上 下
22 / 70
1章勇者の活動

22話突如、落とし穴にはまる

しおりを挟む
「これは……」

ーー何かが重い。
 先程までの町の活気盛んな賑わいが一転して、殺伐とした雰囲気に変わる。
 まさか……まだ強敵は早いんじゃないか。
 序盤は雑魚モンスターと戦いながら、徐々に成長していくのが冒険サクセスストーリーの定番だろうが。
 本当に待ってくれ……よ。
 眠りし強スキルやチート能力がまだ覚醒していないんだぞ。

 突然、蒸し蒸しとした暑い風が吹く。
 太陽の熱さだろ?
 
 空気は重く、魔力による絶対的恐怖を感じる。
 手足が震えて、早くここから逃げ出したい。一歩でも相手の範囲内に入れば確実に死ぬだろうことが分かる。
 やめてくれ、やめてくれ。平和に、楽しく、笑って生きたいんだ。
 そんな思いに反して、足を一歩踏み入れてしまった。
 突如として、視界が上下に揺れ、股間に気味の悪いむずがゆさを感じる。
 スローモーションのような視界となる。
 ふと、右を振り向き、ヘレネを掴むが、すぐ嫌そうな顔をされて、振り払われる。


「どこを触ってんのよ!!」


 もがこうと、手足を動かし、再度手を伸ばそうと試みるが、強烈な青髪の少女の張り手で突き飛ばされ、潔く奈落の底へ落下していく。
 恐怖の絶叫をしながら、視界は瞬く間に暗転した。


「臭い……」

 そして、強烈な悪臭が襲う。魚の腐った臭いから始まって、つーんとする馬糞の臭いが鼻を刺激し、身体中には土色の糸が鬱陶しい程まとわりついて、払っても、払っても、ついてくるのだ。
 顔中は馬糞まみれで、死に物狂いで落とし、やっと目と鼻、口は確保できた。
 しかし、臭くて一抹息を止めていたが、危うく死にそうになったので、大きく吸い込むと、尋常ではない臭いが襲った。
 やがて、上から青髪の少女と金髪の少女が覗き込んだ。
 驚いた表情をする。

「あんたどうしたのそれ?」

「どうしたもこうしたもねーよ。何お前俺を突き飛ばしちゃってんの!?」

「はぁ?」

「だから、なぜ突き飛ばしたんだよと言ってんだよ」

「ちょっと遠くて聞こえないわ」

「ったく……」

「いらいらしないでいくれる? 私のせいじゃなから」

「聞こえてんじゃねーかよ!」

「だから、何」

「早く助けろよ」

 駆は怒鳴りながら、助けを訴える。快く快諾するルシアだが、それを制止するヘレネ。

「ルシア様お待ちください……ここは私が」

「でも……二人で」

「私が……」
 
 やけに意気込むヘレネだったが、穴の中に顔を少しだけ入れた瞬間、顔を歪め、すぐに引いた。
 

「おい! 早くし……」

「こんな臭い所に入れる訳ないでしょ! 女性をなんだと思っているのよ!」

「は? いい加減にしろよ! 早く助けろぉぉぉぉ!」

 そんな押し問答が続く。
 その時、不快な笑い声が聞こえてきた。濁声、いかにも性格が悪い声だ。

「ヒャハハハハハハハハ……だっせえな……おれの力作の落とし穴に落ちる……マ……ヌ……ケ……がいるとはな……」
 
 ヘレネ、ルシアの前にその声の主は現れた。
 暗い奥から靴底の音を立たせ、ゆっくりと歩み寄る。
 そこに銀髪、長髪の男がいた。直線に切り揃えられた前髪、横からふんわりとした膨らみ、三日月型の悪巧みのある目、陰湿な顔、それを際立たせる酷い隈、顎辺りに大きめなほくろ。
 祝いや結婚式で着用するような白服といった奇妙な格好。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

