上 下
379 / 709
第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第515話 冒険者ギルドマスター オリビア・ハーレイの災難 2 ダンジョンに設置された呪具

しおりを挟む
 『毒消しポーション』の販売を知り薬師ギルドに向かおうとした所、受付嬢がノックもせず息を切らして部屋に飛び込んできた。

 何か問題が起こったのかと私は身構える。
 この受付嬢はサラ様を担当している者だ。
 年齢の割に目端が利くから重宝している。
 それに人族には珍しく人物鑑定の魔法も持っていた。

 受付嬢は一度大きく息を吸い込み呼吸を整えると、

「アマンダさんとサラさんのパーティーがマスターにお会いしたいそうです。既に会議室へお通ししています」

 と告げた。

 攻略始めの月曜日に、アマンダさんとサラ様のパーティーが会いにくるなんて嫌な予感しかしない。

「分かった、連絡ありがとう。直ぐにいく」

 扉を押さえ立っている受付嬢の横を走り抜け、会議室へと急いだ。
 部屋に入ると、皆の表情が思わしくない。
 やはり、何かあったのか……。

「時間が惜しいから、挨拶は抜きだよ。サラちゃん、呪具をテーブルの上に出しておくれ」

 私の顔を見た瞬間、アマンダさんが用件を話し出す。
 そしてサラ様が取り出された丸い球状の物を見て顔色が変わった。

 既に無色になっているのは、効果が切れた状態の呪具だ。
 一体、なんでこんな物をサラ様が持っていらっしゃるのか……。 
 
「見た通りの禁制品が、地下14階と地下13階のダンジョン内で発見された。色は赤紫・赤緑・黒だよ。この6個は、もう効果が切れている。今日地下1階から地下14階まで攻略中に、魔物の数が異様に多かった原因だろう。まだ他にもありそうだけど、ギルドマスターに伝えるために帰還してきた」

 アマンダさんは、呪具がダンジョンで発見された事を知らせにきたようだ。
 しかしその呪具の色を聞き、更に驚く事になる。

 効果時間の違う3色の呪具をダンジョンに設置するとは、これはもしやアシュカナ帝国の仕業か?
 禁制品の呪具は浄化の魔法でないと解除は出来ないし、購入するにもかなり高額になる。
 一個人が持てる品ではない。

 そういえば、あの国の諜報員が道端で亡くなっている話を耳にした。
 この件に関してはサラ様の周囲に危険人物がいると判断した、『万象』達が処理していると思っていたが……。

 何やらきな臭い話になってそうだ。
 魔物の出現率を上げる呪具を、ダンジョンに設置するとは卑劣ひれつな真似をしてくれる。
 それも王族がいる、この迷宮都市のダンジョンに!

 私はアマンダさんに知らせてくれた礼を言い、冒険者の身を案じた。
 彼女は既に呪具が設置されている事を、攻略中の冒険者達へ連絡する指示を出してくれたらしい。

 ここからは時間との勝負になるな。
 設置された呪具を発見し、解除を行う必要がある。

 報告だけなら、何故なぜサラ様のパーティーも一緒にこられたのか?
 理由を確認すると、今日発売になった『毒消しポーション』で呪具の解除が可能か調べたいとおっしゃる。

 そもそも、その『毒消しポーション』の件で頭を悩ませていたんですよ……。
 だが、これは案外試してみる価値があるかも知れないな。

 現在、カルドサリ王国内にいるハーフエルフ達に浄化の魔法を使える者はいない。
 光魔法のヒールを使用出来る者は多いが……。
 浄化となると余程光の精霊に好かれなければ、願いを聞いてもらえないだろう。

 治癒術師の御二方が浄化をして回るのは、能力がバレる観点から避けたい。
 そうなると教会の司教に依頼する事になる。
 あの腰の重い人物を、ダンジョンに連れていくとなれば教会が黙ってはいないだろう。

 少なくとも護衛の人数は30人以上要求するだろうし、1回の浄化金額もダンジョン価格を請求されそうだ。

 思い悩んでいる時間が惜しいので、私は薬師ギルドに行く事を告げた。
 まぁ、あそこのギルドマスターは白狼族の出身だから話も早いだろう。
 獣人はとにかく鼻が利く。

 サラ様とお会いしたのなら、エルフだと気付いているはずだ。
 秘匿情報も理解してくれるに違いない。

 薬師ギルドに到着するなり、受付嬢へギルドマスターに会いにきた事を伝えた。
 それほど待つ事なくゼリア様が現れる。

 この方は、長命な白狼族でもかなり高齢だ。
 ハイエルフの王族同様、平均寿命が1,000歳を超えると聞く。

 父が冒険者ギルドマスターの代から、薬師ギルドマスターをしていたらしいから当然私よりも年上になられる。
 薬師達は人前に姿を滅多に現さないから、知っている者はほとんどいないが……。

 私は目上の人に対して礼を失する事のないよう、言葉を選び『毒消しポーション』の効能を調べたい事を伝えた。
 話を聞いたゼリア様が場所を移すことを提案される。

 受付嬢のいる前で話す内容ではないと判断してもらえたのだろう。
 応接室に入るなり、時間が惜しいとばかり話を切り出した。

 ダンジョンに呪具が設置された事を知り、ゼリア様の表情が見る見るうちに険しくなっていく。
 『毒消しポーション』が呪具の解除に使用出来ないか相談すると、アマンダさんの方をちらりと見てサラ様に信用出来る相手かどうか確認された。

 彼女はこの迷宮都市がある、リザルト公爵令嬢だ。
 自領内の大問題が解決されるのを、誰よりも願っているだろう。
 それにまだダンジョン内には、彼女のクランメンバーも沢山残っている。

 サラ様はゼリア様の問いに大丈夫だと答えを返された。
 冒険者とは良好な関係を築いておられるらしい。

 その後、ゼリア様は他言無用だとアマンダさんに念を押し、独り言を呟かれた。

ついでにちょっと独り言を言わせてもらおうか。じじいども、話は聞いたね。手出し無用だよ。うちの族長に喧嘩を売るのは止めた方がいい。それと出遅れた息子達に言って、人手が足りない分は対処しておくれ。あんた達の大切な姫様は、少し抜けているから心配だろうがね」
    
 えっ!?
 サラ様の護衛に就いている影衆達に気付かれた?
 姿が見えないのにどうやって!?

 影衆の傍流ぼうりゅう出身である私でさえ、気配を感じる事は出来ないというのに……。

 流石さすが白狼族。
 戦闘集団で名をせている種族だけの事はある。
 もしや族長の一族出身で、変態可能な方なのか?

 ゼリア様に見抜かれたと知り、一瞬だけ影衆達の気配が揺らいだのを感じた。
 まさか血統魔法である『迷彩』を見破られるとは思わず動揺したのだろう。

 けれどゼリア様。
 突然室内にいない人間の話をされた皆が、口を大きく開けてポカーンとしていますよ?

 治癒術師の御二方は存在をご存じないかもしれませんが、一緒にサラ様も驚いているのは何故なぜですか?
 『存在を秘匿された御方』であるサラ様に、24時間体制で護衛が付いている事はご存じですよね?

 それとも意外に演技派でいらっしゃる?

 -------------------------------------
 お気に入り登録をして下さった方、エールを送って下さった方とても感謝しています。
 読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
 応援して下さる皆様がいて大変励みになっています。
 これからもよろしくお願い致します。
 -------------------------------------
しおりを挟む
感想 2,333

あなたにおすすめの小説

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。