上 下
504 / 709
第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第637話 迷宮都市 武術稽古 届いた騎獣 1 赤い魔物

しおりを挟む
 日曜日、朝7時。
 朝食後に兄へ受け取った槍を渡すと、それを見た旭がうらやましそうな顔をする。
 兄はロマン武器が手に入り嬉しのか、穂先を見つめニヤニヤしていた。
 アダマンタイトはキラキラしているから、見た目も綺麗な鉱物だし切れ味もするどい。
 旭にとって血のつながりはないけど、シュウゲンさんは祖父になるのでお願いすればいいと思うよ?
 実家に泊まったシュウゲンさんは、ガーグ老と再戦すると言い武術稽古に付いてくるそうで、隣のかなで伯父さんもやる気をみせている。

 異世界の家へ移転し母親達と一緒に炊き出しの準備を始めた。
 槍のLv上げで沢山狩ったハイオーク2匹分の肉を引き取り、お肉屋さんに解体してもらったから、子供達の好きな串焼きも作ってあげよう。
 バーベキュー台を出し、串に刺したハイオーク肉を焼き始めると父とシュウゲンさんが代わってくれる。
 8時に子供達が集まる頃は、串焼きの匂いが庭に充満していた。

 スープだけじゃなく、今日は串焼きもあると知った子供達が笑顔になる。
 塩味ではない『焼肉のタレ』の香ばしい匂いに、食べた事のある味を思い出したのだろう。
 従魔達と遊びながらも、バーベキュー台に目が釘付けだ。
 どうせなら熱々の状態で食べてほしいから、焼きあがった串焼きはアイテムBOXへ収納しておこう。
 具沢山スープと大きくカットした串焼きを1本ずつ渡し、兄達がパンを配ると一番に串焼きを頬張る子供達の姿が微笑ましい。

 子供達に支援をしていると知ったシュウゲンさんが、「優しい孫じゃな」と言い頭をでるので、祖父との記憶がほとんどない私は少し恥ずかしい思いをする。
 食べ終わった子供達へバナナを渡し見送った後、従魔に乗りガーグ老の工房へ向かう際、シュウゲンさんには旭と一緒に山吹やまぶきへ乗ってもらった。
 父や奏伯父さんは体格が良いので、一番背が低い旭の従魔なら負担も少ないだろう。

 ガーグ老の工房へ着いた途端とたん、ポチとタマが飛んできていつきおじさんの両肩に止まり、ご機嫌な様子で体を揺らしていた。

「サラ……ちゃん、ようきたの。シュウゲン、お主までまたくるとは……」

 ガーグ老がシュウゲンさんを見て、苦虫をみ潰したような顔になる。
 シュウゲンさんは初対面みたいだったけど、2人の間には何かあったんだろうか?
 姫様であるヒルダさんの武器をシュウゲンさんが鍛えたなら、護衛していたガーグ老と面識があってもおかしくない。
 けど、そのヒルダさんって数百年前に亡くなったのよね?

 あれ? じゃあ、ガーグ老達は人間じゃないのかしら?
 獣人も種族によって、かなり長命だと聞く。
 耳や尻尾が付いていれば見た目で分かるんだけどなぁ。
 この世界の獣人は、人間と変わらない姿をしているから判断出来ない。
 種族を聞いても良いものだろうか? ステータス同様、聞くのはタブーかも知れず質問するのは躊躇ためらわれた。
 後で、こっそりドワーフのシュウゲンさんに聞いてみよう。

「先週の決着がまだ付いておらんじゃろう。今日こそ、お主に勝ってやる!」

「ガーグ老。どうか私とも、本気で手合わせをお願いします!」

 シュウゲンさんと奏伯父さんがガーグ老を相手に得物えものを構え、やる気満々で言い募る。

「ふん。儂に勝とうなぞ500年早いわ!」

 500年って……普通は、もう亡くなってますけど?
 言葉のあやにしては具体的な数字だなぁ。
 やはり獣人なのかしら?
 
「あ~、カナデさん。儂が本気で相手をするのは、少し問題が……。既に、充分な腕を持っておりますぞ!」

 何故なぜか奏伯父さんに対して、ガーグ老は消極的な態度をみせる。
 伯父は貴族なので何か問題があるのだろうか?

