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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第553話 父と2人で王都へ 2 誘拐犯の目的

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 部屋に入ってきた少年は、ベッドの上に寝かされている私が起きていると知り声を掛けてきた。

「時間通り意識が戻ったようだな。何が起きているのか分かるか?」

 そう言いながら部屋の中央にある椅子へ腰かけ足を組み、テーブルの上で頬杖ほおづえをつく。
 自分が優位である事を疑いもしない態度だ。
 魔法がある世界なのに両手を縛るだけで、他に何も対策をしないのはどうしてかしら?
 
「あぁ。この屋敷は購入したばかりなんだが、この部屋には魔法無効の陣が描かれているから無駄な抵抗はしない方がいい」

 やっぱり魔法が無効になる陣があるのか……。
 槍術をガーグ老に習って正解だった。
 ただ通信の魔道具は使えたから、単純にMPを使用しての魔法が発動しないと考えればいい。
 なら、MP消費が0の時空魔法は問題ないだろう。
 ホーム・マッピング・アイテムBOXは使えそうだ。
 でもこれは重要な情報だから兄に伝えておこう。

『お兄ちゃん。私がいる部屋には、魔法無効の陣が描かれているみたい』

『分かった。旭も一緒に連れていく』

 少年の言葉に何の反応もせず、私はだんまりを決め込む。
 相手から情報を得る時は何も話さない方がいい。
 そうすれば、向こうが勝手にペラペラとしゃべってくれるからだ。

「怖くて口も利けないみたいだな。それとも、先程の子供が気になっているのか? 心配せずとも、あの子供は何も知らない。金を渡し、お前を連れ出してもらっただけだ。その際、接触型の軽い睡眠薬を手に貼り付けておいたがな」

 ふむふむ。
 お小遣いを渡して情報を与えず、私を連れ出すよう指示したらしい。
 じゃあ、あの子供は犯人とは無関係だ。

『私を連れ出した子供は、口封じに殺したみたい』

『何て事を!』

 兄の怒りが犯人に向くよう、多少誇張こちょうさせてもらおう。

「この国に留学生としてきたが、寄宿舎生活は窮屈きゅうくつだったんで家を購入したら思わぬ拾い物をした。お前のような美しい娘が手に入るとは、退屈せずに済みそうだ。この部屋で3年間、俺を楽しませてくれよ? その間、大人しくしていれば綺麗な服を与え贅沢をさせてやる。気に入ったら愛人にしてやろう」

『留学先で私を見掛けさらったって。おりの中に入れて一生監禁し、裸に首輪を付けた状態で生活させる心算つもりみたい。毎晩楽しませれば愛人にしてやるって』

「まだ話す気にならないか? 俺は気の長い方だ、時間はたっぷりある。素直に口を開くまで待ってやろう」

『短気な性格だから言う事を聞かないと、動けないよう縄で縛りむちで叩き体に教え込ませるって』

「この部屋にある、お前にそっくりな肖像画が気になっているのか? これは本当に偶然、この屋敷の地下室で見付けた物だよ。かなり悪趣味な持ち主だったらしい。損傷しているのが勿体もったいないくらい美しい女性なのに残念だ」

『私の肖像画を、これから裸にし描かせるって』

『……。どうやら死にたいらしいな。よし、これから俺の言う通り動くんだ。ずは犯人をアイテムBOXに収納し、ホームへ戻ってこい。部屋に俺と旭を移転させ犯人を出した後、お前は直ぐにホームへ戻れ。そうだな、30分後には片が付いているだろう。その頃になったら、迎えにきてほしい』

『了解!』

 私は兄のヘイトを溜めまくった少年をアイテムBOXに入れ、マッピングで自分の姿を俯瞰ふかんしながら、両手を縛っていたひもを収納した後でホームの自宅へ戻った。
 既に私の部屋の玄関先で待っていた兄と旭を連れ、再び部屋へ戻る。
 そしてアイテムBOXから少年を出し、速攻でホームへ帰った。
 後は2人に任せよう!

