上 下
393 / 709
第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第529話 椎名 響 7 姑の襲来&地獄のLv上げ

しおりを挟む
 朝から特大の爆弾を投げ込まれた気分になった。
 いつきの母親といえばエルフ国の王妃だ。
 
 大方、今回の件について問い詰めにきたのだろう。
 娘が妊娠した途端、毒見役の女官が倒れたと聞けば母親として黙ってはいられない。

 俺は平手打ちを覚悟した方がよさそうだ……。

 他国の王妃を待たせる訳にもいかず、急いで身支度を整え第二王妃の宮へと向かう。
 女官長に樹の部屋へと案内されながら、俺は必死で言い訳を考えていた。

 部屋に入ると中央の椅子に、これまた美しい女性が座っている。
 この人が母親だろう。
 顔は、樹に似ているだろうか?

 ただその王族としての迫力が全然違う。
 見ただけで、圧倒的な存在感に呑まれそうになる。

 初対面の俺は、他国の王妃に対し礼儀を欠かぬよう注意しながら挨拶を述べた。

「王妃様。お初にお目に掛かります、カルドサリ国王のロッセル・カーランドと申します。この度は急な来訪にて、お迎えの準備も整わず申し訳ありません」

 国賓こくひん扱いで迎える事も出来ず、宿泊する宮の手配も済んでいない。
 俺の言葉に、樹の母親は思いもよらない返答を返した。

「突然きたのは私の方だから非礼に値しないわ。それより、貴方Lvが50とかめてるの? 人族は寿命が短いのでしょう? それじゃ、娘と釣り合わないじゃない」

「……はい?」

 俺の方をじっと見つめていたのは、婿の顔を確認するばかりではなかったようだ。
 この方は、どうやら人物鑑定の能力があるらしい。

 通常、身分の低い者が上位者に人物鑑定の魔法を使用するのは不敬とされるが、この場合は問題にならない。
 相手は他国の王妃で更にいうと便宜べんぎ上、妻の母親だからだ。

 とがめる事も出来ず押し黙る。
 一応、鑑定魔法を妨害する魔道具を身に着けていたんだが……。
 
 俺は現在Lv50だという事を誰にも伝えていない。
 それこそ、王妃の一族が警戒する要因を与えたくなかったからだ。

 仕事のない王子時代、お忍びで冒険者をしながら必死に上げたLvを言い当てられ非常に困ってしまう。
 
「あぁそれと、また娘が危険にさらされると困るから、国内の不穏分子は排除させてもらったわ」

 次に何でもないように言われた言葉を聞き、思わず身構えた。

「それは一体、どういう事でしょうか?」

「忘れた訳じゃないでしょ? うちの息子達が交換条件に出したエルフが、この国にいる事を……」

 やられたっ!

 樹の母親は、娘の事を心配してきたのではなかったのか!?
 既に手を回しているというなら、移住許可を出したエルフ達の仕業しわざだろう。

 それは内政干渉に当たる。
 反論しようと口を開きかけた時、王妃に有無を言わさぬ口調でさえぎられた。

「ガーグ老」

「はい、王妃様ここに」

 一瞬で、以前見かけた影衆のご老人が部屋に現れた。

「これから、カーランド国王をLv100まで上げてきて頂戴ちょうだい。王宮も大分風通しが良くなっただろうから、しばらく国王不在でも問題ないはずよ」

「はっ、かしこまりました!」

「それは、幾ら何でも無理です!」

 王妃の提案にぎょっとし、あわてて取り下げてもらおうと口を開く。

「娘の命を危険にさらした事を、これで不問にすると言ってるのよ。精々せいぜい、頑張って早くLvを上げる事ね。私は貴方がLv100になるまで残ります。自己申告に意味がない事は理解出来るでしょう? 国政に関しては何も心配いらないわ」

 無表情で言われた言葉が胸に突き刺さった。
 樹をおとりにした事は、本当に悪かったと後悔している。

 この分じゃ、その件も知られているに違いない。
 俺はそれ以上何も言えず、ガーグ老と呼ばれた老人の後を付いていった。

 部屋を出る際、樹に目をやると何故なぜうらやましそうに見送られたんだが?   
 母親からかばってくれとは言わないが、せめて同情ぐらいしてほしかったよ……。 

 その日から俺は、ガーグ老率いる影衆10人に摩天楼まてんろうのダンジョンへ放り込まれた。

 こんな理由であこがれのドラゴンに乗る事になるとは……。
 緑色のうろこを持つ『風太ふうた』の名付けは、樹がしたのだろう。

 ガーグ老は王妃の指示に従い俺をLv100に上げる事を宣言し、初日から20階まで移動させられた。
 しかも、彼らは姿を隠しているから実質1人でのダンジョン攻略だ。

 おい、それは無茶が過ぎる!
 摩天楼のダンジョンは、A級冒険者以上が攻略する場所だぞ?