「ガーグ老! そこを何とか!」

 武闘派の伯父は、手加減されたのが悔しいのか更にお願いしている。
 ガーグ老は困ったように笑い、長男のゼンさんに勝てたらと了解したようだ。
 という訳で稽古開始からガーグ老とシュウゲンさん、ゼンさんと奏伯父さんの手合わせが始まり、私は樹おじさんから教えてもらう事になった。
 現在の槍術Lvを聞かれLv7だと答えると、「Lv10まで頑張ろうな~」とにこにこ笑いながらはげまされる。

 なんだろう? 実年齢を知っているのに、子供に対するような態度だ。
 20歳の見た目に引きずられているのかしら?
 結局、稽古中にガーグ老とシュウゲンさんの決着は付かなかったらしく、奏伯父さんはゼンさんに負けショックを受けていた。
 昼食の準備をしようとした所で上空から「ピー」という音がし、顔を上げ空を見上げると複数の魔物が空を飛んでいる姿が目に映る。

 えっ? 異世界では、人間の生活圏内に魔物が侵入する事はないのに……。
 従魔達の様子をうかがうと特に警戒態勢を取っていないから、危険はないのかな?
 そのまま見続けていると、こちらへ向かっているように感じた。

「おおっ、やっと騎獣が届いた!」

 ガーグ老が空を飛ぶ魔物を見て叫び、どんどん近付いてくる魔物の姿がついに真上まできた。
 騎獣ならテイムされた魔物なんだろう。
 私は警戒を解き、ガーグ老の庭へ降りてくる騎獣をよく見ようと目をらす。
 羽もないのに空を飛べる、真っ赤な色をした犬系の魔物だろうか?

 その内の1匹に人が乗っている。
 人が乗っている騎獣が先頭になり次々に庭へ降り立った。
 体長は3mくらいでシルバーウルフと変わらない大型魔物が10匹。
 騎乗していた人がガーグ老へと一礼し、手にした笛を渡している。

「翁、大変お待たせ致しました。ご依頼の騎獣を、先ずは10匹納めさせて頂きます。残りの騎獣は調教が済み次第運びますので、もうしばらくお待ち下さい」

「騎獣を待っておったのだ、本当に助かるわい。無理を言ってすまんの、遠くまでご苦労だった。今夜は家に泊まるがよい。帰りは、こちらで手配する」

「はっ! ありがとうございます」

 騎獣を運んできた人がガーグ老へ挨拶を終えるのを見ていたら、その人が振り返り目が合ってしまう。
 とても美しい男性で、どことなく摩天楼まてんろうの冒険者ギルドマスターに雰囲気ふんいきがよく似ていた。
 その彼が、私を見るなりとても驚いた表情になる。

「……ヒルダ様? いやあの方は……、それに幼い姿でいらっしゃる……」

 そう呟いた後、周囲を見渡し樹おじさんの両肩に止まっている白ふくろうへ目を止めた。
 
「姫様!?」  
 
 あ~また勘違いが発生したみたいで、樹おじさんはぎょっとし父の背中に隠れてしまった。
 それには意に介さず男性は回り込み、おじさんの前までくると膝を突き騎士の礼をし、声を掛けられるのを待っている。

「その~何だ……、俺は姫様じゃない。魔力が似ているそうだけど、理由はガーグ老から聞いてくれ」

 樹おじさんは人違いを訂正して彼を立たせ、困ったように視線を彷徨さまよわせていた。
 
「何か……あるのですね。分かりました」

 男性は私に再び視線を向け一礼した後、ガーグ老のもとへと戻っていった。

 -------------------------------------
 お気に入り登録をして下さった方、エールを送って下さった方とても感謝しています。
 読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
 応援して下さる皆様がいて大変励みになっています。
 これからもよろしくお願い致します。
 -------------------------------------
しおりを挟む
感想 2,333

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転生皇女は冷酷皇帝陛下に溺愛されるが夢は冒険者です!

akechi
ファンタジー
アウラード大帝国の第四皇女として生まれたアレクシア。だが、母親である側妃からは愛されず、父親である皇帝ルシアードには会った事もなかった…が、アレクシアは蔑ろにされているのを良いことに自由を満喫していた。 そう、アレクシアは前世の記憶を持って生まれたのだ。前世は大賢者として伝説になっているアリアナという女性だ。アレクシアは昔の知恵を使い、様々な事件を解決していく内に昔の仲間と再会したりと皆に愛されていくお話。 ※コメディ寄りです。

転生してしまったので服チートを駆使してこの世界で得た家族と一緒に旅をしようと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
俺はクギミヤ タツミ。 今年で33歳の社畜でございます 俺はとても運がない人間だったがこの日をもって異世界に転生しました しかし、そこは牢屋で見事にくそまみれになってしまう 汚れた囚人服に嫌気がさして、母さんの服を思い出していたのだが、現実を受け止めて抗ってみた。 すると、ステータスウィンドウが開けることに気づく。 そして、チートに気付いて無事にこの世界を気ままに旅することとなる。楽しい旅にしなくちゃな

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。