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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第806話 迷宮都市 魔王との契約 1

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「魔族召喚!」

 唱えた瞬間、地面に描いた召喚陣から赤い光が2mくらの高さまで立ち昇るという、ルシファーを呼び出す時にはなかった現象が起きビックリしてしまう。
 この派手な登場の仕方は魔王が一緒にいる所為せいなのかと思い、出現した2人を見るとルシファーはどこか落ち着かない様子に見えた。
 ただ、その顔が不貞腐ふてくされているようなので、父親が依頼を代わるのにはまだ納得していないらしい。

「息子から話は聞いています。アシュカナ帝国から青龍の巫女を連れてくればよいのですね?」

 こちらから依頼する前に、ルシファーの父親は口を開き契約内容の確認をしてきた。
 
「はい、巫女の顔は分かりますか?」

「ええ、息子に見せてもらいましたから人違いをする心配はありません。幸い相手の魔族は領内の者ですし直ぐに帰ってこられますが、青龍の巫女は直接エンハルト王国へ送った方が手間が省けると思います」

 そう言われ、カルドサリ王国からエンハルト王国へいく方法を考えてなかったと気付く。
 この場所に連れてこられても、私達は王宮の移転陣を使用出来る立場にないからアマンダさんへ頼む必要がある。
 それだとダンジョン攻略中のの二度手間になるし、巫女も早く自国へ戻りたいだろう。
 そう考え、父親の提案した事に同意した。

「そうしてくれると助かります」

 エンハルト王国には魔族を召喚した誰かの召喚陣が残っているから、私達より移動は簡単なのかも知れない。

「分かりました。契約を結ぶ前に、その……先日試したアレをもう一度お願い出来ませんか?」

 ルシファーの父親が躊躇ためらうように言うアレとは何だろう?
 思い当たらず首をかしげていると、いつきおじさんが気付いたのか「大縄跳びじゃないか?」と小声でささやいてきた。
 あぁ数日前、挑戦したいと言って縄に引っ掛かり転倒していたわね。
 何故なぜそれを今したいのか分からないけど、こころよく引き受けてもらうため2本の大縄を取り出し父と樹おじさんに回してもらった。

 2本の大縄が大きく交差する中へルシファーの父親はするりと入り、何度か跳んでみせると回っている縄から出て得意げな表情をし息子を見遣る。
 ルシファーは唖然あぜんとしながら父親を見つめ、口をぱくぱく動かしていた。
 一度しただけで簡単に出来る遊びじゃないから、魔界で練習してきたのかしら? 大縄を回す役目は誰に頼んだのかなぁ。
 この場でしたのは息子に見せるためだったらしい。
 ルシファーが難しいと言っていた課題を、自分は出来ると自慢したかったのか……。
 魔王と呼ばれる人なのに、意外と子供っぽい所があるんだな。
 
「何で、跳べるんだ!?」

 ルシファーは叫び、父親に向かい声を上げている。

「お前は、まだまだ未熟だから精進しょうじんしろ」

 ふっと笑い何でもない事のように言う父親の姿を見て、思わず吹き出しそうになった。
 初めてした時、見事に転んだのは内緒にしてあげよう。
 そんな2人の遣り取りに、父と樹おじさんも苦笑していたよ。

「さて、契約をしましょう。息子は対価としての魔力が300だったそうですが、私の身分では最低10,000が必要になります。まぁ貴女様にとっては訳もない数値でしょうが、息子を鍛えて貰った恩もありますから今回は1,000に致します。その代わり、額に祝福のキスを頂けませんか?」

 契約に必要な魔力が10,000なら、この世界で魔王に依頼出来る人物はいないんじゃないかしら? 1,000でも難しそうだけど……。
 最後に加えられた祝福のキスって何? 私がした所で何の効果ないと思うよ?

「まぁ、魔王様は冗談が過ぎますわね。祝福なら私がしてあげますわ」

 どうしようか私が戸惑とまどっている間に、樹おじさんが顔を引きひきつらせルシファーの父親の両頬を手で挟み額へキスをしようとした瞬間、驚いたのか顔を上げる彼の唇と合わさった。
 その時、目を閉じていた樹おじさんは感触の違いに気付いたのか目を開け、ぱっと唇を離し後ずさりショックを受けた顔をしている。
 ルシファーは父親と意中の女性がキスした場面を見てしまい、顔を真っ赤にさせ父親へつかみ掛かっていた。
 キスの相手は男性ですとは言えないため、このまま黙っておこう。

「姫は大胆な真似をしますね。まぁ嫌ではありませんが人前ではなく、今度は2人きりの時にして下さい」
 
 そう言ってウインクしてみせた後、ルシファーの父親は、きた時同様に召喚陣から青い光を出し姿を消した。
 態々わざわざ、違う色の光を出す無駄な魔力を使う必要はあるのかしら?
 この派手な演出に使用したのはライトボールかなと当たりを付け以前、兄と旭が子供達のために色とりどりの花火を打ち上げてくれた事を思い出す。
 呪文を唱える素振りもなかったし、魔族は魔法の使い方が人間とは異なりそうだ。

 それにしても軽い接触事故を起こした樹おじさんの精神的なダメージは、相当深いらしく涙目になって震えている。 
 泣くほど嫌だったのか……。
 こんな事になるのなら、さっさと私が祝福のキスとやらをしてあげれば良かったな。
 樹おじさんの隣で大笑いしている父は親友をなぐさめようとせず、笑うなと樹おじさんに背中をバンバン叩かれていた。
 
「俺を公爵に上げてくれ!」

 突然、落ち込んでいたルシファーが顔を上げ、更に上の爵位を目指すと言う。

「公爵に必要な魔力は幾つなの?」

「魔力は50,000とLvが100になる必要がある」

 う~ん、ルシファーの爵位を上げるのは青龍の巫女を奪還するためだったんだよね。
 その依頼は魔王が代わりに引き受けてくれたから、彼の爵位を上げる理由がない。
 それに、ダンジョン攻略をしている間は付き合う時間も取れないし……。

「今は無理そうだから、ガーグ老に聞いてみるよ」

「あ~ガーグ老達は忙しいから女官長に言っておくわ」

 いつの間にか近くにいた樹おじさんが、話をさえぎり声を掛けてきた。
 ガーグ老達は家具職人としての仕事が忙しいんだろうか?
 
「午前中ならガーグ老の工房で、私が召喚すればいいでしょ?」

「じゃあ、そうしようかルシファー。契約人数は少ないけど、週5日依頼をこなせば2ヶ月くらいで公爵になれると思う。Lvは魔界で上げられないの?」

「魔界にもダンジョンがあるから、魔物を倒せば大丈夫だ」

「そう、じゃあLv上げは自分で頑張ってね」

 魔界にダンジョンがあるなら、異世界につながる召喚陣も見付かるかも知れないなぁ。 
 明日、召喚の約束をするとルシファーは樹おじさんへ、いつもより熱のこもった視線を向け帰っていった。

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