 出現する魔物も桁違いに強いはずだ。
 俺は強制的に1人でダンジョン攻略をする事になり、何度も危険な目にった。
 
 ようやく地下20階の安全地帯に辿たどり着く頃には、体力の限界を迎えマジックテントを設置する事すら出来ない状態だ。
 どこで調達したのか、質の良い鎧を着せられたお陰で命があったようなものである。

 朝から何も食べず、王妃と会ったあと直ぐにダンジョン攻略をした所為せいで非常にお腹が空いていた。
 やっと食事にありつけると思った俺に提供されたのは、ガーグ老達が護衛中に食べているらしい、くそ不味い携帯食料だった……。

 えっ!
 もしかして、3食ずっと同じじゃないよな?

 俺の懸念けねんは当たり、翌日の朝出てきたのは同じ物だった!
 栄養だけ・・は取れるという、その携帯食料をダンジョンにいる間ずっと食べさせられる羽目はめになる。

 いくら異世界の食事に不満があっても、ここまでひどいとは……。
 同じ物を食べている彼らに文句を言う事は出来ず、泣く泣く食事に関してはあきらめた。

 あぁ、美佐子みさこの手料理が食べたい。

「王よ! 姫様が寂しがるでしょうから、早くLvを上げて会いにいきますぞ!」

 ガーグ老達はやる気満々で、次々に階層を上げていく。
 確かに、魔物を1人で倒した方がLvは上がりやすい。

 これは、なんとなく経験から感じていた。
 パーティーで倒すと、魔物から得られる経験値が分散される可能性がある。

 だからといって1人でダンジョン攻略させるのは、どうかと思うが……。

 摩天楼のダンジョンに潜り、3ヶ月。
 俺のLvは50から70に上がっていた。
 現在の攻略階層は30階だ。

 本当に危ない時以外、ガーグ老達は手助けせずほとんどの魔物を俺1人で倒している。
 国がどうなっているかも心配だし、そろそろ一度地上に帰還したいと言うと了承してくれたのでダンジョンを出た。

 ガーグ老が竜笛を吹くと、行きに乗せてくれた『風太』が程なく上空に姿を現す。
 この竜は風竜なので、かなりの速度で飛ぶ事が出来るらしい。

 エルフの国から別大陸にあるカルドサリ王国へ翌日到着するくらいだから、相当な速さなんだろう。
 騎乗出来る従魔の中では最速である事に間違いない。

 再び『風太』の背に乗り数時間後、王宮に戻ってきた。
 王が不在の状態で本当に問題がなかったのか、一番に宰相を訪ね確認する。

 俺がいない間に、第一王妃の実家で押収した書類に記載されていた貴族達は全員死亡。
 一時的に前王が玉座に座り、国賓こくひんの対応をしていたそうだ。

 勿論もちろん、第一王妃とその一族は処刑済み。
 3歳だった王子は廃嫡はいちゃくとなる。

 もう色々な事が全て終わり、事後処理も完璧。
 国政に関して問題は何ひとつ見当たらなかった。
 それをしたのが、他国の王妃でなければ……。

 樹は王宮から姿を消し、王都近くの森に移ったらしい。
 俺は腹の子に会いにガーグ老達と森へ行った。

 6ケ月になる樹のお腹は大きくなっており、その姿を見て順調に育っている事を知り安心する。
 お腹に手を当てて「お父さんだよ」と声を掛けると、樹が「ケッ」と舌打ちした。

 おい!
 気に入らないのは分かるが、子供に聞こえるじゃないか!

 その後も、Lv上げの合間を縫い度々樹のもとを訪れた。
 見る度に大きくなるお腹を抱えて、樹が不安そうにしている。

 マタニティブルーだろうか?
 俺は心配になり、Lv上げの速度を速める事にした。
 
 国が乗っ取られる前に、エルフ国の王妃には早く帰国してもらいたいしな。
 産み月が近くなる頃、やっとLv100に達する。

 王妃は俺のステータスを確認すると、樹にお腹の子は女の子だと教え帰国していった。
 本当は出産に立ち会いたかったようだが、長く国を空けすぎたらしい。

 情緒不安定な樹の下に俺はなるべく顔を出す事にする。
 喧嘩けんか出来るくらい元気なら大丈夫、そう思って……。

 そしてついに、樹が出産の日を迎えた。

 -------------------------------------
 お気に入り登録をして下さった方、エールを送って下さった方とても感謝しています。
 読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
 応援して下さる皆様がいて大変励みになっています。
 これからもよろしくお願い致します。
 -------------------------------------
しおりを挟む
感想 2,333

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転生皇女は冷酷皇帝陛下に溺愛されるが夢は冒険者です!

akechi
ファンタジー
アウラード大帝国の第四皇女として生まれたアレクシア。だが、母親である側妃からは愛されず、父親である皇帝ルシアードには会った事もなかった…が、アレクシアは蔑ろにされているのを良いことに自由を満喫していた。 そう、アレクシアは前世の記憶を持って生まれたのだ。前世は大賢者として伝説になっているアリアナという女性だ。アレクシアは昔の知恵を使い、様々な事件を解決していく内に昔の仲間と再会したりと皆に愛されていくお話。 ※コメディ寄りです。

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!

udonlevel2
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。 皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。 この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。 召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。 確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!? 「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」 気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。 ★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします! ★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。