自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

文字の大きさ
上 下
419 / 709
第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第555話 迷宮都市 武術稽古&お礼の『キーマカレー』

しおりを挟む
 ガーグ老の工房へ到着すると、上空からポチが急降下し父の右肩に止まる。
 いつもよくそんな速さで飛び、ぶつからないなぁと思う。
 急停止が間に合わなかったら、かなりの衝撃を受けそう……。
 最初は2匹の見分けが付かなかったけど、右に止まるのはいつもポチで左に止まるのはタマだと気付いてからは、簡単にどちらか分かるようになった。
 
 あれ?
 ポチは昨日、王都にいたのに……。
 1日あれば迷宮都市へ飛んでこれるのかしら?
 そしていつも一緒にいるタマは、どこへいったんだろう。
 まだ王都にいるゼンさんのそばかな。

「こんにちは、今日もよろしくお願いします」

 工房の庭に整列しているガーグ老達へ挨拶をする。

「サラ……ちゃん、ようきたな。昨日は大変……良い天気であったの」

 突然天気の話をされ、そうだったかしらと思い出してみる。
 確かに雨は降っていなかった。

「ええっと、はいそうですね」

「それでも気温は低かったようだ。寒いで体調が悪くなったりはせんかの?」

「若いから大丈夫ですよ~」

 寒さで体調を崩しやすいのは、体温機能調節が出来ない子供とお年寄りだけだ。
 私の体は20歳なので問題ない。
 ガーグ老は高齢だから心配してくれたのね。
 でもこの体格の良いご老人に、関節痛があるとは全然思えないんだけど……。

「そうか……何事もなかったようで安心したわ。従魔の数が増えているが、また新しくテイムしたのかの」

「はい、大所帯おおじょたいになっちゃいました!」

 私は増えた従魔をガーグ老達へ紹介した。
 家具職人のお爺さん達は、うんうんとうなずいている様子だったけれど、息子さんとお嫁さん達はどこか精彩を欠いているように見える。
 大型の魔物が苦手なんだろうか……。

 ガーグ老は2匹のフォレストウサギを見ると、「騎獣にするには変わっておるな……」とつぶやいていた。
 そして全員がボブと源五郎げんごろうの名前を聞き、首をかしげている。
 この世界では、やはり聞きなれない名前なんだろう。

「サラ……ちゃん。従魔が増えるのは良いが帝国の件もあるで、いつも連れ歩くのを忘れんようにな」

 それは昨日、痛いほど実感したばかりだ。

「はい、シルバー達と一緒に行動しますね。ガーグ老も身辺には気を付けて下さい」

 危険なのはガーグ老も同じだから、注意してほしいと伝える。

「儂は、どんな相手がこようと問題ないわ!」

 そう言って、呵々かかと笑うご老人は確かに最強だ。

 その後、ガーグ老の一声で稽古が開始される。
 私はターンラカネリの槍を使用するために投擲とうてき術を教えてもらおうとしたけど、ガーグ老から槍を投げたら得物がなくなるので止めた方がいいと言われあきらめた。
 普通は投げた槍が自動に戻ってこないから、理由を言えずしょんぼりとなる。
 父のように魔物を華麗に仕留めたかった!

 2時間後。
 ガーグ老の合図で稽古が終わる。
 やたら下半身への突きを練習させられたのは、何故なぜだろう?
 魔物もソコ・・が急所なのかしら?
 でも睾丸こうがんが高く売れる魔物がいた気がするから、魔物相手には首筋か眉間を狙おう。

 旭はしごかれたのか地面に倒れている。
 食事が出来る頃には復活しているだろう……。
 ダンジョンでLvが上がった旭のお母さんと母は、先週より元気そうだった。
 しずくちゃんは、ニコニコしているので父と一緒の稽古が楽しかったらしい。
 兄は満足そうにしていたから、充実した稽古だったようだ。

 今日のお昼は『キーマカレー』。
 ご飯がないのは残念だけど、『ナン』と食べても『カレー』は美味しいから大丈夫。
 お店では出せない料理も、ガーグ老達は元日本人の姫様から色々聞いているようだから問題なし。
 きっと『カレー』も知っているに違いない。

 この世界で挽肉ひきにくを作るのは大変なため、百貨店の料理道具売り場でステンレス製のミンサーを購入した。
 自宅のアイテムBOXに登録し×365をしたから、『肉うどん店』の母親達へ渡さないとね。
 これで『ミートパスタ』を作るのが楽になるだろう。

 作業台と魔道調理器に業務用寸胴鍋を出し、母と2人で玉ねぎをみじん切りにする。
 『ナン』は、お代わり出来るよう兄と旭に沢山焼くようお願いした。
 ミンサーを取り出し、ミノタウロスのかたまり肉を入れハンドルを回すとミンチ状になった物が出てくる。
 おぉ流石さすが、文明の利器!
 包丁を2本使って叩くより断然早い!

