自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第692話 迷宮都市 武術稽古 お礼の『サーモンのムニエル』

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 日曜日、朝7時。
 メンバーと異世界の家へ移転し、母親達と炊き出しの準備を始める。
 8時になると、従魔達と遊びたい子供達が集まってきた。
 先週、妹と従魔のダイアン達を紹介したので、お目当ては黒ひょうだろう。
 騎乗出来る従魔が増え、順番待ちも少なくて済むから子供達もご機嫌でその背中に乗っている。
 茜がダイアンに少し浮き上がるよう指示すると、2人乗りしている子供達のはしゃぐ声が聞こえてきた。

 私もシルバーに浮遊魔法を使用して、子供達を楽しませてねとお願いする。
 宙に浮いた状態で怖くないかな? と心配したけど、笑顔になっている姿を見ると問題なさそう。
 スープとパンの他、『キッシュ』を配り食べている姿を微笑ましくながめた。
 これから冒険者活動に行く子供達へバナナを1本ずつ渡し見送り、後は母親達に任せガーグ老の工房へ向かう。

 工房の庭には、ガーグ老を筆頭に全員がそろい整列している。
 事前にポチとタマが、毎回連絡をしているんだろうなぁ。
 最近は工房の仕事を休んでいるからか、顔がポーションまみれになっている事もない。
 2匹の白ふくろうは、いつきおじさんを見ると飛んできて両肩に止まる。
 10匹のガルちゃん達も私を目掛け駆け寄ってきた。
 1週間いい子にして偉いね~と口に出さずねぎらいながら、その背中を1匹ずつでてあげる。

「おはようございます。皆さん、今日もよろしくお願いしますね」

「サラ……ちゃん、ようきたな。どれ、今日は久し振りに儂が相手をしようかの」

 シュウゲンさんが稽古に参加するようになってから、ガーグ老の相手はずっと祖父だったから私と稽古は随分ずいぶんしていない。
 少しは成長した姿を見せられるだろうか?
 相手がいなくなったシュウゲンさんは、あかねとセイさんの2人を相手に仕合をするようだ。
 ガーグ老の一声で稽古が始まる。
 一礼してから槍を構え、まずは教えてもらった突きを繰り出した。
 Lvが上がり踏み込む速度も上がっている。
 私の槍をガーグ老は難なく受け止め、らされた。

 そのまま、くるりと回転し次はぎ払いを行う。
 これは間合いを充分取られかわされた。
 後退したガーグ老へ詰め寄り足払いをしようと、手に持った短槍ではなくアイテムBOXから出したターンラカネリの槍を振るう。
 しかしガーグ老はふわりと浮き上がり、その足に槍はかすりもしなかった。

 得物えものを変えて、間合いの長さが変化したら少しはすきが出るかと思ったのに……。
 こうなったら物量作戦だ!
 私はアイテムBOXに腐る程ある、(偽)ターンラカネリの槍を次々にガーグ老へ投げつける。
 それを、ひょいひょいと躱され意地になった。
 気付いた頃には、地面へ槍が大量に刺さった状態でガーグ老が笑っている。

「サラ……ちゃんは、負けず嫌いだのぉ。姫様とそっくりだわ」

「あの、聞いて良いか分かりませんが……。護衛していた姫様は生きてらっしゃるんですか?」
 
 ずっと疑問に思っていた件を、この機会に聞いてみよう。
 私が質問すると、ガーグ老は目に見えて狼狽うろたえ始める。
 目をきょろきょろと動かし一度空をあお仕草しぐさをして、一瞬だけちらりと他に視線を向けた。

「姫様は……、生きておられる。今も元気に剣の練習をしていなさるよ」

 そう言って、自分の胸に手を当てる。
 あぁ、ガーグ老の思い出の中で姫様は生きているのか……。
 私はそれ以上、何も言えずガーグ老の気持ちをおもんぱかった。
 それから、地面に刺さった槍をマジックバッグへ回収し稽古は終了。
 ガーグ老が父と樹おじさんを呼び、工房の中に入っていく。
 2人と何の話をするのかな? 結婚式の打ち合わせだろうか?

 さて、しずくちゃんと昼食の準備を始めよう。
 『サーモンのムニエル』に『人参のグラッセ』と素揚げしたじゃが芋、それに『ロールパン』と『シチュー』。
 ムニエルに使用するのは迷宮サーモンだ。
 一切れをかなり大きくすれば、ご老人達や兄達も満足するだろう。
 前回『バンズ』を出したので『ロールパン』も大丈夫だよね?
 
