上 下
625 / 755
第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第712話 旭 樹 再召喚 6 義父と義祖父への挨拶&ガーグ老との再会 1

しおりを挟む
 翌朝。
 寝不足の状態で起きると、俺に抱き着いている妻を起こさないようベッドから出る。
 昨日、ひびきが妻も2匹テイムしていると言っていたが何の魔物だろう?
 ダンジョンを攻略するなら、移動出来る騎獣にしたはずだ。
 娘と同じウルフ系なら速そうでいいな。
 リビングでインスタントコーヒーを飲んでいると、妻が不満顔をしプリプリ怒りながら近付いてくる。
 こりゃ、昨日の件が相当不満らしい。

「おはよう、結花ゆか

「私、直ぐに寝ちゃったみたいだけど、起こしてくれたら良かったのに! どうせパジャマを着せるなら、パンツも穿かせてほしかったわ」

 あんな小さな物を俺が身に着けさせるには、色々支障があるんだよ。

「よく寝ているようだったから悪いと思って……。きっと疲れていたんだろう」

「そうかしら? 急に眠くなったのよね~」

 不思議そうにしている妻が朝食を作り出すと、しずくが起きてきた。

「おはよう、お母さん。今日は移動が早いから、お握りでいいよ!」

「そうね、じゃあ簡単な物にするわ」

 日曜日なのに、朝早くから何処どこへ移動するんだ?
 妻は梅干しと昆布の入ったご飯を握り、しょっぱい卵焼きとうっすい味噌汁を作った。
 まぁ、今日の朝食は許容範囲内だろう。
 ご飯を食べて直ぐ異世界の服に着替え家を出ると、ちょうど沙良ちゃん達が迎えにきていた。
 庭には見慣れぬ2匹の魔物がいる。

 どうみても大きなウサギにしか見えないんだが……。
 えっ? もしかして、これが騎獣なの?
 妻にアレキサンドリア・リヒテンシュタイン(通称アレク)と源五郎げんごろうを紹介され、頭が痛くなった。
 名前がおかしい……。
 それに飛び跳ねるウサギは、どう考えても騎獣に向かないだろう。
 何を考えてテイムしたのか謎だ。

「これに乗るのか?」

 思わず指を差し声を出してしまった。
 妻と2人で源五郎げんごろうに乗っても大丈夫だろうか?
 異世界の家へ移転すると、沙良ちゃんが毎週日曜日に親のいない子供達へ炊き出しをしていると言う。
 娘は孤児達の支援をしているらしい。
 優しい子に育ってくれ温かい気持ちになった。

 集まってきた子供達は150人くらいか……。
 待っている間、沙良ちゃんの騎獣に乗り遊んでいる。
 孤児だと聞いたが、見た目じゃ分からない。
 皆が柄の入ったポンチョを着て、首には何かの毛皮を巻き耳当てをしていた。
 顔色も良く健康そうに見える。
 炊き出し後、美佐子みさこさんの兄であるかなでさんが妻の父親だと聞かされ驚く。
 この世界にいる妻の両親にも挨拶へ行こうとしていた所だ。

「じゃあ、結花は美佐子さんの姪になるって事? なんだかややこしいな。えっと、今から会うのは美佐子さんの父親だから、俺には義祖父か……」

 俺は、複雑な表情をしている義理の父に向かいかしこまり挨拶をする。

「結花の夫です。お義父さん、これからよろしくお願いします」

「あぁ、知らない内に娘が結婚済みで夫と子供がいるとはなぁ。前世があると複雑な気分だ……」

 既に聞かされていたんだろうが、娘に前世の記憶があり夫も子供も2人いると知ったら親として思う所がありそうだ。
 再会した娘が、偽装結婚とは言え結婚式を挙げると聞かされたばかりの俺はその心中を察する。
 非常に申し訳ない気持ちになった。
 これから旭家は椎名家と親戚になるな。 
 まぁ、前世夫婦だった関係に比べたら……。

 王都へ移転すると、見覚えのある武器屋に連れていかれ嫌な予感がした。

「えっ! この店って……」

「祖父はドワーフに転生したんです。お願いすれば、武器を作ってもらえると思いますよ?」

「ええっと、名前を聞いてもいいかな?」

「シュウゲンです。日本名は木下 雅美まさみです」

「シュウゲン……」

 嘘だろ!?
 俺達の武器を注文した、あの爺さんが義祖父になるって言うのか?
 約束したお礼を思い出し今はない胸に両手を当てる。

「やべっ」

 俺の小さな声を聞き取った響が、大きく溜息を吐き頭を叩いてきた。
 色仕掛けしたのに気付いているようだ。
 この姿じゃヒルダとバレないよな?
 店内に入ると、沙良ちゃんから義祖父を紹介される。
 俺は初対面の振りをして挨拶したが、内心ハラハラし通しだった。
 こんな複雑な関係になるとは……。
 お礼の約束を反故ほごにする心算つもりはないが、ヒルダとバレた所であの行為をするのは問題だろう。
 結婚式で女性化した時は上手く誤魔化ごまかすしかない。

 次はガーグ老の工房へ移動。
 頼む、お願いだから普通に挨拶してくれよ?
 工房の門を開けた瞬間、2匹の白ふくろうが飛んできた。
 ポチとタマが両肩に止まり、顔を頬にり寄せてくる。
 姿が変わっても、主人だった俺を覚えていると分かり嬉しくなった。

