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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第548話 椎名 響 26 娘の結婚相手&ドワーフの名匠バール氏

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 その日の夕食時。
 沙良の食べる量が少なかった所為せいで、賢也が体調が悪いのかと心配していた。
 息子は娘の食事量を把握しているのか?
 俺は内緒で食べた事がバレやしないかとあせり、冷や冷やさせられた。
 どうやら俺の食事量には無関心のようで、何の指摘もされずちょっぴり寂しい。
 賢也よ、お父さんにもう少し関心を持ってくれてもいいんだぞ?

 翌日から午前中は沙良の薬草採取に付き合い、午後は地下30階~地下29階を攻略した。
 『万象』達は、既に地下29階と地下28階に辿たどり着き待機している。
 今後は5日間の攻略で地下1階~地下29階までの往復をしなければならず、かなり大変な護衛となるだろう。
 騎獣が早く到着すれば、もう少し楽になりそうだが……。

 5日間の攻略を終え、冒険者ギルドへ換金にいく。
 尚人なおと君は、アイテムBOXに収納した11年間分の魔物を毎回提出しているらしい。
 それぞれ倒した魔物の換金額を6人で均等に割る事になった。
 手渡された金額を見て唖然あぜんとなる。
 たった5日で数千万円……。
 妻と結花ゆかさんがニコニコしているのは、旦那の年収だった金額より多いからじゃないよな?

 これでも地下30階~地下28階の魔物の分は換金されていない。
 娘達は一体、幾ら稼いでたんだ……。
 間違いなく、この迷宮都市一番の稼ぎを叩き出しているだろう。
 冒険者ギルドが大量の魔物素材を、どう処理しているのか心配なくらいだ。

 また娘にLvを聞かれる。
 俺は分かりやすくLv30だと言っておいた。
 一応数値も計算し、いつでも答えられるようにする。
 78×31で2,418だ。
 もうLv125の数値を上回っている。

 夕食は初攻略のお疲れ様会を居酒屋で祝った。
 その際、賢也から地下16階の果物を聞かれ沙良があわてている。
 実際攻略していたのは地下30階~地下28階だから、知らないのも無理はない。
 ダンジョンに不慣れな俺に注意していたと言い、なんとか兄からの疑問をかわしたようだ。

 その理由はどうかと思うぞ?
 俺は、娘からスパルタ式のLv上げをさせられていたからな。
 まぁ言えないから黙ったまま口をつぐんでおこう。
 2時間程でお開きになり、この日も至って大人しく就寝する。

 翌日、土曜日。
 沙良は賢也から異世界に1人でいくなと言われているため、俺と一緒に奏屋かなでやへ果物を卸しにいきたいらしい。
 そろそろガーグ老からの返事がもらえるだろうと思い、沙良と一緒に異世界へ転移する。
 奏屋かなでやのご主人は義父に当たるが、本人は知らないので挨拶が出来ず残念だ。

 沙良が地下16階で採取した果物を卸すと、その値段に驚愕きょうがくした。
 ただの果物であるアメリカンチェリーが15万円、佐藤錦に至っては40万円だと!?
 どんな高級フルーツなんだ!
 これも上位貴族が見栄のために買いそうな品だな。
 
 奏屋かなでやを出ると、次はガーグ老の工房に寄りたいと伝えた。
 工房の門を開けると、ポチとタマが急接近して両肩に止まる。
 そばにいない樹を、まだかと催促しているようだ。
 そのまま中に入ると、ガーグ老達影衆10人が既に待機している。
 何故なぜか全員、顔中ポーションまみれなんだが……。
 激しい鍛錬の最中だったのか?
 
「こんにちは~」

「サラ……ちゃん、父親殿ようきた。今日は何用であったかの?」

 娘が挨拶をすると、ガーグ老から用件を聞かれる。

「ガーグ老。先週話していた、娘の結婚相手を決めたい。周知は、なるべく早い方がいいだろう」

「おお、そうか。うむ、それなんだが……相手は儂がいいだろう」

 なんだと?
 待て待て、ガーグ老は1,000歳を超えているじゃないか!
 しかもこの世界の見た目では、10代の娘の婿として釣り合わんだろう。
 どうして息子を紹介しないんだ!

