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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第544話 椎名 響 22 突然のプロポーズ&ハニービーのコロニー

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 沙良が俺を家へ送り、その夜は至って大人しく眠りに就いた。
 妻に毎晩迷惑を掛けずに済み、ほっとする。
 異世界にきてから毎日激しい衝動に襲われていたが、そろそろ体が若くなった状態に馴染なじんだのだろうか?

 翌日、火曜日。
 美佐子みさこへは、沙良がアシュカナ帝国の王から9番目の妻として狙われている件を話しておく。
 心配させないよう、その対策として偽装結婚させると言ったら、本当に結婚してほしいわとこぼしていた。

 今回の結婚相手は王族を護衛する影衆当主だから、そのまま結婚とはいかないだろう。
 沙良の体がハイエルフの王族である限り、身分差はいかんともしがたい。
 それにいつきが召喚されれば、いずれエルフの国へ里帰りする必要もある。
 娘はエルフの守護神たる存在だ。

 ガーグ老達影衆が護衛している時点で、エルフの国に伝わっているはず
 隠しておく事は出来ないよな……。
 話が済んだ後、妻が作った朝食を食べ今日もこれからダンジョン攻略だ。
 沙良が全員を地下15階へ設置したテント内に移転させる。
 テントから出ると、娘がアマンダ嬢へ直ぐに声を掛けていた。

「アマンダさん、おはようございます。少し相談したいんですが、お時間頂けませんか?」

 沙良が身長差のある彼女へ上目遣いに両手を組み、お願いする様子を見て既視感を覚える。
 なんだか仕草しぐさが、ヒルダだった頃のいつきにそっくりだ。
 いやまぁ、相手は女性だから効果はないだろうが……。

「サラちゃん、おはよう。頼みとあれば、時間ならどれだけでも作るよ。どうしたんだい?」

「実は私、アシュカナ帝国の王に9番目の妻として狙われているみたいで……。ダンジョンに呪具を設置するような国の王へ嫁ぐのは絶対嫌なんです! それで偽装結婚をするんですけど、出来れば相手に結婚した事実を分からせる方法を考えてくれませんか?」

 娘は目をうるませて、アマンダ嬢に言い募る。
 それを聞いた彼女は表情を変え、目を吊り上げて激怒した。
 お願いの効果は、あったようだ……。

「ダンク! 話は聞こえただろう? ダンジョンに呪具を設置した国の王がサラちゃんを狙っているらしい。この事をクラン内に周知徹底させておくれ。不審人物には近付かず、噂をバラまくんだよ!」

 そして対応が早い!

「サラちゃん、心配は要らないよ。私らには恨みがあるからね。冒険者達は協力してくれるだろう。9番目の妻にしようとするなんて、何考えてるんだい! 絶対に、そうはさせないから安心おし」 

「ありがとうございます。私も不安なので助かります」

 娘は感激したようにアマンダ嬢を見つめていた。

「結婚式は盛大に挙げるので、お祝いにきて下さいね~」

「せいぜい派手に祝ってやるよ!」

 ニヤリと笑った彼女が男前過ぎる。
 すると沙良が、アマンダ嬢に近付き両手をしっかり握りしめた。
 嫌な予感がし様子を見ていると、

「アマンダさん。私と結婚して下さい!」

 娘が突然、彼女にプロポーズするではないか!?

「おや? サラちゃん、相手は私でいいのかい? なんなら本当に、お嫁にきてくれてもいいんだよ?」

 アマンダ嬢の真剣味を帯びた声を聞き、これはまずいと口を挟んだ。

「あ~沙良? 相手はもう決まっているだろう? 少し年上だが、偽装結婚の相手に不足はない人だ」

「それは残念だね。私はいつでもOKだよ! 是非ぜひ、本気で考えておくれ」

 俺からの言葉に、彼女はあっさりと引き下がってくれたが……。
 最後に不穏な台詞を残し、攻略へと向かっていった。
 沙良? アマンダ嬢は、そっちのお人らしいぞ?
 お前は女性でも大丈夫なのか?
 同性だからといって反対はしないが、お父さんは男性の方が助かる。

 尚人なおと君は2人の遣り取りを見て、一瞬喜んでいたな……。
 賢也は少し考えているようだった。
 妹の偽装結婚の相手として、再考の余地があると思ったのだろうか。
 何にせよ、相手は影衆当主に決まりだろう。
 
「沙良、そろそろ俺は地下11階にいく。くれぐれも無茶な攻略はしない事。旭、後は頼んだぞ」

「了解! いってらっしゃ~い」  

 賢也は1人で別行動するのか、行先を告げフォレストに乗りさっさと安全地帯を出ていった。
 今日は6人パーティーで攻略するのかと思っていたら、沙良が地下13階に俺を連れていくと言う。
 地下13階に移動した途端、上空からハニービーが沙良のもとへ降りてきた。
 この魔物は沙良の従魔だろう。

 その後、しばらくして突然ブンっという大きな音がすると、キラービーの集団が上空に現れた!
 そして次々に地上へ降り立ち整然と並び出す。
 その光景に唖然あぜんとなる。
 確かに54匹のコロニーを形成していると聞いてはいたが、ここまで統率されている従魔を見るのは初めてだ。

 首にマジックバッグを掛けている1匹のキラービーが、沙良に頭を下げ受け取るよううながす。
 娘はそれを受け取ると、中身をアイテムBOXへ移し再びキラービーの首に掛けてやる。

「お父さん、ハニーとそのコロニーだよ!」

斥候せっこうが、こんなに沢山……」

 俺はまだ、娘のテイム魔法の能力を見誤っていたらしい。
 この従魔達を戦場で使えば戦況が一変するだろう。
 情報は何よりの武器になる。
 しかもこれ程多くいれば、最早死角は存在しないと言っていい。 
 
「このコロニー全体に、お前の指示は伝わるのか?」

 俺は恐る恐る娘に尋ねる。 

「ハニーの眷属扱いだから、皆言う事を聞いてくれるよ! 右に一回転して~」

 沙良の能天気な指示に、54匹のキラービーが従い回転してみせた。

「お前のテイム魔法は、どうなっているんだ……」

 また知られてはならない秘密が増えた事態に頭を抱える。
 あぁ、もうひとつ気になっていた件を聞いておこう。

「それに、ハニーのしま模様の色が変わっているみたいだが……」

 摩天楼まてんろうのダンジョンにいたハニービーは黒と黄色だった。
 何故なぜか、沙良の従魔はピンクと黒になっている。
 
「クインビーに進化中なの。進化したら、コロニーがキングビーに変化するかもね~」 

「そんな話は聞いた事がない……」

 統率する魔物に合わせて、コロニー全体が進化するなど常識外れもいい所だ!
 おかしい、樹はここまで異常な能力はなかったのに……。
 エルフの守護神と呼ばれる存在は、何もかも規格外の能力を持っているんだろうか?

「じゃあ皆、薬草採取を頑張ってね~」

 どうやら娘は、優秀な斥候に成り得る魔物へ薬草採取をお願いしているらしい。
 使役の仕方を間違えているんじゃないだろうか……。
 平和な今はそれでもいいが、戦争になった暁には斥候として役立つ事を願おう。

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