上 下
425 / 754
第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第515話 冒険者ギルドマスター オリビア・ハーレイの災難 2 ダンジョンに設置された呪具

しおりを挟む
 『毒消しポーション』の販売を知り薬師ギルドに向かおうとした所、受付嬢がノックもせず息を切らして部屋に飛び込んできた。

 何か問題が起こったのかと私は身構える。
 この受付嬢はサラ様を担当している者だ。
 年齢の割に目端が利くから重宝している。
 それに人族には珍しく人物鑑定の魔法も持っていた。

 受付嬢は一度大きく息を吸い込み呼吸を整えると、

「アマンダさんとサラさんのパーティーがマスターにお会いしたいそうです。既に会議室へお通ししています」

 と告げた。

 攻略始めの月曜日に、アマンダさんとサラ様のパーティーが会いにくるなんて嫌な予感しかしない。

「分かった、連絡ありがとう。直ぐにいく」

 扉を押さえ立っている受付嬢の横を走り抜け、会議室へと急いだ。
 部屋に入ると、皆の表情が思わしくない。
 やはり、何かあったのか……。

「時間が惜しいから、挨拶は抜きだよ。サラちゃん、呪具をテーブルの上に出しておくれ」

 私の顔を見た瞬間、アマンダさんが用件を話し出す。
 そしてサラ様が取り出された丸い球状の物を見て顔色が変わった。

 既に無色になっているのは、効果が切れた状態の呪具だ。
 一体、なんでこんな物をサラ様が持っていらっしゃるのか……。 
 
「見た通りの禁制品が、地下14階と地下13階のダンジョン内で発見された。色は赤紫・赤緑・黒だよ。この6個は、もう効果が切れている。今日地下1階から地下14階まで攻略中に、魔物の数が異様に多かった原因だろう。まだ他にもありそうだけど、ギルドマスターに伝えるために帰還してきた」

 アマンダさんは、呪具がダンジョンで発見された事を知らせにきたようだ。
 しかしその呪具の色を聞き、更に驚く事になる。

 効果時間の違う3色の呪具をダンジョンに設置するとは、これはもしやアシュカナ帝国の仕業か?
 禁制品の呪具は浄化の魔法でないと解除は出来ないし、購入するにもかなり高額になる。
 一個人が持てる品ではない。

 そういえば、あの国の諜報員が道端で亡くなっている話を耳にした。
 この件に関してはサラ様の周囲に危険人物がいると判断した、『万象』達が処理していると思っていたが……。

 何やらきな臭い話になってそうだ。
 魔物の出現率を上げる呪具を、ダンジョンに設置するとは卑劣ひれつな真似をしてくれる。
 それも王族がいる、この迷宮都市のダンジョンに!

 私はアマンダさんに知らせてくれた礼を言い、冒険者の身を案じた。
 彼女は既に呪具が設置されている事を、攻略中の冒険者達へ連絡する指示を出してくれたらしい。

 ここからは時間との勝負になるな。
 設置された呪具を発見し、解除を行う必要がある。

 報告だけなら、何故なぜサラ様のパーティーも一緒にこられたのか?
 理由を確認すると、今日発売になった『毒消しポーション』で呪具の解除が可能か調べたいとおっしゃる。

 そもそも、その『毒消しポーション』の件で頭を悩ませていたんですよ……。
 だが、これは案外試してみる価値があるかも知れないな。

 現在、カルドサリ王国内にいるハーフエルフ達に浄化の魔法を使える者はいない。
 光魔法のヒールを使用出来る者は多いが……。
 浄化となると余程光の精霊に好かれなければ、願いを聞いてもらえないだろう。

 治癒術師の御二方が浄化をして回るのは、能力がバレる観点から避けたい。
 そうなると教会の司教に依頼する事になる。
 あの腰の重い人物を、ダンジョンに連れていくとなれば教会が黙ってはいないだろう。

 少なくとも護衛の人数は30人以上要求するだろうし、1回の浄化金額もダンジョン価格を請求されそうだ。

 思い悩んでいる時間が惜しいので、私は薬師ギルドに行く事を告げた。
 まぁ、あそこのギルドマスターは白狼族の出身だから話も早いだろう。
 獣人はとにかく鼻が利く。

 サラ様とお会いしたのなら、エルフだと気付いているはずだ。
 秘匿情報も理解してくれるに違いない。

 薬師ギルドに到着するなり、受付嬢へギルドマスターに会いにきた事を伝えた。
 それほど待つ事なくゼリア様が現れる。

 この方は、長命な白狼族でもかなり高齢だ。
 ハイエルフの王族同様、平均寿命が1,000歳を超えると聞く。

 父が冒険者ギルドマスターの代から、薬師ギルドマスターをしていたらしいから当然私よりも年上になられる。
 薬師達は人前に姿を滅多に現さないから、知っている者はほとんどいないが……。

 私は目上の人に対して礼を失する事のないよう、言葉を選び『毒消しポーション』の効能を調べたい事を伝えた。
 話を聞いたゼリア様が場所を移すことを提案される。

 受付嬢のいる前で話す内容ではないと判断してもらえたのだろう。
 応接室に入るなり、時間が惜しいとばかり話を切り出した。

 ダンジョンに呪具が設置された事を知り、ゼリア様の表情が見る見るうちに険しくなっていく。
 『毒消しポーション』が呪具の解除に使用出来ないか相談すると、アマンダさんの方をちらりと見てサラ様に信用出来る相手かどうか確認された。