「ご老人。いくら何でも娘より年上過ぎる」

 俺は渋面じゅうめんになって抗議した。

「いや、結果がそうなったのだ。これは譲れん!」
  
 しかしガーグ老は引かない心算つもりらしい。
 しばにらみ合った末、お互いの剣に手を掛ける。
 ここは仕合で決着をつけようと、娘のために本気で相手をするが……。
 悲しいかな本職には勝てず、俺は持っていた得物えものを弾き飛ばされ首に剣を突きつけられた。
 勝負ありか……。

 悲壮な顔をしている娘に頭を下げ、

「すまない。俺には相手が強すぎた……」

 心から謝罪した。

「じゃあ、私の結婚相手は……ガーグ老?」

「そういう事になる」

 沙良は結婚相手に呆然ぼうぜんとなり、未来を想像したのか遠い目となる。
 俺も、義理の息子が年上になった……。
 それでも沙良は偽装結婚の相手役をしてくれるガーグ老へ、お礼の言葉を述べる。

「ええっと危険なお役目ですが、引き受けて下さりありがとうございます。どうかこれから、よろしくお願いします」

「なに、儂は死なんから大丈夫だわ。サラ……ちゃんを、絶対に未亡人にはせんで安心するがよい」

 この世界にガーグ老を殺れる暗殺者等おらんだろう。
 その点だけは確実と言っていい。
 それにしても相手がガーグ老だと知った妻は、卒倒するかも知れん。
 流石さすがに、そのまま結婚してほしいとは思わないだろう。
 賢也と尚人なおと君は、枯れた老人が相手でほっとするかも……。

 俺達は相手が決まり失意のまま工房を後にする。
 動揺した沙良がヨロヨロしているので、気分転換になると思い王都行きを提案した。

「沙良。ガーグ老から聞いたんだが、王都にドワーフの鍛冶職人がいる店があるらしい。槍術を身に付けたら、もっといい武器が欲しくないか?」

「えっ? この国にドワーフの鍛冶職人がいるの?」

 どうやら娘の気をくのは成功だ。

「ああ、場所も教えてくれたから王都までいけば案内出来るぞ」

 話を聞いた沙良の表情に生気が戻る。
 それから笑顔に変わった。

「いきたい! 私ドワーフは会った事がないの。一度見てみたかったんだよね~。やっぱり背が低くて、ひげもじゃな種族なのかな? いつもお酒を飲んで、赤ら顔をしているのかしら?」

 好奇心旺盛おうせいな沙良が、瞳をキラキラさせて想像を語る。
 いや、そのどれも該当しないが……まぁ見てのお楽しみだろう。
 ヒルダそっくりな娘の注文は、受けてもらえる可能性が高い。
 あのエロ親父が生きていればだが……。
 ドワーフは長命な種族だから、150年後も存命だろう。

 異世界にある沙良の家までいき、そこから王都へ移転した。
 俺は国王時代、いつきに紹介した武器屋へと沙良を連れていく。
 店の前まで歩くと、以前と同じ店名の武器屋があり安心する。
 店がなかったら娘が、がっかりしてしまう所だった。

 店内に入ると、そこにはドワーフの名匠めいしょうバール氏の変わらぬ姿があった。
 沙良は目の前の男性がドワーフだと気付かないようで、店内にいるはずのドワーフらしき人物を探している。
 俺が小声で彼がドワーフだと教えてやると、り「予想外過ぎる……」と呟く。
 まぁ見た目だけなら歴戦の戦士に見えるだろうからな。
 バール氏が俺達に、いや沙良の姿に気付き声を掛けてきた。

「お嬢ちゃん、今日は何を注文するんだ? おや、少し背が低くなったのか? それに胸が……」

 あぁ~、こいつヒルダだった樹を覚えているのか!?
 300年も前に会ったきりだぞ?
 娘は初対面の人物に、背が低くなったと言われきょとんとしている。
 その後に続いた言葉は聞かなかった事にしよう。
 樹だって、エルフの種族にしてはそこそこあった方だ。
 今の娘程ではないが……。

「あの、槍を注文出来ますか? 魔法の性能が付いた物は必要ないので……」

 沙良は、バール氏に早速さっそく注文をお願いしていた。

「今日は剣ではなく槍か? 今使っている物を見せてくれ」

 沙良が武器屋で購入した槍を彼に手渡すと、長さと重さを確認している。

「ふむ、これ以上の鉱物で作ってやろう」

 バール氏は、あっさりと沙良の注文を受けた。
 やはり美人は得なんだな……。

「よろしくお願いします」

 沙良はにっこり笑顔でお礼を言うと、俺に向かい「お父さんはいいの?」と聞いてくる。
 俺は、樹が用意してくれた剣があれば充分だ。

「あぁ、俺の分は……」

「お主、その腰の剣は俺の親父が鍛えた物だな。それを何処どこで手に入れた?」

 まさか、シュウゲンはバール氏の父親だったのか?
 これはまずい事態になった……。

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