 それを見ていたしずくちゃんが私もやりたいと言うから、お手伝いをお願いする。
 彼女は入院生活が長かったので、料理を作る機会も少なかったはずだ。
 多分、中学校の調理実習が最後なのだろう。
 これから少しずつ教えてあげようかな?
 母親から習うのは、止めた方がいい気がするし……。

 母がみじん切りにした大量の玉ねぎを炒めた所へ、挽肉を投入し水と『カレールー』を加える。
 すると辺りに、『カレー』独特の匂いがただよった。
 隣近所で『カレー』を作っている家があると、直ぐに分かるよね~。
 匂いをぐと食べたくなるから不思議だ。
 ご老人達も、初めての匂いにソワソワしている様子。
 一瞬、庭に植えられていた木の枝が風もないのに揺れた気がする。

「お待たせしました。皆さん、今日もありがとうございます。お昼のメニューは、『キーマカレー』です。『ナン』に付け食べて下さいね。お好みでチーズを掛けても美味しいですよ。それでは頂きましょう」

「頂きます!」

 ガーグ老が『キーマカレー』を見た感想を口にする。

「白いスープと茶色のスープに続いて、今度は黄色のスープか? これが姫様が食べたいと言っておられた『カレー』かの……。そういえば匂いがたまらんとおっしゃっていなさった」

 やはり、『カレー』を知っていたみたい。
 まぁ日本人は『カレー』が好きだよね。
 一口食べたガーグ老が、そのまま無言でスプーンを進める。

 この世界の人には少し辛いかも知れないと思い、『カレールー』は甘口を使用した。
 香辛料系のスパイスは露店で見掛けないから、小豆あずきのように薬草扱いかも?
 ご老人達はエールを片手に、バクバク食べている。
 私達は、まだお昼なので冷たいミネラルウォーターにした。

「この少し辛さを感じるスープが旨いのぉ~。どれ、チーズも掛けてみるとしよう!」

 刻んだチーズが入った小皿を手に取り、ガーグ老が上からたっぷりと掛ける。
 熱で少し溶けたチーズを、ちぎった『ナン』にすくい口へ入れた。

「あぁ、今日は長男が王都で不在なのが残念だわ」

 息子さんに食べさせてあげたかったとは、優しいですね~。
 ガーグ老の言葉に呼応するように、今度は庭の木が大きく揺れ動く。
 なんか木の枝がバサバサいってる……。

 大量に作った『キーマカレー』と『ナン』は、残らず綺麗になくなった。
 お嫁さん2人の大きくはみ出した口紅が、『カレー』の色と混ざりすごい状態になっていたけど……。
 ここは見ないフリをしておこう。

 昨日薬師ギルドに兄達を連れていけなかったから、将棋のお相手に父だけを残す。
 私達は工房を後にしホームへ一度戻ってきた。
 女性陣3人は父から日本円に換えてもらった軍資金を持ち、百貨店へ買い物にいくそうだ。
 散財しそうだなぁ~。

 運転免許は母と旭のお母さんも持っているからホーム内の車を出すと、選んだのは兄のマンションの住人さんが乗っていた〇ンツだった。
 ファミリーカーじゃないのかよ!
 どうやら高級車に乗ってみたかったらしい。
 〇ンツって外車じゃなかったっけ?
 左ハンドルの車を運転出来るのかしら?
 一抹の不安を覚えつつ、私は兄達と再び異世界に戻り薬師ギルドへ向かった。

 -------------------------------------
 お気に入り登録をして下さった方、エールを送って下さった方とても感謝しています。
 読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
 応援して下さる皆様がいて大変励みになっています。
 これからもよろしくお願い致します。
 -------------------------------------
しおりを挟む
感想 2,333

あなたにおすすめの小説

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。