元勇者で神に近い存在になった男、勇者パーティに混じって魔王討伐参加してたら追い出されました。

明石 清志郎
ファンタジー
昔とある世界で勇者として召喚され、神に近い存在になった男ジン。 新人研修の一環として同胞の先輩から、適当に世界を一つ選んでどんな方法でもいいから救えと言われ、自分の昔行った異世界とは別の世界を選び、勇者四人の選定も行った。 自分もそこで勇者として潜入し、能力を隠しつつ、勇者達にアドバイスなんかを行い後方支援を行い、勇者を育てながら魔王討伐の旅にでていた。 だがある日の事だ。 「お前うるさいし、全然使えないからクビで」 「前に出ないくせに、いちいちうぜぇ」 等と言われ、ショックと同時にムカつきを覚えた。 俺は何をミスった……上手くいってる思ったのは勘違いだったのか…… そんな想いを抱き決別を決意。 だったらこいつらは捨ててるわ。 旅に出て仲間を見つけることを決意。 魔王討伐?一瞬でできるわ。 欲しかった仲間との真の絆を掴む為にまだよく知らない異世界を旅することに。 勇者?そんな奴知らんな。 美女を仲間にして異世界を旅する話です。気が向いたら魔王も倒すし、勇者も報復します。

【完結】 幼女魔王の婚約者希望、保護者達が絶対別れさせる。勇者は絶対ダメ!

BBやっこ
恋愛
魔王それは魔の国の王であり、強者が治める国らしく強い者が王! しかし、今代に魔王様が倒され、次の魔王様が選出された。 それと言うのも、幼いお嬢様に顎をアッパーさっれたのだ。さすがお嬢様。 「だからだお髭はイヤ」とおっしゃってたのを嫌がるのも可愛いって、しつこいから。 魔王を倒した者が次の魔王(魔の国所属の者に限る)四天王をそのまま、幼女魔王が玉座に! 婚約などするか!我々があの笑顔を守る!

迅英の後悔ルート

いちみやりょう
BL
こちらの小説は「僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた」の迅英の後悔ルートです。 この話だけでは多分よく分からないと思います。

愛玩犬は、銀狼に愛される

きりか
BL
《漆黒の魔女》の呪いにより、 僕は、昼に小型犬(愛玩犬?)の姿になり、夜は人に戻れるが、ニコラスは逆に、夜は狼(銀狼)、そして陽のあるうちには人に戻る。 そして僕らが人として会えるのは、朝日の昇るときと、陽が沈む一瞬だけ。 呪いがとけると言われた石、ユリスを求めて旅に出るが…

魔女は駆け落ちした聖女の身代わりに魔物討伐を命じられました。

ゆき
恋愛
駆け落ちした聖女の代わりに城に召し抱えられたのは、一人ぼっちの魔女だった。のんびり生きていたいだけなのに、どうして私が国なんて守らなきゃいけないんです…!?国王なんて信用出来ないので、もう魔王様に寝返っちゃおうと思います。

秘密の魔王さま‐愛され魔王はイケメンアイドルグループを創る‐

まっしゅ・ぽてと
恋愛
ここは魔法の世界マノス。 仲間思いの魔王サタンは勇者に敗れて、再起を図るために転生魔法を使用したが、間違った魔法を使ったせいで現代の地球”日本”に転生することになってしまった。 地球には魔族もいないし、戦いもない。大切な仲間とも会えない。 失望の中、女神からの使命は、なんとアイドルグループを作ること!あふれ出るフェロモンで周囲を魅了していくサタン。世界一のアイドルグループを作ることはできるのか!? ―――――――――――――――――― 現代日本でみんなに溺愛される魔王が活躍するちょいエロノベルです。 作者はNL、BLどちらもいけます。魔王がみんなに愛されてほしい。 とにかく、主人公が愛される話を目指します。 お時間あれば、読んでみてください。 どうぞよろしくお願いします。

[本編完結]彼氏がハーレムで困ってます

はな
BL
佐藤雪には恋人がいる。だが、その恋人はどうやら周りに女の子がたくさんいるハーレム状態らしい…どうにか、自分だけを見てくれるように頑張る雪。 果たして恋人とはどうなるのか? 主人公 佐藤雪…高校2年生  攻め1 西山慎二…高校2年生 攻め2 七瀬亮…高校2年生 攻め3 西山健斗…中学2年生 初めて書いた作品です!誤字脱字も沢山あるので教えてくれると助かります!

処理中です...