「あ~、元気そう……な白梟だなぁ」

 最初からやらかす所だった。
 危ない危ない、注意しないと……。
 肝心なガーグ老達は、俺の姿を見た瞬間に膝を突き臣下の礼を取る。
 あああぁ~、全然演技する気がないじゃないか!
 その状態で顔を上げたガーグ老は、思い切り泣いている。
 
「姫様! 再びお会い出来るとは……。どうして生きておられるのか絡繰からくりが分からぬが、そのお姿と何か関係があるのか……。一同、帰還をお喜び申し上げる!」

 しかも姫様呼びかよ!
 ガーグ老の声に合わせ、影衆達が立ち上がり剣を捧げる仕草しぐさをする。
 予想通り、ガーグ老達に演技力は皆無だった。
 当然、その場にいる全員が唖然あぜんとしている。
 男性姿の俺に対し、臣下の礼を取り姫様と呼ぶのだから意味不明な行動だろう。

 響の方を見ると、困ったように首を横へ振っている。
 事前に連絡してこの態度なら、対処のしようがないと思っていそうだ。
 俺がその場から逃げ出そうと背を向けると、響が強く手をつかみ引き寄せる。
 耳元で「何とかしろ」とささやかれ覚悟を決めた。

「……何か人違いをしているみたいだから、ちょっと話を聞いてくる!」

 影衆達へ付いてくるよう合図をし、工房内に連れていく。
 さて、何と説明したものか……。
 響は魔道具で姿を変えていると言ったらしい。
 だが、俺は出産後に亡くなってるんだよなぁ。
 ここは必殺、精霊の加護でしのぐか?
 精霊信仰をしているエルフは、精霊がした事だと言えば大抵疑問を持たない。
 不思議な現象は全て精霊の仕業しわざで片が付く。
 しかも王族である俺には、世界樹の精霊王の加護があるしな。

「皆、息災のようで何よりです。こうして再び会えて嬉しいわ」

「姫様、事情を話して下され!」

 ガーグ老が勢い尋ねてくる。
 俺は、なるべくヒルダ時代の口調を思い出し説明を始めた。

「ええっと、そうね。娘を産んだ後、あのままだと命の危険があると危惧きぐした世界樹の精霊王が私の姿を模した人型を残し、別の場所で仮死状態になっていたのよ。治療を受けて目覚めたのは数年前なの。数百年も眠り続けていたから、最初は記憶も曖昧あいまいで……。はっきり戻ったのは、つい最近で思い出したのはいいんだけど、私は死亡した事になっていると聞き姿を変えています」

 こんな感じでどうだろう?

「なんと、そのような事が! 世界樹の精霊王に感謝せねばなるまい。姫様が産んだ御子の話は王から聞いておられるか?」

「ええ、私に似てとても可愛らしいわ。元気に育っているようで安心しました」

「姫様。そのお姿はどうにも慣れぬ、元の姿には戻られないのかの?」

 今女性化したら、70日間元に戻れないから無理だ。

「ちょっと事情があるから、しばらくはこの姿でいるわ。私の娘は【存在を秘匿された御方】と呼ばれる存在よね? 護衛の『万象ばんしょう』達はそろっているかしら?」

「御子には長男のゼンが率いる50人の『万象』達が付いておるから、心配する必要はありませんぞ」

「そう、それなら安心ね。ティーナをしっかり守って頂戴ちょうだい

 やはり、影衆当主の座は息子に代替わりしていたみたいだな。

「また詳しい話は、武術稽古の後でしましょう」

 あまり長く待たせると不審に思われるだろうから、話を終わらせ工房から出ていった。

 -------------------------------------
 お気に入り登録をして下さった方、エールを送って下さった方とても感謝しています。
 読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
 応援して下さる皆様がいて大変励みになっています。
 これからもよろしくお願い致します。
 -------------------------------------
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断罪されているのは私の妻なんですが?

すずまる
恋愛
 仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。 「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」  ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?  そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯? *-=-*-=-*-=-*-=-* 本編は1話完結です‪(꒪ㅂ꒪)‬ …が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

そんなに幼馴染の事が好きなら、婚約者なんていなくてもいいのですね?

新野乃花(大舟)
恋愛
レベック第一王子と婚約関係にあった、貴族令嬢シノン。その関係を手配したのはレベックの父であるユーゲント国王であり、二人の関係を心から嬉しく思っていた。しかしある日、レベックは幼馴染であるユミリアに浮気をし、シノンの事を婚約破棄の上で追放してしまう。事後報告する形であれば国王も怒りはしないだろうと甘く考えていたレベックであったものの、婚約破棄の事を知った国王は激しく憤りを見せ始め…。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

ここは私の邸です。そろそろ出て行ってくれます?

藍川みいな
恋愛
「マリッサ、すまないが婚約は破棄させてもらう。俺は、運命の人を見つけたんだ!」 9年間婚約していた、デリオル様に婚約を破棄されました。運命の人とは、私の義妹のロクサーヌのようです。 そもそもデリオル様に好意を持っていないので、婚約破棄はかまいませんが、あなたには莫大な慰謝料を請求させていただきますし、借金の全額返済もしていただきます。それに、あなたが選んだロクサーヌは、令嬢ではありません。 幼い頃に両親を亡くした私は、8歳で侯爵になった。この国では、爵位を継いだ者には18歳まで後見人が必要で、ロクサーヌの父で私の叔父ドナルドが後見人として侯爵代理になった。 叔父は私を冷遇し、自分が侯爵のように振る舞って来ましたが、もうすぐ私は18歳。全てを返していただきます! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。