上 下
486 / 754
第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第576話 世界樹の精霊王との邂逅 フェンリルの女王 3

しおりを挟む
 天蓋てんがい付きのベッドに描かれた精霊王の姿を見た瞬間、全ての記憶が戻る。
 あさひ 結花ゆかとしての私は眠ったらしく、今はフェンリルの女王となり世界樹の精霊王のもとを訪れていた。

「おや、久しいね女王。転生先の人生は、どうだったかい?」

 この御方はどこまで把握しているのか分からないけど、中々答えづらい件を聞いてくる。
 私は苦笑しながら事実を伝えた。

「予想以上につらい想いをしました。ですが失った2人の子供達に、この世界で会えたのは幸せだと思います」

「代償は、やはり大きかったようだね。君の夫の姿が見えないけど、まだ向こうの世界にいるのかな?」

 何気なく言われた精霊王の言葉に、はたと気付く。
 一体、私の夫は誰に転生したのだろう?
 それに娘と長男は……。
 転生先の人生は選べないため、何が起きても問題にすまいと思っていたけど……。
 実際、人としての新しい家族が出来ると難しいものがある。

 どちらの家族も私にとっては大切な存在だ。
 人族は寿命が短いから、そう長くは一緒にいられないだろう。
 もしかしたら、夫にも新しい家族がいるかも知れない。

「私の夫は、誰に転生したのか分からないので……。それに子供達も……」

「君の娘なら、前に一度ここへきているよ。それに、息子は隣にいるようだけど?」

 もう娘は、この世界に戻っているのか。
 隣を見ると気配を消し、項垂うなだれている長男・・の姿があった。
 ここへ同時にきたという事は……。
 もしかして……しずく
 あぁ、この子は性別と娘に引き継がれる虚弱さを代償に払ったのか。
 なら娘は?

「精霊王。会いにきたという娘は今、何処どこにいるのでしょう?」

「ティーナのそばにいるはずだけど……。人族としての名前は聞いてなくてね。あぁでも性別はおすに変わり苦労したらしい。ティーナを好きになりなげいていたから」

 ……。
 それ、どう考えてもうちの尚人なおとじゃないかしら?
 私の子供達は、再び私が産んだようで安心する。
 性別が逆になってしまったのは、もう仕方ない。
 あれ?
 でも雫は、賢也けんや君が好きだったわよね。

「母上。記憶がないというのは恐ろしい。私は娘として育ちましたが……。現在、非常に混乱しています」

 息子が項垂うなだれていた理由は、男性を好きになったからかしら?

「あ~、どうやら尚人なおとが娘のようよ?」

「えっ!? あの子にはハルクがいるのに、偽装とはいえ他の男性と結婚してますよ!」
 
「そうなのよね~。許嫁いいなずけに知られたら大変。ハルクは誰に転生しているのかしら?」

「そういう問題ではありません。精霊王、私達はもうフェンリルとなり戻って良いでしょうか?」

 記憶が戻った息子はこれ以上、雫として生きるのは嫌らしい。

「申し訳ないけど、それは許可出来ない。転生組が全員そろうまで、君達は人族として生きる必要がある。勿論もちろん、記憶は封じさせてもらうよ」

何故なぜですか! それでは護衛役の意味がありません。雫としての個体は強くない。魔法も制限されている。何より、面倒を掛けてばかりでは兄として情けないではないですか……」

 尚人に可愛がられて育った記憶がある雫は、自分が妹の面倒を見られなかったのをうれいているのだろう。
 性別ばかりか、立場も逆になってしまい精霊王からの言葉にうなずけないようだ。
 まぁ理由は分かる。
 だけど、こればかりは巫女姫の安全が関わっているからどうしようもない。
 
 彼女を狙う敵は強大で狡猾こうかつだ。
 今でも、虎視眈々こしたんたんと巫女姫を我が物にせんと狙っているだろうから。
 わずかなほころびで、危険を招く恐れがある。
 その時まで私達は巫女姫の存在を知られないよう、そばにいる事が何よりも重要だ。

「精霊王の言葉に従い、必ず巫女姫を守り通してみせます」

「ありがとう女王。あの子は少し抜けている所があるから頼んだよ。君も、あと数年頑張って」

「数年……」

 精霊王から数年と言われ、愕然がくぜんとする長男。
 大丈夫よ、私達フェンリルには数年なんて一瞬だから。
 何があっても、転生先の出来事と笑い飛ばせばいいわ。
 娘の結婚相手の賢也君が初恋なのは、他の兄妹達に黙っておくから。
 きっと兄としてあこがれた存在だったのね。
 自分が身近にいられず、妹の面倒を見ていた獅子しし族の次代を思い出したのかも……。
 そうして私達は再び、精霊王から記憶を封印された。