 塩・胡椒こしょうしたサーモンを、雫ちゃんに小麦粉を付けバターできつね色になるまで焼いてほしいとお願いする。
 私はその間に『シチュー』と付け合わせ2品を作った。
 完成した料理を三男のキースさんが運んでくれる。
 雫ちゃんのお母さんと木の下へお供えに行き、席に着く。 
 
「お待たせしました。皆さん、今日もありがとうございます。お昼のメニューは、『サーモンのムニエル』・『シチュー』・『ロールパン』です。それでは頂きましょう」

「頂きます!」 

 魔魚まぎょを口にする機会が少ない異世界の人は、『サーモンのムニエル』を見て興味津々の様子。
 バターも迷宮都市では流通していなから、食べた事のない味だろう。

「おぉ! 揚げた物もいいが、これも中々旨いの~」

 ガーグ老がはしを使用し、切り分けずにそのままかぶり付いていた。
 豪快ごうかいな食べ方だなぁ。
 それを見た部下のご老人達も同じように食べ始める。
 2人のお嫁さんを見ると、こちらも同様の食べ方をしていた。
 あぁ、今日も口紅がはみ出てすごい状態になってますけど……。
 本人達は気にしていないらしい。

「そろそろ結婚式の準備を始めた方がいいと思うが、サラ……ちゃんの衣装は決まっておるのか?」

 あぁ、衣装をすっかり忘れていたよ!
 しかも当日、樹おじさんが女性化して代役を務める話をしたっけ?

「ガーグ老、実は……」

 私は非常に言いづらい事を伝えた。
 樹おじさんが女性化するのは、姿変えの魔道具に置き換えて話をする。

「なんと! 相手はサラ……ちゃんではないのか!? それなら、儂も正装せねばなるまい。イツキ殿の着飾った姿を見られるとは……。長生きはするもんだわ」

 ガーグ老は何故なぜか、樹おじさんの女装姿に喜んでいるような?
 似合うかどうか分かりませんよ?
 ガーグ老の言葉に、おじさんが苦笑いし、旭家の全員が微妙な顔になった。
 親友である父は女性化を止めもしない。
 取りえず、私用と樹おじさん用の2着を用意しておこう。
 女性化した後のサイズが分からないから、前日には変化してもらう必要がありそうね。
 駄目だったら、最初の予定通り私が出ればいい。
 食後、後片づけをしている所に父が近付き小声で話す。

「沙良。今のLvは幾つなんだ?」

 あぁ、ガーグ老との稽古でLvが上がったのがバレたのか……。
  
「……Lv105になりました」

 あれから99階を茜と内緒で攻略しているので、Lv100から少し上がったのだ。
 
「105だと!? どうやって、Lv上げをしたんだ」

「ええっと、茜と一緒に99階のベヒモスを倒したら一気に上がったみたい?」

 正確には私の単独討伐だけど……。 
 それを聞いた父が、大きな溜息を吐き軽く頭を小突かれる。

「沙良、勝手に階層を移動するな。お前の所為せいで寿命が縮みそうだ。賢也けんやには内緒にしてやるが、今後99階の攻略は禁止する。ちゃんと31階のテント内で待機していろ」

 声を押さえてはいたものの、父に厳しく叱責しっせきされシュンとなった。
 まぁ目標にしていたLv100以上になったし、HPやMP値を上げる丸い玉を毎日めればステータスは上げられる。
 アシュカナ帝国との開戦には間に合うはず

「分かりました」

 良い子の返事をし父を安心させておこう。
 茜は残念がるかも知れないけど、バレてしまったのなら仕方ない。
 その後、雫ちゃんのお母さんと木の下に行き、お礼の手紙を拾った。
 雫ちゃんのお母さんは前回お願いされたホットケーキを持参したため、妖精さんから大きな文字で感謝の言葉が書かれている。

 きっと、その内変化球が投げられると思うから、妖精さんが安心するには早いだろうなぁ。
 毎週、同じ物を作るのは飽きるに違いない。
 タイミング悪く当たる妖精さんに今から謝っておこうかしら?
 昼食とショートブレッドのお礼が書かれた羊皮紙を読み、父達を置いて工房を後にした。

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