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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第524話 椎名 響 2 カルドサリ国王の即位式

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 ひどい頭痛で目が覚めた。
 将棋を指していた最中に意識を失った事を思い出し、倒れたいつきの姿を探そうと周囲を見て愕然がくぜんとする。

 一体、ここは何処どこだ?

 見る限り自宅でない事は明らかだった。
 かなり広い部屋の中央に設置された、天蓋てんがい付きのベッドにいるらしい。

 妻が見付け病院に運ばれたにしては、室内の様子がおかし過ぎる。
 どう考えても、病室には見えなかったからだ。

 なんだか昔の貴族が住むような豪奢ごうしゃに飾られた部屋をぼうっと見ていると、唐突に記憶が湧き上がってくる。

 しかも30年分一気に!
 自分がカルドサリ王国の第一王子であると認識する。  
 それと同時に、椎名しいな ひびきの記憶も同化したようだ。

 これは所謂いわゆる、前世の記憶を持ったままの転生ってやつなのか?
 何故なぜ30年も経ってから……。

 日本での経験を活かせという事か?
 この状況で?

 現在カルドサリ王国は王政を敷いているが、有力貴族に権力を握られ実権がないに等しいものになっていた。

 王の右腕である宰相だけが、王権を必死に守ろうと頑張っている状態だ。
 ただ肝心の王が、自分はお飾りで良いと覇気はきを見せなくなり久しい。

 王族の権威はなくなり、王妃の一族が宮廷を牛耳ぎゅうじっている始末。
 ちなみに俺の妻も、王妃の一族出身だ。

 王宮内の第一派閥である筆頭貴族の娘。
 完全な政略結婚のため、響としての記憶を思い出す前からこの相手とは距離をおいていた。

 当然、寝室は別でねやを共にした事もない。
 この妻との間には3歳の息子が1人いたが、それもエルフの【秘伝薬】に頼ったもので行為自体はしなかった。
 まだ幼いからと会わせてももらえず、本当にいるかどうかも不明なんだが……。

 顔だけは綺麗な容姿の妻は、プライドが何より高く浪費家で知性も教養もない女である。
 いつも上から目線でものを言う態度に辟易へきえきとしていた。
 そんな相手とベッドを共にしたいと誰が思うものか。

 よく考えたら、この体はまだ童貞なんじゃ?
 30歳でそれはどうだろう……。

 いや既に結婚している身で不貞行為を行う訳にはいかないが、今の妻より美佐子みさこに悪い。
 響としての記憶が戻った今、日本にいる家族が俺の守るべき相手だ。

 俺はもう、妻にも子供達にも会えないんだろうか?
 長男の賢也は、まだ9歳なのに……。
 2人の娘も俺の事を恋しがり泣いているかも知れない。

 それに、あの場にいた樹はどうなったんだ?
 俺と同じように、この世界に転生していたりしないだろうか……。

 目覚めてから、つらつらとそんな事を考えていると扉をノックされた。
 応答すると、侍従長が部屋に入ってくる。

「王子様。王がお呼びでございます。今直ぐに、ご支度願いますでしょうか」

「あぁ、分かった。……大丈夫だ、自分で出来る」

 着替えを手伝おうとする侍従長を制し、俺は1人で身支度を整えた。
 この王族ってやつは、記憶が戻った状態だと中々に不便だな。

 その後、王の寝室に行き伝えられたのは王位を譲るという言葉だった……。

 王の座に居続けるのが耐えられなかったのだろう。
 大きく見えたその体は、今や縮こまり顔には深いしわが刻まれている。

 なけなしの王権をそれでも守り続けた王へ、俺はこれ以上何も言えずただ了承した。

 これで俺が王位を継げば、王妃となる妻の父親がまた幅を利かせる事になると知りながらどうする事も出来なかった。

 王宮に俺の味方はいない。
 弟の第二王子は病で亡くなり、第三王子は領地を与えられ既に王宮を出ていた。

 これからの事を思うと、その前途多難な道筋に頭を抱えたくなる。
 腐敗した有力貴族が、国の中枢ちゅうすうにいる現状を変える事が出来るだろうか?

 記憶が戻ってから即位式まで、時間はあっという間に過ぎていく。
 交易のある主要国に連絡を出し、その来賓らいひん者達への対応で王宮内はバタバタとしていた。

 無事に即位式が終わると、夜には晩餐ばんさん会が待っている。
 王族と同席するのは、外交上最も重要な国の来賓者だ。

 この世界の貴族に必要である【秘伝薬】を貿易品とするエルフの代表者が、俺の隣に座る事になる。

 エルフの国には王女もいたのか……。
 俺が今まで会った事があるのは、兄の王子達だけだった。

 その種族にたがわぬ、とても美しい容姿を持つ女性だ。
 ただ、どことなく勝気な性格がその好奇心旺盛おうせいな瞳からうかがえる。

 今も、テーブル一杯にきょうされた料理を見て何を食べようかと迷っているようだ。
 そして一口食べた後、がっかりした表情を見せる。

 だよな……。

 響の記憶が戻ってから、この世界の食べ物を美味しいと感じられなくなってしまった。
 調味料が少なすぎるのか、味に変化がない。
 料理された物は見栄みばえ重視で、美佐子の手料理と比べると天と地の差がある。

 大きな溜息を吐き、彼女が小さな声で呟いた。

「ハンバーガーが食べたい……」

 だから同じ事を考えていた俺は、つい彼女の言葉に返事を返す。

「俺は、テリヤキ味が好きだった……」

 言って、はっ!? となった。

 今、ハンバーガーって確かに聞こえたよな?
 もしかして、彼女は地球で生まれた記憶を持つ転生者か?

 向こうも同じ事に気付いたのだろう。
 驚いたのか目を瞬かせていた……。

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