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1章勇者の活動

46話一章

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「お、お、おい。ひでより? ひでより?」

「もしかしたら、二階じゃないの?」

「あれって、ひでよりの声だったか?」

「……」
 
 無言、青白い顔をするストラ。
 駆は口や手が震えるが、それを抑え、少し笑って見せる。

「ははっ……馬鹿じゃねの。ひでよりの声だろ。ちょっとさ、ストラ……上……見て来てくれよ」

「嫌よ」

「え?」

 急に熱が冷めたように、駆から離れるストラ。
 ストラは鼻で少し笑って、両手を少し広げて、不満を撒き散らした。

「なんか、あんた嫌いになった。こんな根性無しとは思わなかったわ」

「ス、ストラ……急にどうしたんだよ?」

「こっち見んな、もう嫌いだから。こっちだってさ……ゲームの設定で、優しい妻演じないといけないの? 嫌々やってたんだよ? ちょっとは理解しろよ糞チビ」

「はぁ?」

「あんたさ、まだ理解してないの?」

「何をだよ? 調子にの……」

「あんたが誘拐犯で指名手配されてるってことよ。本当に鈍いわね。相当……馬鹿ね」

「え?」

 確かにそうだった。
 それはまずいな。
 その時、扉をゴンゴンと怒鳴るように叩きつける音が玄関からした。
 がらがらとした声が響き渡り、一瞬で緊張する。

「騎士団の者ですが? 足軽さんこちらに御在宅でしょうか?」

 口をあんぐり開け、放心状態の駆。
 見かねたストラは溜め息をついて、優しい妻を演じる。

「はい。今、主人は仕事に行ってますので……」

「奥様……あなたも分かってるでしょ! ニュース見ましたよね?」

「あの、主人は」

「奥様……ここを開けて貰えませんか? 話はゆっくりと聞きますので」

 すると、ストラは駆に小声で囁く。

「足軽君早く逃げて」

「いや、でも」

「いいから」

「二階でひでよりが見つかったら、ストラは逮捕されるんじゃないか?」

「いいのよ。私の役割は夫の旅の出発を見届けることよ。それが達成さえすれば良いのよ。これが運命よ。所詮、私はゲームのキャラクターに過ぎないの。短い一時だったけど、楽しかったわ。ありがとう足軽君っ」

 ストラは小動物のような顔で、紫色の両眼を潤ませる。
 設定の記憶が蘇って彼女の心を震わせている。
 その記憶が架空でも、彼女にとって大切な記憶なのだろう。
 噛み締め、何度も頷く仕草、抱き締めてやりたい程、小さな顔や体をしている姿はとても可愛いらしい妻だった。
 駆は目頭を抑え、その場から立ち去ろうとする。
 でも、本当にこのままでいいのか。
 ゲーム設定だかなんだか知らないが、彼女に罪を被せて、逃げ出すなんて、人として最低じゃないのかよ。

「行くぞ!」
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