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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第699話 迷宮都市 『白雪姫』の演劇 2

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 アマンダさんのアドリブを聞いた私は唖然あぜんとし、近くにいたケンさんを見た。
 事前に打ち合わせしていたのかと思ったら、彼もまた青ざめた顔をしている。
 完全に彼女の独断のようだ。

「白雪姫の噂を聞いた隣国の王子との縁談を持ち掛けられているけど、あの子は世間知らずだからねぇ。他国に嫁いでやっていけるか心配だ。可愛い子には旅をさせろと言うし、どれ少し鍛え直そう」

 どうやら白雪姫には縁談が持ち上がっているらしい……。
 これはきっと、最終的に結婚する王子様の事ですよね?
 私は先の見えない話を予想しようと、アマンダさんの台詞せりふを聞き逃さないよう注意する。

『鏡の答えを聞いたお妃様は、家来を呼びつけました』

 ここは本当なら、鏡の回答にお妃様が怒り狂う場面だ。
 家来へ白雪姫を殺し黒髪を全て切り取り、証拠として持ち帰ってくるように命じる必要があるんだけど……。
 怒っている様子は一切ない。

「これから白雪姫を連れ城を出なさい。1人で森に置いてくるんだよ。そうさね、少女・・の姿では危険だから髪を切って男装するよう忠告してやるといい。白雪姫には1年後、私が迎えに行くまで森で過ごすよう伝えておくれ」

「承知致しました」

『そうして家来に城から連れ出された白雪姫は、何も知らず尋ねます』

「ずいぶん遠くに来たわね……、どこまで行くの?」

「お妃様より1年間、森の中で過ごすよう言われております。白雪姫様、黒髪を切り男装なさって下さい。この先へ妖精の住む家があります。彼らに助けを求めれば、森で生き延びるのは容易たやすいでしょう。どうか、ご無事で……」

『暗い森の中を、独り彷徨さまよう白雪姫。だんだん心細くなっていきます。すると……遠くに家が見えてきました』 

「あれが、妖精さんの家? ええっと確か男装しないといけないわよね」

 アマンダさんの設定では、白雪姫の衣装のままでは駄目らしい。
 かといって、舞台の上で着替える訳にもいかないし……。
 悩んでいると、先程案内してくれた家来が戻ってきた。

「白雪姫様。マジックテントを出しますから、着替えをなさって下さい」

 そう言い、マジックバッグを渡される。
 良かった。
 フォロー態勢は万全みたい。
 私は家来にお礼を言ってマジックテントの中に入り、兄の着られなくなった冒険者の服装に着替え髪の短いかつらを着けた。
 これで男装したように見えるかしら?
 マジックテントから出て行くと、家来が私を見てなんとも言えない表情になる。

「……白雪姫様、出来ればその上に防具を着た方がよろしいかと……」

 あぁ、これじゃ胸を隠せないわね。
 私は家来の忠告通り、再びマジックテントに入りワイバーン製の革鎧を身に着けた。
 
少年・・なら、なんとか……?」

 家来は、そう呟き私を置き去りにし城へ帰っていった。

『妖精の家へ辿たどり着くまでに疲れていた白雪姫は、中に入りベッドへ横たわると、いつの間にかすやすやと眠ってしまいました。山へ宝石を採りに行っていた妖精たちは、びっくり! 玄関のドアが開いており、ベッドには少年・・が眠っているではありませんか!?』

「おやおや。君は一体、誰なんだい?」

「あぁ……。僕は眠ってしまったのか……」

『妖精の声に、白雪姫は驚いて目を覚ましました』
 
「ここは、君達のおうち? ごめんなさい。勝手に入ってしまって」

「いいや、そんなことは構わんさ。それより、どこから来たんだい?」

「僕は、ずぅっと遠くのお城から来ました。1年後に迎えが来るまで、そこへは帰れません……」

「それは、可哀想かわいそうに」

「どうぞ、いつまでもここにいて下さい」
 
『翌朝、妖精達が仕事に出掛けていくと、白雪姫はパンを焼きスープを作り、お掃除や洗濯をして、妖精達の帰りを待ちました。妖精達は、白雪姫が作ってくれた珍しい白いスープ・・・・・に喜び大絶賛! こんなに美味しい食事が毎日食べられ、仕事から帰れば綺麗になった家に清潔な着替えが用意されているのです。妖精達は1年と言わず、ずっと家にいてほしいと願う程でした』

「白雪……少年、私達が仕事に行っている間は鍵を掛け誰も家に入れてはいけないよ。そうだ、合言葉を決めよう。扉を3回ノックした後、山と問い掛けてくれれば川と答えるからね」

