上 下
579 / 709
第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第712話 旭 樹 再召喚 6 義父と義祖父への挨拶&ガーグ老との再会 1

しおりを挟む
 翌朝。
 寝不足の状態で起きると、俺に抱き着いている妻を起こさないようベッドから出る。
 昨日、ひびきが妻も2匹テイムしていると言っていたが何の魔物だろう?
 ダンジョンを攻略するなら、移動出来る騎獣にしたはずだ。
 娘と同じウルフ系なら速そうでいいな。
 リビングでインスタントコーヒーを飲んでいると、妻が不満顔をしプリプリ怒りながら近付いてくる。
 こりゃ、昨日の件が相当不満らしい。

「おはよう、結花ゆか

「私、直ぐに寝ちゃったみたいだけど、起こしてくれたら良かったのに! どうせパジャマを着せるなら、パンツも穿かせてほしかったわ」

 あんな小さな物を俺が身に着けさせるには、色々支障があるんだよ。

「よく寝ているようだったから悪いと思って……。きっと疲れていたんだろう」

「そうかしら? 急に眠くなったのよね~」

 不思議そうにしている妻が朝食を作り出すと、しずくが起きてきた。

「おはよう、お母さん。今日は移動が早いから、お握りでいいよ!」

「そうね、じゃあ簡単な物にするわ」

 日曜日なのに、朝早くから何処どこへ移動するんだ?
 妻は梅干しと昆布の入ったご飯を握り、しょっぱい卵焼きとうっすい味噌汁を作った。
 まぁ、今日の朝食は許容範囲内だろう。
 ご飯を食べて直ぐ異世界の服に着替え家を出ると、ちょうど沙良ちゃん達が迎えにきていた。
 庭には見慣れぬ2匹の魔物がいる。

 どうみても大きなウサギにしか見えないんだが……。
 えっ? もしかして、これが騎獣なの?
 妻にアレキサンドリア・リヒテンシュタイン(通称アレク)と源五郎げんごろうを紹介され、頭が痛くなった。
 名前がおかしい……。
 それに飛び跳ねるウサギは、どう考えても騎獣に向かないだろう。
 何を考えてテイムしたのか謎だ。

「これに乗るのか?」

 思わず指を差し声を出してしまった。
 妻と2人で源五郎げんごろうに乗っても大丈夫だろうか?
 異世界の家へ移転すると、沙良ちゃんが毎週日曜日に親のいない子供達へ炊き出しをしていると言う。
 娘は孤児達の支援をしているらしい。
 優しい子に育ってくれ温かい気持ちになった。

 集まってきた子供達は150人くらいか……。
 待っている間、沙良ちゃんの騎獣に乗り遊んでいる。
 孤児だと聞いたが、見た目じゃ分からない。
 皆が柄の入ったポンチョを着て、首には何かの毛皮を巻き耳当てをしていた。
 顔色も良く健康そうに見える。
 炊き出し後、美佐子みさこさんの兄であるかなでさんが妻の父親だと聞かされ驚く。
 この世界にいる妻の両親にも挨拶へ行こうとしていた所だ。

「じゃあ、結花は美佐子さんの姪になるって事? なんだかややこしいな。えっと、今から会うのは美佐子さんの父親だから、俺には義祖父か……」

 俺は、複雑な表情をしている義理の父に向かいかしこまり挨拶をする。

「結花の夫です。お義父さん、これからよろしくお願いします」

「あぁ、知らない内に娘が結婚済みで夫と子供がいるとはなぁ。前世があると複雑な気分だ……」

 既に聞かされていたんだろうが、娘に前世の記憶があり夫も子供も2人いると知ったら親として思う所がありそうだ。
 再会した娘が、偽装結婚とは言え結婚式を挙げると聞かされたばかりの俺はその心中を察する。
 非常に申し訳ない気持ちになった。
 これから旭家は椎名家と親戚になるな。 
 まぁ、前世夫婦だった関係に比べたら……。

