上 下
702 / 755
第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第789話 エンハルト王国 アマンダさんからの依頼 7 魔族への尋問

しおりを挟む
 依頼を受けたのが2週間前なら、巫女が青龍の声を聞けなくなった時期と異なる。
 青龍に関しては、また別の要因がありそうだ。
 少なくともアマンダさんが冒険者活動を始めた時期には、もう聞こえなくなっていたはず

「依頼したのはアシュカナ帝国の人間か?」

「……外見的特徴を見た限り間違いない」

 まぁ、依頼者も態々わざわざ出身国を言わないだろう。
 帝国人は特徴的な姿をしているから、分かりやすいけど……。

「お前の任務内容は?」

「……青龍の守護をなくす事だ」

「どうやって?」

「……巫女に成り代わった俺が、青龍との契約を破棄すればいい」

「巫女の資格を、お前が持っているとは思えないな。青龍は簡単にだまされないぞ?」 

「……契約の破棄は、青龍を殺せば成り立つ」

 不穏な内容に、聞いていた女王が殺気立った。
 
「いや無理だろ。こいつは弱すぎる。依頼者は、巫女と成り代わるのに重点を置いていたんじゃないか? 青龍と契約の破棄は出来ないと分かってて、口封じを兼ねていたかもな」

 いつきおじさんが、依頼内容をそう推測すいそくする。
 確かに目の前の魔族が青龍を殺せるとは思えない。
 
あかねちゃんは、聞き出すのが上手いなぁ。少し、俺も試してみよう」

 魔法を使用したと気付いたのか、樹おじさんが魅惑みわく魔法を試すと言う。
 
「お前の位は?」

「くそっ……言いたくないのに……。貴女が欲しい。好きでたまらない!」

 ……。
 質問とは違う答えが返ってきた。
 魔族の青年は、頬を高揚させ目をうるませている。
 何が起きているの?

「いや、そうじゃねぇ。位を聞いてるだろうが!」

「今直ぐ貴女を抱きたい!」

 そう言いながら青年が、樹おじさんの手をつかみ抱き寄せキスしようとした寸前、ガーグ老が割って入る。

「姫様。ヒビキ殿に、魅惑魔法は使用せんよう言われておらんかったかの」

「あ~そうなんだけど、やっぱり駄目か……」

「姫様は魅惑と誘惑を混同されているようだわ」

 ガーグ老が、やれやれといったように首を振り魔族の意識を失わせた。
 欲しい情報は茜が聞き出したので、問題ないだろう。
 
「王女様、敵の正体をあばいて下さりありがとうございます。我が国も対策する必要がありそうですね。少し休憩に致しましょう。客室へ、ご案内します」

 女王が事前に用意した部屋へ向かい、1時間の休憩となった。
 護衛達と女官長達の部屋は別に用意されているらしく、樹おじさんと私の部屋へ兄・茜・セイさんが集まる。
 一旦いったん、ホームに帰ろう。
 樹おじさんがガーグ老へ扉の外で待つようお願いしてくれたから、その間に皆がトイレを済ませた。
 
「魔族が巫女に成り代わってるなんて予想外だよ。しかもアシュカナ帝国が関係してるなんて……」

「青龍の巫女はさらわれてるしな。思ったより、エンハルト王国の内情は悪いみたいだ」
 
 私の言葉に兄が続く。

「アシュカナ帝国は教会だけじゃなく、魔族ともつながっているのかな?」

「多分、依頼をしただけでしょう。魔族は悪魔に近い存在なので、確実に願いを叶えるためには打って付けの存在です」

 疑問を口にすると、セイさんが答えてくれた。

「悪魔? 願い事と引き換えに魂を差し出すの?」

「この場合、対価となるのは魔力ですね。ステータス値の魔力を奪われるので、普通は魔族に依頼しないんですが……」

「それは一晩経っても回復しないという意味?」

「MP100の人がMP60を契約に使用すれば、その人のステータス値はMP40に変化します」

 それは、非常にリスクを伴う依頼方法だ。
 一度減ったMP値はLvを上げる事でしか増えない。

「魔族への依頼は、誰にでも出来るの?」

「召喚陣がなければ呼び出せません。知っている者は少ないでしょう」

 セイさんは、異世界生活が長いから知っているんだろうか?
 MPを対価に望みを叶えるなら、国と繋がっている訳じゃなさそう。
 契約者が誰であっても魔族は取引しそうだし……。

「樹おじさんが確認しようとしていたって何?」

「魔族にも階級があり、位の高さで強さも変わります。貴族と同じように、爵位を持っているんですよ。魔王が一番強いと思えば間違いありません。今回の魔族は子爵か男爵位ですね」

 いるんだ……魔王。
 勇者はどこに?

