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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略
第589話 迷宮都市 行方不明の子供達 4
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一度記憶が戻っていたからか、二度目は直ぐに自分がティーナだと思い出す。
そこに沙良として生きた記憶が違和感なく融合されていった。
まずはアリサちゃんの治療を最優先にしなければならない。
光の精霊王に願う事も可能だけど、それだとどうしても私の魔力を使用する必要がある。
大きな魔法を行使すると、私を狙う存在に気付かれるリスクが高い。
ここに世界樹の葉があれば、また違う方法も使えたのに……。
残念ながら、沙良のアイテムBOX内にはなかった。
アリサちゃんの状態を確認してみよう。
小さな少女は、兄や姉へ心配をかけまいと見えないよう右手を後ろに回していた。
ゆっくり右腕を前へ移動させると、誰かが既に治療した跡がある。
手首から切り落とされた状態の断面は、ポーションを掛けられたのか出血もなく傷口が塞がった状態だ。
これなら痛みは、もう感じていないだろう。
但し、失った血の量が多いのかも知れない。
私は契約竜であるセイちゃんを召喚しようと決める。
聖竜であるセイちゃんは、心臓が動いてさえいれば欠損部分の再生が可能だ。
7人の子供達に姿を見られる訳にはいかないので、暫く眠らせよう。
ドレイン魔法で昏倒させるのではなく、HPが減らないスリープ魔法を掛ける。
「……お姉ちゃん? 瞳の色が……」
間近にいたアリサちゃんが、そう言葉を残し眠りに就いた。
セイちゃんは今、沙良の能力であるホーム内にいる。
ある意味別世界だけど、召喚は界を隔てていても契約者の傍に呼び出す魔法だから問題ないだろう。
「セイちゃん、きて!」
本当は、もっと厳かな召喚術を唱える必要がある。
でも子供の頃から育てた2人には、これで充分。
すると、目の前に一瞬で見慣れた姿のセイちゃんが現れる。
黒髪・黒目の日本人特有の童顔をしたセイさんではない。
赤竜のセキちゃんによく似た、偉丈夫で男前の姿だ。
「お呼びでしょうか、ご主人様」
私の顔を見るなり、片膝を突いて頭を下げる。
セキちゃんとは違い生真面目な彼は、久し振りに会うのに堅苦しい態度を見せた。
「セイちゃん。早速で悪いんだけど、再生治療をお願い!」
私の言葉を聞くなり素早く立ち上がり、
「どこかお怪我を!?」
と表情を変え迫ってくる。
「あ~、私じゃなくて人間の子供にしてほしいのよ」
私は安心した様子のセイちゃんへ、アリサちゃんの右手を見せた。
「これは……既にエリクサーで治療済みのようですね。再生するのは手がないからですか?」
「誘拐犯に切り落とされたみたいなの。探している時間もないし、接続するには時間が経ち過ぎているでしょ?」
「承知しました」
セイちゃんが、アリサちゃんの右手に聖魔法を掛ける。
光魔法より上位である聖魔法を使用できるのは聖竜だけだ。
手首から先、失った手がみるみるうちに再生されていく。
良かった……。
「ありがとう。セイちゃん、人間となり冒険者をしていた頃の記憶はある?」
気になった事を聞いてみた。
私は沙良の記憶もちゃんと残っているけどね。
「……はい。護衛隊長として一緒に転生したにも拘わらず、ご主人様を傍でお守り出来ず申し訳ありませんでした」
「転生先は選べないから仕方ないわよ。それに、一緒のパーティーを組むんだから大丈夫」
問題は記憶が戻るのが早すぎる件だろう。
精霊王は数年先だと言っていたし、予定外の筈。
そんな風に考えていると、キンっという音が鳴り周囲へ結界が張られた。
私達がいるのは森の中だったな……。
世界樹の精霊王が感知し、巫女姫である私の存在を隠そうとしたらしい。
「ティーナ。また記憶が戻ってしまったのかい? セイを召喚したようだね。竜族の姿に戻っているじゃないか」
涼やかな声がして後ろを振り返ると、そこに世界樹の精霊王がいた。
森は彼の領分なため、大陸が違っても移動は簡単だろう。
「精霊王、ご無沙汰しております。ええっと、少し怒りが爆発し枷が外れてしまったみたいです?」
私の周囲に眠っている子供達とセイちゃんを見比べ、そっと溜息を吐いた精霊王が再び口を開く。
「ティーナ、人族にあまり入れ込むのはどうかと思うよ。お前の役目は、分かっているだろう?」
窘めるような口調で言われ黙り込む。
巫女姫としての私は、ひとつの種族に肩入れしてはいけない。
存在を狙われるのは相手に魔力を与えられるからだ。
私と対になって生まれた存在は、逆に魔力を奪う事が可能らしい。
「理解しています。また、記憶を封印されるのですか?」
「そうさせてもらうよ。セイ、君は人族の姿に擬態しなさい。一度体が戻ったら、人間にはなれない。そうするには、あちらの世界へ再び転生する必要があるからね」
「あっ! その前にルードお兄ちゃんとリルが、誰へ転生したか確認してもいいですか?」
私は再び記憶を封印される前に、2人が誰か知っておきたかった。
「身近に転生したようだよ。魔力を辿ってみるといい」
2人には自分の魔力を分け与えているから、見付けられるだろう。
既に、この世界にいるかしら?
自分の魔力を探ると、意外な人物に辿り着いた。
沙良の兄がルードお兄ちゃん?
で、リルは……旭だった。
ヤバイ! 2人を沙良が結婚させちゃった!?