 彼女はこの迷宮都市がある、リザルト公爵令嬢だ。
 自領内の大問題が解決されるのを、誰よりも願っているだろう。
 それにまだダンジョン内には、彼女のクランメンバーも沢山残っている。

 サラ様はゼリア様の問いに大丈夫だと答えを返された。
 冒険者とは良好な関係を築いておられるらしい。

 その後、ゼリア様は他言無用だとアマンダさんに念を押し、独り言を呟かれた。

ついでにちょっと独り言を言わせてもらおうか。じじいども、話は聞いたね。手出し無用だよ。うちの族長に喧嘩を売るのは止めた方がいい。それと出遅れた息子達に言って、人手が足りない分は対処しておくれ。あんた達の大切な姫様は、少し抜けているから心配だろうがね」
    
 えっ!?
 サラ様の護衛に就いている影衆達に気付かれた?
 姿が見えないのにどうやって!?

 影衆の傍流ぼうりゅう出身である私でさえ、気配を感じる事は出来ないというのに……。

 流石さすが白狼族。
 戦闘集団で名をせている種族だけの事はある。
 もしや族長の一族出身で、変態可能な方なのか?

 ゼリア様に見抜かれたと知り、一瞬だけ影衆達の気配が揺らいだのを感じた。
 まさか血統魔法である『迷彩』を見破られるとは思わず動揺したのだろう。

 けれどゼリア様。
 突然室内にいない人間の話をされた皆が、口を大きく開けてポカーンとしていますよ?

 治癒術師の御二方は存在をご存じないかもしれませんが、一緒にサラ様も驚いているのは何故なぜですか?
 『存在を秘匿された御方』であるサラ様に、24時間体制で護衛が付いている事はご存じですよね?

 それとも意外に演技派でいらっしゃる?

 -------------------------------------
 お気に入り登録をして下さった方、エールを送って下さった方とても感謝しています。
 読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
 応援して下さる皆様がいて大変励みになっています。
 これからもよろしくお願い致します。
 -------------------------------------
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

最強で美人なお飾り嫁(♂)は無自覚に無双する

竜鳴躍
BL
ミリオン=フィッシュ(旧姓:バード)はフィッシュ伯爵家のお飾り嫁で、オメガだけど冴えない男の子。と、いうことになっている。だが実家の義母さえ知らない。夫も知らない。彼が陛下から信頼も厚い美貌の勇者であることを。 幼い頃に死別した両親。乗っ取られた家。幼馴染の王子様と彼を狙う従妹。 白い結婚で離縁を狙いながら、実は転生者の主人公は今日も勇者稼業で自分のお財布を豊かにしています。

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました

桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて… 小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。 この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。 そして小さな治療院で働く普通の女性だ。 ただ普通ではなかったのは「性欲」 前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは… その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。 こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。 もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。 特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

姫プレイがやりたくてトップランカー辞めました!

椿原 守
BL
上月千尋(コウヅキチヒロ)は人気VRMMOのランキング上位チームに所属していた戦士だった。 ある日、性別や名前を変更できる課金アイテムが追加された。(※ただし使用は1回切り) ゲームアップデートが無ければ、先行攻略組こと通称ガチ勢はやることが少ない。 ここ最近、マンネリを覚えていたチヒロはこれを機に男キャラから女キャラへ転身を決意。 ちょうど良い機会だからと、ずっとやってみたかった姫プレイ(ネカマプレイ)を始めてみることにした。 あれ? 楽勝ウハウハの貢がれプレイを期待してたのに、なんか思うように上手くいかないんですけど!? ※ムーンライトノベルズにも掲載中です。

愛を知らない僕は死んじゃう前に愛を知りたい

しおりんごん
BL
「そうか、ぼくは18さいでしんじゃうんだ。」 僕、ルティアーヌ・モーリスは いわゆる異世界転生をした元日本人だった   前世の記憶をたどり、、、思い出したことは、、、 ここはBL小説の世界だった そして僕は、誰からも愛されていない 悪役令息 学園の卒業パーティーで主人公を暗殺しようとして失敗した後 自分の中の魔力が暴走して 耐えきれなくなり、、、 誰とも関わりを持たなかった彼は 誰にも知られずに森の中で一人で 死んでしまう。 誰も話してくれない 誰も助けてくれない 誰も愛してくれない 、、、、、、、、、。 まぁ、いいか、、、前世と同じだ 「でも、、、ほんの少しでいいから、、、        、、、愛されてみたい。」 ※虐待・暴力表現があります (第一章 第二章の所々) ※主人公がかなりネガティブで病んでいます(第一章 第二章の所々) ※それでも超超超溺愛のストーリーです ※固定カプは後々決まると思いますが 今現在は主人公総受けの状況です ※虐待・暴力表現など、いろいろなきついシーンがある話には※をつけておきます ※第三章あたりからコメディ要素強めです ※所々シリアス展開があります

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。