「あっ、2人とも起きたみたい。やっぱり、このベッドは眠りやすいのかな? 雫ちゃんもお母さんも、気分は大丈夫ですか?」

 目を開けると、どうやら私はベッドに横になった瞬間眠っていたらしい。
 心配そうな沙良ちゃんが、のぞき込んできた。

「ええっと、寝てしまったみたいでごめんなさいね。何だか複雑な夢を見ていた気がするんだけど……思い出せないわ」

「私は、どうしてか尚人兄なおとにいすごく会いたくなったんだけど……。今すぐ抱き締めてあげたい気分なの!」

 あらあら、お兄ちゃんがまだ恋しいのね。
 
「じゃあ今日は、もう家へ帰りましょうか。たまには家族で、一緒に過ごして下さい。私は兄と2人で食べますから」

「そうね。いつも雫と2人じゃ寂しいし、今夜は沢山料理を作ろうかしら?」

「おおおぉ、お母さん! 稼いでいる尚人兄なおとにいおごってもらおうよ!」

 かなりの勢いで迫る娘に驚きながら、そんなに外食がしたいのかと思い了解した。
 何を食べようかしら?
 あんまり食事に興味がないんだけどね~。

 -------------------------------------
 お気に入り登録をして下さった方、エールを送って下さった方とても感謝しています。
 読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
 応援して下さる皆様がいて大変励みになっています。
 これからもよろしくお願い致します。
 -------------------------------------
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。

亜綺羅もも
ファンタジー
旧題:「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。今更戻って来いと言われても旦那が許してくれません! いきなり異世界に召喚された江藤里奈(18)。 突然のことに戸惑っていたが、彼女と一緒に召喚された結城姫奈の顔を見て愕然とする。 里奈は姫奈にイジメられて引きこもりをしていたのだ。 そんな二人と同じく召喚された下柳勝也。 三人はメロディア国王から魔族王を倒してほしいと相談される。 だがその話し合いの最中、里奈のことをとことんまでバカにする姫奈。 とうとう周囲の人間も里奈のことをバカにし始め、極めつけには彼女のスキルが【マイホーム】という名前だったことで完全に見下されるのであった。 いたたまれなくなった里奈はその場を飛び出し、目的もなく町の外を歩く。 町の住人が近寄ってはいけないという崖があり、里奈はそこに行きついた時、不意に落下してしまう。 落下した先には邪龍ヴォイドドラゴンがおり、彼は里奈のことを助けてくれる。 そこからどうするか迷っていた里奈は、スキルである【マイホーム】を使用してみることにした。 すると【マイホーム】にはとんでもない能力が秘められていることが判明し、彼女の人生が大きく変化していくのであった。 ヴォイドドラゴンは里奈からイドというあだ名をつけられ彼女と一緒に生活をし、そして里奈の旦那となる。 姫奈は冒険に出るも、自身の力を過信しすぎて大ピンチに陥っていた。 そんなある日、現在の里奈の話を聞いた姫奈は、彼女のもとに押しかけるのであった…… これは里奈がイドとのんびり幸せに暮らしていく、そんな物語。 ※ざまぁまで時間かかります。 ファンタジー部門ランキング一位 HOTランキング 一位 総合ランキング一位 ありがとうございます!

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

【2話完結】両親が妹ばかり可愛がった結果、家は没落しました。

水垣するめ
恋愛
主人公、ウェンディ・モイヤーは妹のソーニャに虐められていた。 いつもソーニャに「虐められた!」と冤罪を着せられ、それを信じた両親に罰を与えられる。 ソーニャのことを溺愛していた両親にどれだけ自分は虐めていないのだ、と説明しても「嘘をつくな!」と信じて貰えなかった。 そして、ウェンディが十六歳になった頃。 ソーニャへの両親の贔屓はまだ続いていた。 それだけではなく、酷くなっていた。 ソーニャが欲しいと言われれば全て与えられ、ウェンディは姉だからと我慢させられる。 ソーニャは学園に通えたが、ウェンディは通わせて貰えなかったので、自分で勉強するしかなかった。 そしてソーニャは何かと理由をつけてウェンディから物を奪っていった。 それを父や母に訴えても「姉だから我慢しろ」と言われて、泣き寝入りするしかなかった。 驚いたことに、ソーニャのウェンディにしていることを虐めだとは認識していないようだった。 それどころか、「姉だから」という理由で全部無視された。 全部、ぜんぶ姉だから。 次第に私の部屋からはベットと机とソーニャが読むのを嫌った本以外には何も無くなった。 ソーニャのウェンディに対しての虐めは次第に加速していった。 そしてある日、ついに両親から「お前は勘当する!」と追放宣言をされる。 両親の後ろではソーニャが面白くて堪えられない、といった様子でウェンディが追放されるのを笑っていた。 あの空っぽの部屋を見てもまだウェンディがソーニャを虐めていると信じている両親を見て、この家にいても奪われ続けるだけだと悟ったウェンディは追放を受け入れる。 このモイヤー家に復讐すると誓って。

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。