許嫁のハルクが大激怒しそう……。
確認した事実に青ざめながら、
「2人は……元気そうです」
としか答えられなかった。
-------------------------------------
お気に入り登録をして下さった方、エールを送って下さった方とても感謝しています。
読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
応援して下さる皆様がいて大変励みになっています。
これからもよろしくお願い致します。
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そこに沙良として生きた記憶が違和感なく融合されていった。
まずはアリサちゃんの治療を最優先にしなければならない。
光の精霊王に願う事も可能だけど、それだとどうしても私の魔力を使用する必要がある。
大きな魔法を行使すると、私を狙う存在に気付かれるリスクが高い。
ここに世界樹の葉があれば、また違う方法も使えたのに……。
残念ながら、沙良のアイテムBOX内にはなかった。
アリサちゃんの状態を確認してみよう。
小さな少女は、兄や姉へ心配をかけまいと見えないよう右手を後ろに回していた。
ゆっくり右腕を前へ移動させると、誰かが既に治療した跡がある。
手首から切り落とされた状態の断面は、ポーションを掛けられたのか出血もなく傷口が塞がった状態だ。
これなら痛みは、もう感じていないだろう。
但し、失った血の量が多いのかも知れない。
私は契約竜であるセイちゃんを召喚しようと決める。
聖竜であるセイちゃんは、心臓が動いてさえいれば欠損部分の再生が可能だ。
7人の子供達に姿を見られる訳にはいかないので、暫く眠らせよう。
ドレイン魔法で昏倒させるのではなく、HPが減らないスリープ魔法を掛ける。
「……お姉ちゃん? 瞳の色が……」
間近にいたアリサちゃんが、そう言葉を残し眠りに就いた。
セイちゃんは今、沙良の能力であるホーム内にいる。
ある意味別世界だけど、召喚は界を隔てていても契約者の傍に呼び出す魔法だから問題ないだろう。
「セイちゃん、きて!」
本当は、もっと厳かな召喚術を唱える必要がある。
でも子供の頃から育てた2人には、これで充分。
すると、目の前に一瞬で見慣れた姿のセイちゃんが現れる。
黒髪・黒目の日本人特有の童顔をしたセイさんではない。
赤竜のセキちゃんによく似た、偉丈夫で男前の姿だ。
「お呼びでしょうか、ご主人様」
私の顔を見るなり、片膝を突いて頭を下げる。
セキちゃんとは違い生真面目な彼は、久し振りに会うのに堅苦しい態度を見せた。
「セイちゃん。早速で悪いんだけど、再生治療をお願い!」
私の言葉を聞くなり素早く立ち上がり、
「どこかお怪我を!?」
と表情を変え迫ってくる。
「あ~、私じゃなくて人間の子供にしてほしいのよ」
私は安心した様子のセイちゃんへ、アリサちゃんの右手を見せた。
「これは……既にエリクサーで治療済みのようですね。再生するのは手がないからですか?」
「誘拐犯に切り落とされたみたいなの。探している時間もないし、接続するには時間が経ち過ぎているでしょ?」
「承知しました」
セイちゃんが、アリサちゃんの右手に聖魔法を掛ける。
光魔法より上位である聖魔法を使用できるのは聖竜だけだ。
手首から先、失った手がみるみるうちに再生されていく。
良かった……。
「ありがとう。セイちゃん、人間となり冒険者をしていた頃の記憶はある?」
気になった事を聞いてみた。
私は沙良の記憶もちゃんと残っているけどね。
「……はい。護衛隊長として一緒に転生したにも拘わらず、ご主人様を傍でお守り出来ず申し訳ありませんでした」
「転生先は選べないから仕方ないわよ。それに、一緒のパーティーを組むんだから大丈夫」
問題は記憶が戻るのが早すぎる件だろう。
精霊王は数年先だと言っていたし、予定外の筈。
そんな風に考えていると、キンっという音が鳴り周囲へ結界が張られた。
私達がいるのは森の中だったな……。
世界樹の精霊王が感知し、巫女姫である私の存在を隠そうとしたらしい。
「ティーナ。また記憶が戻ってしまったのかい? セイを召喚したようだね。竜族の姿に戻っているじゃないか」
涼やかな声がして後ろを振り返ると、そこに世界樹の精霊王がいた。
森は彼の領分なため、大陸が違っても移動は簡単だろう。
「精霊王、ご無沙汰しております。ええっと、少し怒りが爆発し枷が外れてしまったみたいです?」
私の周囲に眠っている子供達とセイちゃんを見比べ、そっと溜息を吐いた精霊王が再び口を開く。
「ティーナ、人族にあまり入れ込むのはどうかと思うよ。お前の役目は、分かっているだろう?」
窘めるような口調で言われ黙り込む。
巫女姫としての私は、ひとつの種族に肩入れしてはいけない。
存在を狙われるのは相手に魔力を与えられるからだ。
私と対になって生まれた存在は、逆に魔力を奪う事が可能らしい。
「理解しています。また、記憶を封印されるのですか?」
「そうさせてもらうよ。セイ、君は人族の姿に擬態しなさい。一度体が戻ったら、人間にはなれない。そうするには、あちらの世界へ再び転生する必要があるからね」
「あっ! その前にルードお兄ちゃんとリルが、誰へ転生したか確認してもいいですか?」
私は再び記憶を封印される前に、2人が誰か知っておきたかった。
「身近に転生したようだよ。魔力を辿ってみるといい」
2人には自分の魔力を分け与えているから、見付けられるだろう。
既に、この世界にいるかしら?
自分の魔力を探ると、意外な人物に辿り着いた。
沙良の兄がルードお兄ちゃん?
で、リルは……旭だった。
ヤバイ! 2人を沙良が結婚させちゃった!?
許嫁のハルクが大激怒しそう……。
確認した事実に青ざめながら、
「2人は……元気そうです」
としか答えられなかった。
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