「分かりました。ちゃんと鍵を掛け、お留守番しています」

『大変可愛らしい白雪姫が1人で家にいるのを心配した妖精達は、一計を案じ合言葉を伝えるのでした。一方、お妃様は家来が持ち帰った黒くて長い髪を見ると、少し寂しげな表情を浮かべます』

「世間を知るためとは言え、こくな事をしてしまった。戻ってきた白雪姫に渡せるよう、かつらにしておこう。さて、あの子はたくましく生きているかねぇ」

「白雪姫様は、森の奥にある妖精達の家に住んでおられます。毎日、掃除や洗濯、食事を作っているようですよ」

「そうかい、そうかい。城の中では経験出来ない貴重な体験だね。それで、少しは用心深くなったかい?」

「はぁ……。妖精達が不在の折は、誰も家の中に入れるなと注意しておりますが……」

「じゃあ、確かめに行こうかね」

『お妃様は毒を塗ったりんごを作ると、おばあさんに変装しました』

 トントントン。
 家の扉が3回ノックされたので、私は妖精さん達と決めた合言葉を言った。

「山」

『白雪姫が可愛らしい声で問い掛けると、外からしゃがれた声が聞こえました』

「りんご売りの婆さんだ。転んで足をくじいてしまってな。少し休ませてもらえないだろうか?」

『妖精達から誰も家に入れてはいけないと言われていましたが、優しい白雪姫はお婆さんを家へ招き入れました』

「…だいぶ楽になった。お礼に、このりんごを差し上げよう」

「こんなに真っ赤なりんご、初めてだ!」

「特別美味しいりんごだよ。さぁ、早くお食べ」

『喜んで一口りんごをかじろうとする白雪姫でしたが…』

 渡されたりんごを、お婆さんの姿をしたアマンダさんが叩き落としてしまう。

「白雪姫! 知らない人から物を貰ってはいけないと教えただろう?」

「あら、その声は……お義母様かあさま? どうしておばあさんの姿をしていらっしゃるの? 迎えに来るのは1年後では?」

 アマンダさんが毒りんごを食べさせようとしていないと分かり、私は話の流れにそってアドリブを続ける。
 もう内心冷や冷やで、心臓はバクバクしっぱなしだ。
 覚えた台詞がまったく役に立たないとは……。

「お前がちゃんとやっているか見に来たんだよ。まず、合言葉を言わない時点で家に人を入れるのがもう駄目じゃないか。何を考えているんだい。弱った振りをして優しさに付け込む人間は多いんだよ。そういう時は、誰か戻ってくるまで待つんだ。知らない人物から渡された物を、簡単に口にするのもいけないね。王族は、常に毒見役が確認した後で食べるもんだよ。あぁ、これじゃ他国に嫁にやるなんて出来やしない」

「ごめんなさい。これから気をつけます」

「お前の性格は変わらないだろう。やれやれ、私が一から教育する必要がありそうだ。さぁ、帰る準備をおし」
 
「あの、お世話になった妖精さん達にお礼がしたいんですけど……」

「あぁ、それなら褒美ほうびを渡すから城に来いと書いてやりな」

 私は言われた通り羊皮紙に伝言を残し、妖精さんの家を出た。
 あれ? 王子様の出番は?
 
『家に戻ってきた妖精達は、白雪姫が城に帰ったと知りなげき悲しみます。もう一度会いたいと願い、城へとやって来ました』

「お前達、白雪姫を助けてくれて礼を言う。褒美は、私に勝ったら白雪姫と結婚させてやるがどうだ?」

『お妃様からの思わぬ提案に、妖精達が色めき立ちました。助けた少女は少年姿をしていましたが、彼らは白雪姫だと知っていたのです。お嫁さんになってくれるならと、お妃様にいどみますが全員が負けてしまいました』

 いや、どんだけ強いお妃様なの!?
 そして王子様との縁談話はどこいった!

「お前達、もっと精進しょうじんしてからくる事だね」

『お妃様に敗れた妖精達は、幾度も城に来てはお妃様へ勝負を挑みます。そして遂に、1人の妖精が勝ちました』

 結局、勝ったのかい!
 
『お妃様は満足そうに笑い、その妖精と白雪姫を結婚させたのでした。お城で2人は王様とお妃様のもと、いついつまでも仲良く幸せに暮らしました』

 おおしまい。
 白雪姫が王子様と出会わず妖精さんと結婚する話に変わったよ!
 そして、この物語は子供達の何の教訓になったんだろうか……。

 最後に出演者総出で舞台に上がると、子供達が歓声を上げ大きな拍手をしてくれた。
 後ろの方にサヨさんとシュウゲンさんの姿を見付ける。
 2人は、何だか酸っぱい物でも飲み込んだかのような顔をしていた。
 まぁ、これだけ子供達が喜んでくれたなら良しとしよう。
 しかし、次回は絶対に出演しないと決めたのだった。

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