あぁ？」

「すいません」

　おじさんはゴブミを嫌っていた。
　それは醜いゴブリンの顔だからだ。
　ピンク色のカマキリの両眼、大きな鼻の穴、エルフのような両耳、全てが嫌い。
　また、かなり気弱な性格をしているので、返事も小さく、苛つく。
　それだけならば、嫌われることはなかった。
　おじさんは特に身長を気にしているためか、怪物並みの大きさを持つゴブミが腹立たしいため嫌悪感は人一倍。
　ちなみに、おじさんが身長1メートル60センチであるのに対し、ゴブミは雌の割には１メートル80センチ。
　おじさんはゴブミと対峙する時はいつも見上げなければならず、首が疲れる。

「全く本当にお前はデカくて、デブだな！！」

「すいません」

「ブスだしな！」

「すいません」
　
「それしか言えんのか」

「すいません」