 王都へ移転すると、見覚えのある武器屋に連れていかれ嫌な予感がした。

「えっ! この店って……」

「祖父はドワーフに転生したんです。お願いすれば、武器を作ってもらえると思いますよ?」

「ええっと、名前を聞いてもいいかな?」

「シュウゲンです。日本名は木下 雅美まさみです」

「シュウゲン……」

 嘘だろ!?
 俺達の武器を注文した、あの爺さんが義祖父になるって言うのか?
 約束したお礼を思い出し今はない胸に両手を当てる。

「やべっ」

 俺の小さな声を聞き取った響が、大きく溜息を吐き頭を叩いてきた。
 色仕掛けしたのに気付いているようだ。
 この姿じゃヒルダとバレないよな?
 店内に入ると、沙良ちゃんから義祖父を紹介される。
 俺は初対面の振りをして挨拶したが、内心ハラハラし通しだった。
 こんな複雑な関係になるとは……。
 お礼の約束を反故ほごにする心算つもりはないが、ヒルダとバレた所であの行為をするのは問題だろう。
 結婚式で女性化した時は上手く誤魔化ごまかすしかない。

 次はガーグ老の工房へ移動。
 頼む、お願いだから普通に挨拶してくれよ?
 工房の門を開けた瞬間、2匹の白ふくろうが飛んできた。
 ポチとタマが両肩に止まり、顔を頬にり寄せてくる。
 姿が変わっても、主人だった俺を覚えていると分かり嬉しくなった。

「あ~、元気そう……な白梟だなぁ」

 最初からやらかす所だった。
 危ない危ない、注意しないと……。
 肝心なガーグ老達は、俺の姿を見た瞬間に膝を突き臣下の礼を取る。
 あああぁ~、全然演技する気がないじゃないか!
 その状態で顔を上げたガーグ老は、思い切り泣いている。
 
「姫様! 再びお会い出来るとは……。どうして生きておられるのか絡繰からくりが分からぬが、そのお姿と何か関係があるのか……。一同、帰還をお喜び申し上げる!」

 しかも姫様呼びかよ!
 ガーグ老の声に合わせ、影衆達が立ち上がり剣を捧げる仕草しぐさをする。
 予想通り、ガーグ老達に演技力は皆無だった。
 当然、その場にいる全員が唖然あぜんとしている。
 男性姿の俺に対し、臣下の礼を取り姫様と呼ぶのだから意味不明な行動だろう。

 響の方を見ると、困ったように首を横へ振っている。
 事前に連絡してこの態度なら、対処のしようがないと思っていそうだ。
 俺がその場から逃げ出そうと背を向けると、響が強く手をつかみ引き寄せる。
 耳元で「何とかしろ」とささやかれ覚悟を決めた。

「……何か人違いをしているみたいだから、ちょっと話を聞いてくる!」

 影衆達へ付いてくるよう合図をし、工房内に連れていく。
 さて、何と説明したものか……。
 響は魔道具で姿を変えていると言ったらしい。
 だが、俺は出産後に亡くなってるんだよなぁ。
 ここは必殺、精霊の加護でしのぐか?
 精霊信仰をしているエルフは、精霊がした事だと言えば大抵疑問を持たない。
 不思議な現象は全て精霊の仕業しわざで片が付く。
 しかも王族である俺には、世界樹の精霊王の加護があるしな。

「皆、息災のようで何よりです。こうして再び会えて嬉しいわ」

「姫様、事情を話して下され!」

 ガーグ老が勢い尋ねてくる。
 俺は、なるべくヒルダ時代の口調を思い出し説明を始めた。

「ええっと、そうね。娘を産んだ後、あのままだと命の危険があると危惧きぐした世界樹の精霊王が私の姿を模した人型を残し、別の場所で仮死状態になっていたのよ。治療を受けて目覚めたのは数年前なの。数百年も眠り続けていたから、最初は記憶も曖昧あいまいで……。はっきり戻ったのは、つい最近で思い出したのはいいんだけど、私は死亡した事になっていると聞き姿を変えています」

 こんな感じでどうだろう?

