上 下
50 / 70
1章勇者の活動

50話二章

しおりを挟む
 看板の指し示す方角には民家と民家を挟んだ、回転寿司屋と名を売った店だった。
 何語か分からない象形文字が描いてある旗が張ってある。
 訳すをタップして見ると、
「エジプト風回転寿司始めました」
 と曰わくありげに書かれていた。

 屋根の上に三角錐のピラミッドの彫刻、黄金の砂造りの外観。
 中を見ると、皿の上の寿司が廻っていて、営業中ということが分かるが、客が見当たらない。
 すると、ストラが耳元で苦しそうな吐息を掛けてくる。

「こうはしてられない。とにかく入ろう」

 入口と見られるガラス張りの扉にそのまま駆は乗り込む。
 しかし、扉が開かず、衝突する。

「痛てぇ!」

 何度か、扉を触ったが、一向に開く気配がない。
 やっぱり、準備中なのか。
 そこへ、店内から白い割烹着を身につけた、店長らしき長身の男が何事かとこちらを見に来た。
 鼻下には黒い黶があって、鼻穴が大きく、少しふざけた顔で駆を下から上までまじまじと見る。
 駆は開けてという合図をする。
 けれど、店長はハテナの表情をする。

「いや、開けてください」

「何で?」

「あの? お店は営業中なんですよね?」

「あんた……お金持ってるの?」

「すいませんけど、うちの妻がお腹を空かせて、もう死にそうなんですよ。握り飯だけでも……なんでも良いので……食わしてください……お金は後で必ず用意しますから」

「はぁ? そんなあんたの事情なんてこっちには関係ないよ。しっしっしっ……帰れ」

 店長は露骨に嫌そうな顔で、手で追い払う仕草をする。
 怒りを抑え、駆は必死で訴える。

「お金なら後で払いますから。だから何か食べさせてくださいよ」

「今から家帰ってお金を持って来な」

「あんたね? 見たら分かるだろ? 妻が死にそうなんだ? 助けてやりたいと思う気持ちはないのか?」

「本当に図々しい奴だな。こちとら、商売でやってる訳よ」

「何が商売だよ? 全然……人入ってねーじゃねか」

「てめぇ……客に分かるか……おれの料理の味がぁ」

「早く潰れろよ……こんな店」
 
 駆はつい口が出てしまい、しまったと表情をする。
 店長は顔を真っ赤にして、ガラス張りの扉の前に駆け寄り、同時に自動で扉が開く。
 そして、舌打ちをする。

「……っ」

 自動扉か。
 でも、なぜさっき開かなかったのか。

 すると、店長は嫌そうな顔、だるそうな声で、

「カウンターの一席に座れよ」

 腹立たしいが仕方無いだろう。
 店に入れてくれるだけでもありがたい。

「あの、できれば二席で」

「あ? 勝手にしろ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

処理中です...