 兄を無駄に怒らせちゃったから多少痛い思いをするだろうけど、そもそも誘拐は犯罪だ。
 少年だろうが、犯罪者は厳しい処罰を受ける必要がある。
 他国の留学生なら貴族だろうけど……。
 身分制度のある社会ではみ消されそうだよね。

 お茶とケーキを食べて気分を落ち着かせる。
 普段経験しない出来事だから、動悸どうきがしていたのだ。
 30分後、兄達を迎えにいくとその場には父もいた。

「あれ? お父さんも一緒なの? 後で迎えにいこうと思ってたんだよ~」

 父が私の無事な姿を見て、一目散に駆け寄り抱き締めてくれる。
 きっと姿を見失い、かなり心配していたんだろう。
 でも、どうして一緒にポチとタマがいるのかな?

「大丈夫だったか? 怖い思いをしなかったか?」

「通信の魔道具で、お兄ちゃんに連絡したから大丈夫! それより、ポチとタマは王都までお父さんを探しにきたのかな?」

たまには2匹も遠出がしたいんだろう。ガーグ老の長男が王都にいるから、会いにきたのかも知れないぞ?」

 不思議に思い聞いてみると、どうやらガーグ老の長男が王都にきているらしい。
 じゃあ、この屋敷には2匹が父を案内したのかも?

「ふ~ん、そうなんだ」

 私は父を探す手間が省け助かった。
 王都は広いから、何処どこにいるか分からない人間を探すのは骨が折れる。
 離れ離れになる想定をしてなかったため、待ち合わせ場所も決めずにいたし……。
 オリーさんを迷宮都市で探した時は、本当に時間が掛かって大変だったんだよね。

 犯人の少年を見ると、手足を縛られた状態で床に転がされていた。
 目を閉じているから意識はない状態なんだろう。
 見た感じ顔がれている訳でもないし、手や足が折れている様子もない。
 兄達は少年を手荒く扱わなかったようだ。
 やり過ぎないか心配していたけど、ここは冷静に大人の対応をしたのかな?

 誘拐犯を衛兵所へ連行しても不問に処される可能性が高いらしく、父の提案で王都にいるガーグ老の長男へ引き渡す事になった。
 ゼンさんは王族の近衛をしているから、冒険者の私が訴えるより適切に処罰されるだろう。
 そのまま犯人を連れて歩くのは目立ち過ぎるため、再びアイテムBOXに入れ長男が住んでいる家へ全員で向かう。

 ポチが上空を旋回せんかいしながら、道案内をしてくれる。
 主人のガーグ老がいなくても、私の言う事を聞いてくれる賢い従魔達だ。
 何故なぜ、私の言葉が分かるのか疑問だけど……。
 父にもかなりなついているし。

 家へ辿たどり着くと、ガーグ老の長男が門の前に立っていた。
 タマの足へ手紙をくくり付け、渡すようにお願いしたから待機してくれたんだろう。
 アイテムBOXの能力を知られないよう、少し前に犯人を出しておいた方がいいと父から言われた通りにして良かった。

 犯人を長男のゼンさんに引き渡し、後をお願いする。
 適切に処分すると言ってくれたから、無罪放免とはならないだろう。
 その後、迷宮都市の家まで戻りホームに帰る。
 あっ、王都でガーグ老の長男と会ったから矛盾が生じるじゃん!
 明日の稽古どうしよう?

 その夜。
 兄達と実家で夕食を食べた後、父は兄にリビングから連れ出されていった。
 私は犯人を極悪人に仕立てたお陰で説教を回避したけど……。
 父は娘を誘拐された件で、兄から何か言われそう。

 今回の件は、お互い油断していたのが原因だ。
 マッピングも万能じゃないし、子供を利用した犯罪に巻き込まれる可能性も視野に入れて動く必要があると実感させられた。
 やはり異世界にいく時は従魔を連れた方がいい。
 あの子達は危険を察知する能力が人間より高いからね。
 私も意識を失った状態では、何をされるか分からないから注意しよう。

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