「なんと、そのような事が! 世界樹の精霊王に感謝せねばなるまい。姫様が産んだ御子の話は王から聞いておられるか?」

「ええ、私に似てとても可愛らしいわ。元気に育っているようで安心しました」

「姫様。そのお姿はどうにも慣れぬ、元の姿には戻られないのかの?」

 今女性化したら、70日間元に戻れないから無理だ。

「ちょっと事情があるから、しばらくはこの姿でいるわ。私の娘は【存在を秘匿された御方】と呼ばれる存在よね? 護衛の『万象ばんしょう』達はそろっているかしら?」

「御子には長男のゼンが率いる50人の『万象』達が付いておるから、心配する必要はありませんぞ」

「そう、それなら安心ね。ティーナをしっかり守って頂戴ちょうだい

 やはり、影衆当主の座は息子に代替わりしていたみたいだな。

「また詳しい話は、武術稽古の後でしましょう」

 あまり長く待たせると不審に思われるだろうから、話を終わらせ工房から出ていった。

 -------------------------------------
 お気に入り登録をして下さった方、エールを送って下さった方とても感謝しています。
 読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
 応援して下さる皆様がいて大変励みになっています。
 これからもよろしくお願い致します。
 -------------------------------------
しおりを挟む
感想 2,333

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転生皇女は冷酷皇帝陛下に溺愛されるが夢は冒険者です!

akechi
ファンタジー
アウラード大帝国の第四皇女として生まれたアレクシア。だが、母親である側妃からは愛されず、父親である皇帝ルシアードには会った事もなかった…が、アレクシアは蔑ろにされているのを良いことに自由を満喫していた。 そう、アレクシアは前世の記憶を持って生まれたのだ。前世は大賢者として伝説になっているアリアナという女性だ。アレクシアは昔の知恵を使い、様々な事件を解決していく内に昔の仲間と再会したりと皆に愛されていくお話。 ※コメディ寄りです。

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

策が咲く〜死刑囚の王女と騎士の生存戦略〜

鋸鎚のこ
ファンタジー
亡国の王女シロンは、死刑囚鉱山へと送り込まれるが、そこで出会ったのは隣国の英雄騎士デュフェルだった。二人は運命的な出会いを果たし、力を合わせて大胆な脱獄劇を成功させる。 だが、自由を手に入れたその先に待っていたのは、策略渦巻く戦場と王宮の陰謀。「生き抜くためなら手段を選ばない」智略の天才・シロンと、「一騎当千の強さで戦局を変える」勇猛な武将・デュフェル。異なる資質を持つ二人が協力し、国家の未来を左右する大逆転を仕掛ける。 これは、互いに背中を預けながら、戦乱の世を生き抜く王女と騎士の生存戦略譚である。 ※この作品はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※本編完結・番外編を不定期投稿のため、完結とさせていただきます。

幻想美男子蒐集鑑~夢幻月華の書~

紗吽猫
ファンタジー
ーー さぁ、世界を繋ぐ旅を綴ろう ーー 自称美男子愛好家の主人公オルメカと共に旅する好青年のソロモン。旅の目的はオルメカコレクションー夢幻月下の書に美男子達との召喚契約をすること。美男子の噂を聞きつけてはどんな街でも、時には異世界だって旅して回っている。でもどうやらこの旅、ただの逆ハーレムな旅とはいかないようでー…? 美男子を見付けることのみに特化した心眼を持つ自称美男子愛好家は出逢う美男子達を取り巻く事件を解決し、無事に魔導書を完成させることは出来るのか…!? 時に出逢い、時に闘い、時に事件を解決し… 旅の中で出逢う様々な美男子と取り巻く仲間達との複数世界を旅する物語。 ※この作品はエブリスタでも連載中です。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。