「あっ、樹おじさん。ヒルダさんのフリを忘れてるよ? 王女様らしく話さないと!」

「あぁヤバいっ! 女官長にしかられる……」

 演技が上手く出来なくても、怒られたりはしないと思うけど……。
 ただ王女が男性のように話すのは駄目だろう。
 もう散々聞かれてしまったから、女王とヴィクターさんは文献の情報が正しいと確信してるかも?
 10分ほどでホームから客室へ戻り、ガーグ老達と女官長達を部屋に入れる。
 用意された客室は貴賓きひん室なのか30畳くらいの広さがあった。
 2部屋の寝室と大きなリビングの造りになっている。

 待っている間、女官長が香り高い紅茶をれてくれた。
 私と樹おじさんだけは、高そうな茶器で出される。
 異世界では、かなり品質の良い紅茶なんだろう。
 甘い物が食べたかったけど、ここでケーキを出すのはまずいだろうなぁ。
 ロイヤルミルクティーが飲みたかったと思いつつ、ストレートティーを飲み干した。

「イツキ殿。少々、言葉遣いが乱れていましたよ。お気を付け下さい」

 飲み終わると同時に、おじさんが女官長から注意されていた。

「すみません。今後は気を付けます」

 樹おじさんは、殊勝しゅしょうな態度で女官長の言葉を受け止める。
 今更のような気がしなくもないけど、王女らしくした方がいいよね。
 
「青龍の声が聞こえなくなった件と魔族は関係なさそうだけど、何があったと思う?」

「巫女から話を聞きたかったが、いないと原因を探るのが難しいかもな」

 兄は、そう言って考え込む。

「巫女が資格を失ったと考えたら辻褄つじつまが合うんじゃないか?」

「巫女なのに、資格を失うような行為をするかしら? もし自覚があるなら、代替わりしてそうなものだけど……」

「本人に記憶がなければ、資格を失ったと気付かないかも知れない」

 兄の飛躍した予想に樹おじさんが小さく呟く。

「かなり痛いのに、覚えてないなんてあるのか?」

 まるで体験したかのような台詞だ。
 まぁ、初体験を忘れる女性はいないだろうな。
 しかし、それが作為的なものなら意識がないままというのも考えられる。
 国から守護を奪い、弱体化させようと以前から画策していたならどうだろう?
 ダンジョンに呪具を設置し、噂を流して犯罪者を送り込むような手を使う相手だ。
 しないとも言い切れない。
 その場合、巫女の資格を失った彼女を攫ったのに矛盾が生じるけど……。

「単純に青竜王が寝ているだけかもしれませんよ?」

 兄との会話を聞き、セイさんが苦笑しながら言った言葉に茜が笑う。
 
「それなら一発で起きる方法を考えよう!」

 そんな単純な話じゃないと思うよ!
 なのに、樹おじさんまで青龍が目を覚ます方法を考え出した。

めす竜を連れてくるか?」

「発情期じゃなければ意味がないと思います」

 セイさんが真面目に答えている。
 発情期って……。
 役に立ちそうのない会話を続けていると、女王から呼び出しがあった。
 1時間の休憩が終ったらしい。
 私達は再び女王の私室を訪れた。

 -------------------------------------
 お気に入り登録をして下さった方、エールを送って下さった方とても感謝しています。
 読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
 応援して下さる皆様がいて大変励みになっています。
 これからもよろしくお願い致します。
 -------------------------------------
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

断罪されているのは私の妻なんですが?

すずまる
恋愛
 仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。 「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」  ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?  そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯? *-=-*-=-*-=-*-=-* 本編は1話完結です‪(꒪ㅂ꒪)‬ …が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

そんなに幼馴染の事が好きなら、婚約者なんていなくてもいいのですね?

新野乃花(大舟)
恋愛
レベック第一王子と婚約関係にあった、貴族令嬢シノン。その関係を手配したのはレベックの父であるユーゲント国王であり、二人の関係を心から嬉しく思っていた。しかしある日、レベックは幼馴染であるユミリアに浮気をし、シノンの事を婚約破棄の上で追放してしまう。事後報告する形であれば国王も怒りはしないだろうと甘く考えていたレベックであったものの、婚約破棄の事を知った国王は激しく憤りを見せ始め…。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

ここは私の邸です。そろそろ出て行ってくれます?

藍川みいな
恋愛
「マリッサ、すまないが婚約は破棄させてもらう。俺は、運命の人を見つけたんだ!」 9年間婚約していた、デリオル様に婚約を破棄されました。運命の人とは、私の義妹のロクサーヌのようです。 そもそもデリオル様に好意を持っていないので、婚約破棄はかまいませんが、あなたには莫大な慰謝料を請求させていただきますし、借金の全額返済もしていただきます。それに、あなたが選んだロクサーヌは、令嬢ではありません。 幼い頃に両親を亡くした私は、8歳で侯爵になった。この国では、爵位を継いだ者には18歳まで後見人が必要で、ロクサーヌの父で私の叔父ドナルドが後見人として侯爵代理になった。 叔父は私を冷遇し、自分が侯爵のように振る舞って来ましたが、もうすぐ私は18歳。全てを返していただきます! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。